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Internally Flawless
04 同僚 02
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「みんな仲いいんだ」
スイは、営業用スマイルを張り付けて問いかける。
その笑顔はあくまで表面上の仮面だ。おとり捜査だということを知られてはいけない。同じように、もし、にこやかで明るく、友好的な彼らにだって心に隠した何かがあるかもしれない。だとしても、スイにはそれを見抜ける気がしない。こんな職種のせいだろうか、皆少し。というより、かなり個性が強い。そんなパーソナリティーにばかり目がいって、そもそも人付き合いが苦手なスイにはその仮面に隠されているかもしれない何かを探す自信はなかった。
それでも、これも、『情報収集』という、れっきとした仕事なのだ。苦手だからと言って諦めて退散するわけにはいかなかった。
「んー。そうね。何回か一緒に『キングスクラウン』の仕事してるし、別の現場で会うこともあるし」
ルナが先陣を切って応えた。キングスクラウンというのは、今回のショーのブランドの名前だ。10代から20代の女性に特に人気があるブランドだが、近年メンズファッションにも力を入れていて、今回のショーではどちらのモデルも参加することになっている。
「結構、辛い仕事多いから、戦友的な? そんな感じかな」
ケンジが相槌を打つ。
「力仕事多いし、残業、徹夜当たり前だしだから、よくバイト逃げ出すよね~」
この情報はマリだ。
「そうです……よね。だ、だから、慢性的に人不足だし」
おどおどとルイがつづける。
「でも、こんなバイト。どこで見つけるの? 俺は派遣だけど」
そこで、スイが口をはさむ。
警察が用意した設定ではスイはイベント運営会社からの派遣ということになっている。もちろん、その会社には警察の息がかかっていて、ナオとともにPCの専門家という触れ込みでほぼ強引にこの仕事に割り込んだのだ。
「俺は前にやってた先輩から誘われてさ。その人はもうやめちゃったけど……SNSの#K県#ファッションブランド#バイトでその人のSNS見つけて、やりとりしているうちに仲良くなったんだよ」
スイに興味を持ってもらったのが嬉しいのか、ケンジが手を上げて答える。
「あー。ナオトでしょ? 懐かしー。私も前にいた人に誘われたな。なんて言ったっけ? ええっと」
ぐいっ。と、ジョッキを傾けて、ぷはっ。と、酒臭い息を吐いてから、マリが相槌をうった。
「キリシマさんでしょう? お……俺もそうだし」
マリの言葉をルイが補足する。いちいちどもった後に、ちら。と、スイを見てくるのが何だか怖い。
「キリシマさんは覚えてるな。すごく綺麗なコだったよね。青い髪と紫の瞳が印象的だった」
横で聞いていたタイガが口を挟んでくる。キリシマという人物も少し変わった髪色を持っていた人物らしい。
「彼女がいた時は俺もまだモデルやってたけど、あのコ、かなり才能あったと思うんだけど、田舎かえっちゃったんだよな?」
誰にともなく続けてタイガが問いかける。
「え? 私は、彼氏と駆け落ちしたってきいたけど?」
ルナが枝豆を口に放り込みながら言った。自分の発言に対した確証はなさそうだった。
「私はあんまよく知らないけど。いつの間にかいなくなってた感じ。てか、この仕事って入れ替わり激しいでしょ? 私たちみたいに長くいる方が珍しくない?」
マリが言った。ようは誰も詳しいことは知らないということだろう。
別にファッション業界だけではないとは思う。言ってしまえば、『ハウンド』なんて、もっと入れ替わりが激しい。しかも、いなくなる時は大抵、警察のご厄介になるか、海外に高跳びするか、海に沈むか、路地裏に捨てられるか、どんな末路にせよ普通に太陽の元を歩いているということはないだろうと思う。
「ところでさ……」
スイは、営業用スマイルを張り付けて問いかける。
その笑顔はあくまで表面上の仮面だ。おとり捜査だということを知られてはいけない。同じように、もし、にこやかで明るく、友好的な彼らにだって心に隠した何かがあるかもしれない。だとしても、スイにはそれを見抜ける気がしない。こんな職種のせいだろうか、皆少し。というより、かなり個性が強い。そんなパーソナリティーにばかり目がいって、そもそも人付き合いが苦手なスイにはその仮面に隠されているかもしれない何かを探す自信はなかった。
それでも、これも、『情報収集』という、れっきとした仕事なのだ。苦手だからと言って諦めて退散するわけにはいかなかった。
「んー。そうね。何回か一緒に『キングスクラウン』の仕事してるし、別の現場で会うこともあるし」
ルナが先陣を切って応えた。キングスクラウンというのは、今回のショーのブランドの名前だ。10代から20代の女性に特に人気があるブランドだが、近年メンズファッションにも力を入れていて、今回のショーではどちらのモデルも参加することになっている。
「結構、辛い仕事多いから、戦友的な? そんな感じかな」
ケンジが相槌を打つ。
「力仕事多いし、残業、徹夜当たり前だしだから、よくバイト逃げ出すよね~」
この情報はマリだ。
「そうです……よね。だ、だから、慢性的に人不足だし」
おどおどとルイがつづける。
「でも、こんなバイト。どこで見つけるの? 俺は派遣だけど」
そこで、スイが口をはさむ。
警察が用意した設定ではスイはイベント運営会社からの派遣ということになっている。もちろん、その会社には警察の息がかかっていて、ナオとともにPCの専門家という触れ込みでほぼ強引にこの仕事に割り込んだのだ。
「俺は前にやってた先輩から誘われてさ。その人はもうやめちゃったけど……SNSの#K県#ファッションブランド#バイトでその人のSNS見つけて、やりとりしているうちに仲良くなったんだよ」
スイに興味を持ってもらったのが嬉しいのか、ケンジが手を上げて答える。
「あー。ナオトでしょ? 懐かしー。私も前にいた人に誘われたな。なんて言ったっけ? ええっと」
ぐいっ。と、ジョッキを傾けて、ぷはっ。と、酒臭い息を吐いてから、マリが相槌をうった。
「キリシマさんでしょう? お……俺もそうだし」
マリの言葉をルイが補足する。いちいちどもった後に、ちら。と、スイを見てくるのが何だか怖い。
「キリシマさんは覚えてるな。すごく綺麗なコだったよね。青い髪と紫の瞳が印象的だった」
横で聞いていたタイガが口を挟んでくる。キリシマという人物も少し変わった髪色を持っていた人物らしい。
「彼女がいた時は俺もまだモデルやってたけど、あのコ、かなり才能あったと思うんだけど、田舎かえっちゃったんだよな?」
誰にともなく続けてタイガが問いかける。
「え? 私は、彼氏と駆け落ちしたってきいたけど?」
ルナが枝豆を口に放り込みながら言った。自分の発言に対した確証はなさそうだった。
「私はあんまよく知らないけど。いつの間にかいなくなってた感じ。てか、この仕事って入れ替わり激しいでしょ? 私たちみたいに長くいる方が珍しくない?」
マリが言った。ようは誰も詳しいことは知らないということだろう。
別にファッション業界だけではないとは思う。言ってしまえば、『ハウンド』なんて、もっと入れ替わりが激しい。しかも、いなくなる時は大抵、警察のご厄介になるか、海外に高跳びするか、海に沈むか、路地裏に捨てられるか、どんな末路にせよ普通に太陽の元を歩いているということはないだろうと思う。
「ところでさ……」
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