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Internally Flawless
01 矜持 03
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「……アキ君。おかえ……」
スイの言葉を遮るように、アキが、キッチンに入ってくる。
「ナオに聞いた。俺は反対だ」
乱暴にではないけれど、いきなり肩を掴まれて、アキが真剣な顔で言ってくる。
状況が分からないユキはきょとんとして、兄を見つめていた。
「反対って……もう、やるって決めてきたよ」
でも、スイにはアキが何のことを言っているのかが分かっていた。
昼間、仕事用のスマートフォンにセイジから連絡がはいったのだ。プライベートのスマートフォンの番号は『絶対に教えちゃ駄目!』と、アキに強く言われていたので、業務連絡用に仕事用のスマートフォンの番号は伝えてあったのだが、こんなにすぐに連絡が入ると、スイは思ってはいなかった。
それは、もちろん、仕事の依頼だった。
「スイさん。なんで、相談もなしにそんなこと決めるんだよ」
ショーモデルの警護の依頼が、本来の『警護』以外の意味を持つことになりそうだと知らせに来たのは、セイジだった。
それは数年前からファッション業界内では囁かれていた噂だったらしい。
曰く、
あるブランドの半年に一度のファッションショーは人身売買の展示会だ。
と。
軽く調べた限り、この手の噂は業界では珍しくない。
『自称』モデルになるのは容易い。実情はともかく、驚くほどの数の若者がモデルとして活動している。その上、昨日まで売れっ子だったモデルが今日はもう見る影もないという生き馬の目を抜くような業界だ。
モデルの一人や二人いつの間にか消えていることなど珍しくもないし、ひっそりとフェードアウトしていけば気付かれることも殆どない。数年後、『そう言えばあの子もあの子もいなくなったよね?』なんて、昔話をして初めていないことに気付く。
モデルをしている以上、それなりの容姿を持っているのは確かだし、やめていく人間がどこに行ったかなんて詮索するヤツは誰もいない。
だから、人身売買の被害者になった。なんていう噂がまことしやかに流れるのだ。
それだけなら、ただの噂にすぎないのだが、数週間前に路地裏で死体となって見つかった少女が、行方不明になる数日前、このファッションショーの新人モデルのオーディションを受けていたことがわかり、内密に捜査を進めた結果、本当に数人が行方不明になっていることが判明した。
アキやユキの警護以外の目的は、モデル事務所の動きを張ること。その依頼にセイジはやってきたのだ。もちろん、『姫』が間違いなく気に入るだろう容姿を持っていることも、二人に依頼を持ってきた理由には違いないだろう。
「相談って……一人で仕事を受けるって話はちゃんとしたよな」
スイの受けた仕事は、二人が引き受けた依頼と無関係ではなかった。
ファッションショーの関係者でいなくなったのはモデルやモデル候補だけではなかった。スタッフの中にも行方不明者が出ていたらしい。その行方不明者が今回の事件に関係しているかどうかはわからない。しかし、まったく無関係とも言えなかった。
もしも、モデル事務所側ではなく、スタッフ側に『犯人』がいた場合、放ってはおけないが、すでに脅迫状の捜査で警察関係者の捜査員は殆どがファッションショー側の関係者と面識を持ってしまっていた。そのため、普段捜査にでない内勤の警察官とハウンドを使うことになったらしい。
というのが、前提である。
「それは、あくまで『情報屋』としてだろ?」
しかし、セイジがスイにその仕事を頼んだのには、もう一つの理由があった。
「『おとり捜査』なんて、聞いてない」
おとり捜査。それがもう一つの理由だった。
スタッフ側で行方不明になった人物には共通項があった。外見的特徴に共通点が多かったのだ。
簡単に言ってしまえば、同じタイプだったということだ。
日本人に多い黒や、茶ではなく、遺伝子操作の遺産である緑や青、紫やピンクの髪色や、瞳の色が多かったこと。
モデルのような体形でなく、男女問わずどちらかというと、小柄で華奢な作りの人物が多かったこと。
舞台で映える強烈な個性を持ったような容姿ではなく、どちらかというと幼さが目立つような人物が多かったこと。
それはモデルやモデル候補生のような人物像とはおおよそかけ離れていた。一言で表現すると“可愛い”タイプだ。スイ自身は強く否定したのだが、『スイさんみたいなタイプが多いから』と、セイジは力説していた。だから、スイの仕事は潜入捜査だけではなく『おとり捜査』という意味を持っていた。
スイの言葉を遮るように、アキが、キッチンに入ってくる。
「ナオに聞いた。俺は反対だ」
乱暴にではないけれど、いきなり肩を掴まれて、アキが真剣な顔で言ってくる。
状況が分からないユキはきょとんとして、兄を見つめていた。
「反対って……もう、やるって決めてきたよ」
でも、スイにはアキが何のことを言っているのかが分かっていた。
昼間、仕事用のスマートフォンにセイジから連絡がはいったのだ。プライベートのスマートフォンの番号は『絶対に教えちゃ駄目!』と、アキに強く言われていたので、業務連絡用に仕事用のスマートフォンの番号は伝えてあったのだが、こんなにすぐに連絡が入ると、スイは思ってはいなかった。
それは、もちろん、仕事の依頼だった。
「スイさん。なんで、相談もなしにそんなこと決めるんだよ」
ショーモデルの警護の依頼が、本来の『警護』以外の意味を持つことになりそうだと知らせに来たのは、セイジだった。
それは数年前からファッション業界内では囁かれていた噂だったらしい。
曰く、
あるブランドの半年に一度のファッションショーは人身売買の展示会だ。
と。
軽く調べた限り、この手の噂は業界では珍しくない。
『自称』モデルになるのは容易い。実情はともかく、驚くほどの数の若者がモデルとして活動している。その上、昨日まで売れっ子だったモデルが今日はもう見る影もないという生き馬の目を抜くような業界だ。
モデルの一人や二人いつの間にか消えていることなど珍しくもないし、ひっそりとフェードアウトしていけば気付かれることも殆どない。数年後、『そう言えばあの子もあの子もいなくなったよね?』なんて、昔話をして初めていないことに気付く。
モデルをしている以上、それなりの容姿を持っているのは確かだし、やめていく人間がどこに行ったかなんて詮索するヤツは誰もいない。
だから、人身売買の被害者になった。なんていう噂がまことしやかに流れるのだ。
それだけなら、ただの噂にすぎないのだが、数週間前に路地裏で死体となって見つかった少女が、行方不明になる数日前、このファッションショーの新人モデルのオーディションを受けていたことがわかり、内密に捜査を進めた結果、本当に数人が行方不明になっていることが判明した。
アキやユキの警護以外の目的は、モデル事務所の動きを張ること。その依頼にセイジはやってきたのだ。もちろん、『姫』が間違いなく気に入るだろう容姿を持っていることも、二人に依頼を持ってきた理由には違いないだろう。
「相談って……一人で仕事を受けるって話はちゃんとしたよな」
スイの受けた仕事は、二人が引き受けた依頼と無関係ではなかった。
ファッションショーの関係者でいなくなったのはモデルやモデル候補だけではなかった。スタッフの中にも行方不明者が出ていたらしい。その行方不明者が今回の事件に関係しているかどうかはわからない。しかし、まったく無関係とも言えなかった。
もしも、モデル事務所側ではなく、スタッフ側に『犯人』がいた場合、放ってはおけないが、すでに脅迫状の捜査で警察関係者の捜査員は殆どがファッションショー側の関係者と面識を持ってしまっていた。そのため、普段捜査にでない内勤の警察官とハウンドを使うことになったらしい。
というのが、前提である。
「それは、あくまで『情報屋』としてだろ?」
しかし、セイジがスイにその仕事を頼んだのには、もう一つの理由があった。
「『おとり捜査』なんて、聞いてない」
おとり捜査。それがもう一つの理由だった。
スタッフ側で行方不明になった人物には共通項があった。外見的特徴に共通点が多かったのだ。
簡単に言ってしまえば、同じタイプだったということだ。
日本人に多い黒や、茶ではなく、遺伝子操作の遺産である緑や青、紫やピンクの髪色や、瞳の色が多かったこと。
モデルのような体形でなく、男女問わずどちらかというと、小柄で華奢な作りの人物が多かったこと。
舞台で映える強烈な個性を持ったような容姿ではなく、どちらかというと幼さが目立つような人物が多かったこと。
それはモデルやモデル候補生のような人物像とはおおよそかけ離れていた。一言で表現すると“可愛い”タイプだ。スイ自身は強く否定したのだが、『スイさんみたいなタイプが多いから』と、セイジは力説していた。だから、スイの仕事は潜入捜査だけではなく『おとり捜査』という意味を持っていた。
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