214 / 414
Internally Flawless
03 自嘲 04
しおりを挟む
「スイさん。さ。それは、絶対にアキさんやユキに言ったらだめだよ?」
スイの言葉を聞いたナオは、不意に真面目な顔になって言った。
「ナオ君?」
「俺さ。別に恋愛経験豊富とか言うわけでもないしさ。アキさんの考えてることって正直よくわかんないけど、もし、自分の彼女がそんな風に思ってるって知ったら、まじでショックだと思う。『すてられてもいい』とか、『自分なんか好かれているわけない』とか……なんか、『あー俺信用されてないわー』って、思うよ」
よっ。と、声に出して手すりから離れて、ナオは屋上の階段に続くドアに歩きだす。
「も。ちょっと、自信もったら? あの傍若無人兄弟の両方に惚れてるって言わせるのって、すげーと思うよ?」
くると、振り返って、ナオは言った。
意外だった。きっと、ナオは自分のことをよくは思っていないと思っていた。でも、まるで励ますように言ってくれる彼は、にっこりと笑っていた。
「アキさんとユキの気持ちはなんとなく分かった。
セイジとシキさんって人と三人でさ。よく飲むんだ。二人とも、アキさんともユキとも知り合いで。その飲み会の時セイジがすんげー興奮してスイさんのこと話してたんだけど、セイジの話、聞いてたら、もっと女王様な感じかと思ってたんだよね。あの兄弟が全く逆らえないとか言ってたしさ。
けど、ちょっと、印象変わった。スイさんって、セイジふうに言ったら『綺麗め』で、『エロく』て、分別在りそうに見せかけて『ヤキモチ焼き』で、大人っぽく見せかけてすごく『カワイイ』人だね。シキさんにはそう伝えとく」
ひらひらと、手を振って、ナオはドアに消えた。
「綺麗め? エロい?」
その背中を見送って、彼の言っていた意味を考えてみる。最後のではなく、その前の言葉。
「信用してない……?」
アキやユキの言葉を信用してないわけではない。好きだと言ってくれた言葉が嘘だったなんて思わない。
ただ、未来がどうなるかは分からないのだ。
十代の殆どを一緒に過ごした人に手酷く裏切られたスイには、幸せな今が未来まで続いていくと無邪気に信じることができなかった。
もしも、二人のうちどちらかが、いや、両方であっても心変わりをした時に、裏切られたとは思いたくない。嫌いになりたくない。
彼らに好きだと言ってもらえたから、好きになったのではない。ただ、自分自身が彼らのことを好きになったのだ。だから、彼らが自分を好きでなくなったとしても、自分の気持ちは変わることはないと思う。
そんな日が来たときでも、ちゃんと話して、友達に戻ることのできる自分でいたかった。でも、それと同時にその時がどうしようもないほど怖い自分がいた。友達に戻ったとしても、ちゃんと笑いあえる自信なんてなかった。
アキとユキが、それが仕事のためであるにも関わらず、とても魅力的な女性といるだけで、怖くて堪らないのだ。その人の本当の美しさを見てしまったら、自分がかすんでしまうことなんて分かっていた。自分は一人を選ぶことすらできないくせに、自分は自分だけを見ていてほしいなんて、そんなことが言えるほど自分に価値があるとは到底思えなかった。
そのことが、アキやユキを信じていないということになるんだろうか。
自分が信じらないのは自分自身なのに。
手すりに背中を預けたまま、その場に座り込む。
いつの間にか吹きはじめた風が解いたままのスイの髪を弄んで、空へと帰って行った。
スイの言葉を聞いたナオは、不意に真面目な顔になって言った。
「ナオ君?」
「俺さ。別に恋愛経験豊富とか言うわけでもないしさ。アキさんの考えてることって正直よくわかんないけど、もし、自分の彼女がそんな風に思ってるって知ったら、まじでショックだと思う。『すてられてもいい』とか、『自分なんか好かれているわけない』とか……なんか、『あー俺信用されてないわー』って、思うよ」
よっ。と、声に出して手すりから離れて、ナオは屋上の階段に続くドアに歩きだす。
「も。ちょっと、自信もったら? あの傍若無人兄弟の両方に惚れてるって言わせるのって、すげーと思うよ?」
くると、振り返って、ナオは言った。
意外だった。きっと、ナオは自分のことをよくは思っていないと思っていた。でも、まるで励ますように言ってくれる彼は、にっこりと笑っていた。
「アキさんとユキの気持ちはなんとなく分かった。
セイジとシキさんって人と三人でさ。よく飲むんだ。二人とも、アキさんともユキとも知り合いで。その飲み会の時セイジがすんげー興奮してスイさんのこと話してたんだけど、セイジの話、聞いてたら、もっと女王様な感じかと思ってたんだよね。あの兄弟が全く逆らえないとか言ってたしさ。
けど、ちょっと、印象変わった。スイさんって、セイジふうに言ったら『綺麗め』で、『エロく』て、分別在りそうに見せかけて『ヤキモチ焼き』で、大人っぽく見せかけてすごく『カワイイ』人だね。シキさんにはそう伝えとく」
ひらひらと、手を振って、ナオはドアに消えた。
「綺麗め? エロい?」
その背中を見送って、彼の言っていた意味を考えてみる。最後のではなく、その前の言葉。
「信用してない……?」
アキやユキの言葉を信用してないわけではない。好きだと言ってくれた言葉が嘘だったなんて思わない。
ただ、未来がどうなるかは分からないのだ。
十代の殆どを一緒に過ごした人に手酷く裏切られたスイには、幸せな今が未来まで続いていくと無邪気に信じることができなかった。
もしも、二人のうちどちらかが、いや、両方であっても心変わりをした時に、裏切られたとは思いたくない。嫌いになりたくない。
彼らに好きだと言ってもらえたから、好きになったのではない。ただ、自分自身が彼らのことを好きになったのだ。だから、彼らが自分を好きでなくなったとしても、自分の気持ちは変わることはないと思う。
そんな日が来たときでも、ちゃんと話して、友達に戻ることのできる自分でいたかった。でも、それと同時にその時がどうしようもないほど怖い自分がいた。友達に戻ったとしても、ちゃんと笑いあえる自信なんてなかった。
アキとユキが、それが仕事のためであるにも関わらず、とても魅力的な女性といるだけで、怖くて堪らないのだ。その人の本当の美しさを見てしまったら、自分がかすんでしまうことなんて分かっていた。自分は一人を選ぶことすらできないくせに、自分は自分だけを見ていてほしいなんて、そんなことが言えるほど自分に価値があるとは到底思えなかった。
そのことが、アキやユキを信じていないということになるんだろうか。
自分が信じらないのは自分自身なのに。
手すりに背中を預けたまま、その場に座り込む。
いつの間にか吹きはじめた風が解いたままのスイの髪を弄んで、空へと帰って行った。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。

朝起きたら幼なじみと番になってた。
オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。
隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた
思いつきの書き殴り
オメガバースの設定をお借りしてます
しあわせのカタチ
葉月めいこ
BL
気ままで男前な年上彼氏とそんな彼を溺愛する年下ワンコのまったりのんびりな日常。
好き、愛してるじゃなくて「一緒にいる」それが二人のしあわせのカタチ。
ゆるりと甘いけれど時々ぴりりとスパイスも――。
二人の日常の切れ端をお楽しみください。
※続編の予定はありますが次回更新まで完結をつけさせていただきます。


【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?


目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
よく効くお薬〜偏頭痛持ちの俺がエリートリーマンに助けられた話〜
高菜あやめ
BL
【マイペース美形商社マン×頭痛持ち平凡清掃員】千野はフリーのプログラマーだが収入が少ないため、夜は商社ビルで清掃員のバイトをしてる。ある日体調不良で階段から落ちた時、偶然居合わせた商社の社員・津和に助けられ……偏頭痛持ちの主人公が、エリート商社マンに世話を焼かれつつ癒される甘めの話です◾️スピンオフ1【社交的爽やかイケメン営業マン×胃弱で攻めに塩対応なSE】千野のチームの先輩SE太田が主人公です◾️スピンオフ2【元モデルの実業家×低血圧の営業マン】千野と太田のプロジェクトチーム担当営業・片瀬とその幼馴染・白石の恋模様です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる