遠くて近い世界で

司書Y

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Internally Flawless

03 自嘲 01

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 ◇翡翠◇

 屋上の喫煙スペースで手すりに寄り掛かって、スイはため息交じりの紫煙を吐きだした。
 今日は天気がいい。少し寒いけれど、日差しは温かくて心地よかった。見つめる先には遠くに海が見えて、スイは何とはなしにそれを見つめていた。
 喫煙スペースには他に誰もいない。括っていた髪を解く。やっと一人になれたことに少し安堵する。
元来、スイは人と一緒にいることを好まない。人嫌いとまではいわない。ただ、不特定多数の良く知らない人と長時間一緒にいるのは苦手だったし、怖かった。

「まだ、初日か……」

 また、ため息が漏れる。これを何日続ければいいのだろう。犯人さえ突き止めてしまえば終わりになるのだが、スタッフだけで100人以上いるのだ。特定するのは簡単ではない。しかも、今日は殆どのスタッフがここに集まっているが、次に集まるのはショーの2週間前。それまでは個々のチームに分かれて仕事をすることになる。
 スイは現在は舞台美術班で照明を担当しているが、ナオの話では2週間ほどしたら、記録撮影用のドローンの調整も担当してほしいという話だった。ようは、機械PC系の何でも屋らしい。
 その仕事自体は得意分野なのでなんということもないのだけれど、その度に変わるスタッフといちいち挨拶を交わすのがすでにかなり憂鬱になってきていた。しかも、その挨拶も捜査上重要な情報になるかもしれないと思うと、気が抜けない。

「うまく……できたのかな」

 煙草の灰を設置されている灰皿に落として、呟く。
 もちろん、潜入捜査は一人で行っているわけではない。ナオの話では複数の警察官とハウンドが潜入しているらしい。しかし、彼は詳細を話そうとはしなかった。その理由を彼は『もしものときのため』と言った。
 理由は分かる。アキや、ユキならともかく、自分とは深い付き合いがあるわけではない。もしも、潜入捜査がバレた場合、芋づる式に捜査に係わった全員の名前がバレるのを恐れているのだろう。もっともな話だし、こういう複数での捜査にハウンドを使う時の当たり前の対応だと思う。だから、別に腹が立ちはしなかった。

「あ。スイさん。ここにいたんだ」

 後ろから声をかけられて、スイは振り返った。
 グレーのワークキャップに、だぼだぼのトレーナーを着て、同じくだぼだぼのジーンズをはいた、メガネの男がそこにいた。

「ナオ君」

 まるで大学生のような容貌だが、彼はもともと警視庁のキャリアで、サイバー犯罪を専門に取り扱う『情報技術型犯罪特別対策室』なる怪しげな部署に所属していた。現在はN署の同名部署にいるが、それはキャリアとしてはあり得ないそのファッションセンスと、言動がそうさせているらしい。簡単に言うなら警視庁という組織からはみ出したのだ。

「タバコ吸うんだ。意外」

 ナオはスイの隣に並んで、手すりに寄り掛かる。
 普段、彼は現場に出ることはない。殆どの時間をN署内の電算室で過ごしている。何故か勤務中によくユキとオンラインゲームをしているのだが、本人は『これも、仕事だから』と言いきっているらしい。
 その彼が、現場にかりだされている理由は公にされてはいないが、捜査員の不足だ。

「ごめん。消そうか?」

 灰皿にタバコを押しつけようとすると、ナオは手を振っていいよ。と、言った。
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