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Internally Flawless
04 同僚 06
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「ねえ。スイさん。スイさんって付き合ってる人とかいるの?」
胸につっかえたものを流し込もうと、一口グラスに口をつけると、ケンジが横から聞いてきた。どことなく緊張した声だ。
「……あーどうだろ?」
この話題は話したくない。スイは思う。
付き合ってる人と言われて、思い出さないわけがないからだ。
ユキとはもちろん、毎日連絡を取っている。忙しい時はLINEを送るくらいしかできないけれど、合間を見つけては電話をすることもあった。
しかし、アキとはまったく連絡を取っていない。思い出すと、声が聞きたくて切なくなった。
「年下とか、無理?」
無理。なわけではない。アキもユキも自分より年下だ。特にユキは10歳も。
アキやユキならいい。けれど、君は無理。とは言えなかった。
「や。えっと……」
何と答えたらいいのか分からなくて、口籠ってしまう。この場では無理と言ってしまえば楽なのかもしれない。でも、アキやユキのことを嫌だと言っているようで、そういう嘘が今は嫌だった。
「あースイさんここにいたの?」
まるで、そんなスイに助け舟を出すかのように、突然隣にどかっと座ってきたのはナオだった。
「こんな端っこに居て、おっさんたちの相手しないでズルいよ!」
背中を叩いて、大袈裟な声をだして、ナオが言う。
「あ。ケンジ君も。アイ先生が呼んでたよ。俺じゃあのオネエ様のお相手は無理。あと、よろしくお願いします」
最初は『えー?』と、不服そうに声を上げたケンジだったが、ケンジを可愛がっている舞台の演出家の名前を出すと、彼は立ち上がってしぶしぶといった様子で舞台の演出家の先生の元へと向かった。
「大丈夫?」
二人になると、ナオが小さい声で聞いてきた。
「ありがと」
スイも小さな声で答える。困っているのを見て、助けに来てくれたらしい。『白馬の王子様』というには、少しばかり頼りないが、さっきのケンジよりはよっぽど頼りがいがあると思う。
「スイさん。そろそろ帰った方がいいよ。女の子少ないから、あっちのお偉い系のおっさんにおしゃくさせられるから」
ナオの言葉にふと視線を移すと、赤ら顔のおっさんたちが盛り上がって、マリやルナに絡んでいた。そのうちの数人はちらちら。と、ナオと話すスイを見ている。
「……でも」
折角多くの人間が集まるような苦手な場所に出てきたというのに、有益な情報を得られたかどうか怪しい。人が多いところは苦手だ。単にコミュ障というだけではない。怖いのだ。こうして話している間も、人混みの中に見つけたくない相手を見つけてしまうかもしれないと想像すること。だから、上手く集中することができなかった。
「情報収集とか、そゆの。俺に任せといて。大体、スイさんにおっさんのおしゃくさせたとか……アキさんにバレたら、殺される」
アキの名前が出てきたことで、少し、いや、かなり気持ちがなえた。多分、ここではスイは役立たずだ。家でパソコンに向かっていた方がもう少しは役に立てるだろう。
「ん。わかった。帰る」
珍しく素直に提案を受け入れるスイに少し驚いた顔をしてから、ナオは、ぽん。と、スイの背中をたたいた。
「明日も仕事だし、ゆっくり休んで?」
言われるままに立ち上がり、会費をナオに渡そうとすると、『経費で落とすよ』と耳元に囁かれた。
胸につっかえたものを流し込もうと、一口グラスに口をつけると、ケンジが横から聞いてきた。どことなく緊張した声だ。
「……あーどうだろ?」
この話題は話したくない。スイは思う。
付き合ってる人と言われて、思い出さないわけがないからだ。
ユキとはもちろん、毎日連絡を取っている。忙しい時はLINEを送るくらいしかできないけれど、合間を見つけては電話をすることもあった。
しかし、アキとはまったく連絡を取っていない。思い出すと、声が聞きたくて切なくなった。
「年下とか、無理?」
無理。なわけではない。アキもユキも自分より年下だ。特にユキは10歳も。
アキやユキならいい。けれど、君は無理。とは言えなかった。
「や。えっと……」
何と答えたらいいのか分からなくて、口籠ってしまう。この場では無理と言ってしまえば楽なのかもしれない。でも、アキやユキのことを嫌だと言っているようで、そういう嘘が今は嫌だった。
「あースイさんここにいたの?」
まるで、そんなスイに助け舟を出すかのように、突然隣にどかっと座ってきたのはナオだった。
「こんな端っこに居て、おっさんたちの相手しないでズルいよ!」
背中を叩いて、大袈裟な声をだして、ナオが言う。
「あ。ケンジ君も。アイ先生が呼んでたよ。俺じゃあのオネエ様のお相手は無理。あと、よろしくお願いします」
最初は『えー?』と、不服そうに声を上げたケンジだったが、ケンジを可愛がっている舞台の演出家の名前を出すと、彼は立ち上がってしぶしぶといった様子で舞台の演出家の先生の元へと向かった。
「大丈夫?」
二人になると、ナオが小さい声で聞いてきた。
「ありがと」
スイも小さな声で答える。困っているのを見て、助けに来てくれたらしい。『白馬の王子様』というには、少しばかり頼りないが、さっきのケンジよりはよっぽど頼りがいがあると思う。
「スイさん。そろそろ帰った方がいいよ。女の子少ないから、あっちのお偉い系のおっさんにおしゃくさせられるから」
ナオの言葉にふと視線を移すと、赤ら顔のおっさんたちが盛り上がって、マリやルナに絡んでいた。そのうちの数人はちらちら。と、ナオと話すスイを見ている。
「……でも」
折角多くの人間が集まるような苦手な場所に出てきたというのに、有益な情報を得られたかどうか怪しい。人が多いところは苦手だ。単にコミュ障というだけではない。怖いのだ。こうして話している間も、人混みの中に見つけたくない相手を見つけてしまうかもしれないと想像すること。だから、上手く集中することができなかった。
「情報収集とか、そゆの。俺に任せといて。大体、スイさんにおっさんのおしゃくさせたとか……アキさんにバレたら、殺される」
アキの名前が出てきたことで、少し、いや、かなり気持ちがなえた。多分、ここではスイは役立たずだ。家でパソコンに向かっていた方がもう少しは役に立てるだろう。
「ん。わかった。帰る」
珍しく素直に提案を受け入れるスイに少し驚いた顔をしてから、ナオは、ぽん。と、スイの背中をたたいた。
「明日も仕事だし、ゆっくり休んで?」
言われるままに立ち上がり、会費をナオに渡そうとすると、『経費で落とすよ』と耳元に囁かれた。
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