206 / 414
Internally Flawless
01 矜持 07
しおりを挟む
「スイさん、まってよ」
もう一度腕を掴んで、スイを止める。
そうしてユキを見つめた翡翠色の瞳は、今度は泣きそうに潤んでいた。
「ごめん。こんな風に……喧嘩したかったわけじゃないんだけど」
きっと、アキの前では必死で耐えていたのだと思う。スイにも譲れないものがあると、アキにも分かってほしかったんだろう。
「あの言い方は兄貴も悪いと思う。……けどさ」
スイを引きとめる、上手な言葉が見つからなくて、ユキは口籠った。
こういう時に自分は子供だと思う。不器用な自分がもどかしい。
「あ。いや。……その出てくとか。そういうことじゃなくて……。潜入捜査だから、警察側の人間と接触があることがばれると面倒だからと思って。最初からしばらくは家を出るつもりだったから」
本気で出て行くつもりがないことにはほっとする。しかし、一体何時までのことになるのだろうと思うと、また、心配になる。もしこのまま、スイが何カ月も戻ってこないようなことになったら。どうすればいいのだろう。
「……スイさん」
その情けない気持ちが伝わってしまったのか、スイが少しだけ笑いかけてくれた。
「ちゃんと、連絡はするよ」
そう言って、その細い指が、優しく頬を撫でる。いつも通りの少し冷たいスイの指。
「あ。そうだ。……これ、住所」
小さく折りたたんだ紙片をユキの手に握らせて、その手がそのままユキの手を握りしめる。
「ごめん。でも、俺は二人の『家政婦』でいるのは嫌なんだ。自分ができることで、二人の『仕事』の役に立てるなら、それをしたい。ちゃんと二人の仲間なんだって胸を張っていたい。だから、行くよ」
スイは笑っていたけれど、泣いているようだった。
スイの言いたいことも、ユキには良く分かった。だから、もう、止めることはできなかった。
「……わかった。でも、本当に気を付けて。ターゲットになるとかそういうこと抜きにしても、情報を嗅ぎまわってたら、危険なんだからな。……てか、ターゲットになれば、とりあえず傷つけられることはないかもしれないけど、警察に関係してるってバレたら、そっちのがヤバいんだから」
スイが握った自分の右手に、左手を重ねて、少し強い口調でユキが言うと、こくり。と、素直にスイが頷いた。
「ありがと」
寂しそうに笑ってから、背伸びしてユキの頬にキスをする。
「本当に連絡してよ?」
そのユキの言葉にも、スイはこくり。と、頷く。
「絶対。毎日だよ?」
念押しすると、ようやく寂しそうにではなく、少しおかしそうに笑ってくれた。
「わかった。ちゃんと、連絡する」
その頬に手を触れて、少し上を向かせてから、キスをする。唇は少し冷たかった。
「じゃ、行ってきます」
出て行く間際の言葉が、『行ってきます』だったことに、少しだけ救われた気がするユキだった。
もう一度腕を掴んで、スイを止める。
そうしてユキを見つめた翡翠色の瞳は、今度は泣きそうに潤んでいた。
「ごめん。こんな風に……喧嘩したかったわけじゃないんだけど」
きっと、アキの前では必死で耐えていたのだと思う。スイにも譲れないものがあると、アキにも分かってほしかったんだろう。
「あの言い方は兄貴も悪いと思う。……けどさ」
スイを引きとめる、上手な言葉が見つからなくて、ユキは口籠った。
こういう時に自分は子供だと思う。不器用な自分がもどかしい。
「あ。いや。……その出てくとか。そういうことじゃなくて……。潜入捜査だから、警察側の人間と接触があることがばれると面倒だからと思って。最初からしばらくは家を出るつもりだったから」
本気で出て行くつもりがないことにはほっとする。しかし、一体何時までのことになるのだろうと思うと、また、心配になる。もしこのまま、スイが何カ月も戻ってこないようなことになったら。どうすればいいのだろう。
「……スイさん」
その情けない気持ちが伝わってしまったのか、スイが少しだけ笑いかけてくれた。
「ちゃんと、連絡はするよ」
そう言って、その細い指が、優しく頬を撫でる。いつも通りの少し冷たいスイの指。
「あ。そうだ。……これ、住所」
小さく折りたたんだ紙片をユキの手に握らせて、その手がそのままユキの手を握りしめる。
「ごめん。でも、俺は二人の『家政婦』でいるのは嫌なんだ。自分ができることで、二人の『仕事』の役に立てるなら、それをしたい。ちゃんと二人の仲間なんだって胸を張っていたい。だから、行くよ」
スイは笑っていたけれど、泣いているようだった。
スイの言いたいことも、ユキには良く分かった。だから、もう、止めることはできなかった。
「……わかった。でも、本当に気を付けて。ターゲットになるとかそういうこと抜きにしても、情報を嗅ぎまわってたら、危険なんだからな。……てか、ターゲットになれば、とりあえず傷つけられることはないかもしれないけど、警察に関係してるってバレたら、そっちのがヤバいんだから」
スイが握った自分の右手に、左手を重ねて、少し強い口調でユキが言うと、こくり。と、素直にスイが頷いた。
「ありがと」
寂しそうに笑ってから、背伸びしてユキの頬にキスをする。
「本当に連絡してよ?」
そのユキの言葉にも、スイはこくり。と、頷く。
「絶対。毎日だよ?」
念押しすると、ようやく寂しそうにではなく、少しおかしそうに笑ってくれた。
「わかった。ちゃんと、連絡する」
その頬に手を触れて、少し上を向かせてから、キスをする。唇は少し冷たかった。
「じゃ、行ってきます」
出て行く間際の言葉が、『行ってきます』だったことに、少しだけ救われた気がするユキだった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

たしかなこと
大波小波
BL
白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。
ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。
彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。
そんな彼が言うことには。
「すでに私たちは、恋人同士なのだから」
僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。

朝起きたら幼なじみと番になってた。
オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。
隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた
思いつきの書き殴り
オメガバースの設定をお借りしてます

神子は再召喚される
田舎
BL
??×神子(召喚者)。
平凡な学生だった有田満は突然異世界に召喚されてしまう。そこでは軟禁に近い地獄のような生活を送り苦痛を強いられる日々だった。
そして平和になり元の世界に戻ったというのに―――― …。
受けはかなり可哀そうです。


【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?


目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる