遠くて近い世界で

Internally Flawless

01 矜持 01

　◇翡翠◇

　その曲はイヤホンから聞こえていた。それは終わってしまった恋を終わっていないと思い込みたかった女の歌だった。自然消滅を望む男と離れて行く想いに涙を零す。そんなありきたりのつまらない歌詞だった。
　多分、1年前の自分なら、未練たらしいと馬鹿にしたと思う。本当に人を好きになったことなんてないくせに、訳知った顔で。
　でも、今の自分にはなんとなくわかる気がする。多分、恋とかって、そんなに簡単なものじゃない。物理学の数式とは違うのだ。1と0で全てがこと足りるコンピュータとは違うのだ。

「なんだよ。……それ」

　そんなことを考えてから、スイはため息をついた。
　さっきから、PCに向かっているが全く手は動いてはいない。PCの前に座って、こんなにも集中できないなんて初めてだった。いつものヘッドホンを使えないからではない。
　それは、数日前の出来事のせいだった。