遠くて近い世界で

司書Y

文字の大きさ
上 下
190 / 414
BT.H

#6

しおりを挟む
 リビングの扉を開けて、アキが先導するように入っていく。その後ろについて、リビングに入ると、部屋の様子は以前に入った時と大きく変わるところはなかった。
 壁には見なれない扉が増えている気がしたけれど、前に来たのは5か月前なので、記憶は定かではない。

「隣の区画と繋げたんだよ。こっちは、完全に事務所にした」

 セイジの視線に気づいたらしいアキが言った。以前から置いてあったソファに座って、目線でセイジにも座るように促す。

 ああ。それで。

 セイジは納得した。
 アキにとって、ここはもうパーソナルスペースではないのだ。完全に仕事用の余所行き部屋(変な表現だが)ということなんだろう。だから、簡単に他人を入れることができるのだ。

「今のリビングと、スイさんの部屋は向こうの区画」

 アキがドアの方を指さす。

 マジで? ありえん。

 セイジはまた、思う。
『スイさん』とは、多分、さっきの翠の髪の青年だろうと想像がつく。ということは、彼は完全にパーソナルスペースだと決めている場所である新しいリビングに常時彼を入れているということになる。そんなことは、あり得ない。そこに入れるのはユキだけだと思っていたし、現在までの彼の恋愛遍歴からいっても、彼女を家に招待したという話は聞いたことがない。まあ、それは自分が知らないだけかもしれないけど。とにかく、それだけアキは警戒心が強いのだ。

「あの人……何者?」

 だから、思わず聞いていた。確かに、とても何と表現していいのか、魅力的な感じの人だとは思う。でも、そもそも、あの人はこの家主の何なんだろう。
 確か、アキが過去に付き合っていた女性は何人か知っていた。いや、付き合っていたのかは分からないけれど、女性を連れて歩いているのは見たことがある。高校時代から。見るたびに違う人。大抵すごい美人で、年上らしき人ばかり。
 ってことはだよ。少なくとも、アキの恋愛対象は女性だ。

「……は? なんでそんなこと聞くんだよ」

 じと。と音がするくらいに、アキはセイジを見ている。不信感丸出しだ。隠そうともしていない。何に対して不信感を持っているのは分からないけれど。

「いや。だってさ。アキさん自分がどんな顔してるか、わかってる?」

 じゃあ、あの人何なの?

 セイジは思う。

 こんな顔をこの不機嫌大王にさせているあの人っていったい何なの?

「は?」

 アキ本人は全く分かっていないようだった。
 けれど、セイジは知っている。もんのすごく綺麗で大人っぽいお姉さまを連れて歩いている時のアキは全く楽しそうではなかった。あんな美人連れて歩いていたら、恐らくセイジならうっきうき。だっただろう。
 それなのにアキは世界に面白いことなんて何一つないみたいな顔をしていた。いや不機嫌というわけではない。笑ってはいる。でも、目が冷たい。まるで作り物みたいだった。よくできた彫刻のようだった。
 それが、今の顔はどうだろう。

「まるで……」

 今の、アキは、とても魅力的な恋人を誰にも見せたくなくて、近づく男全部に警戒心丸出しにしてる情けない男みたいだよ。
 とは、言えなかった。
 とても彫刻のようだとは思えない。まるで、別人だ。

「……いや。その」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

彩雲華胥

柚月なぎ
BL
 暉の国。  紅鏡。金虎の一族に、痴れ者の第四公子という、不名誉な名の轟かせ方をしている、奇妙な仮面で顔を覆った少年がいた。  名を無明。  高い霊力を封じるための仮面を付け、幼い頃から痴れ者を演じ、周囲を欺いていた無明だったが、ある出逢いをきっかけに、少年の運命が回り出す――――――。  暉の国をめぐる、中華BLファンタジー。 ※この作品は最新話は「カクヨム」さんで読めます。また、「小説家になろう」さん「Fujossy」さんでも連載中です。 ※表紙や挿絵はすべてAIによるイメージ画像です。 ※お気に入り登録、投票、コメント等、すべてが励みとなります!応援していただけたら、幸いです。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

よく効くお薬〜偏頭痛持ちの俺がエリートリーマンに助けられた話〜

高菜あやめ
BL
【マイペース美形商社マン×頭痛持ち平凡清掃員】千野はフリーのプログラマーだが収入が少ないため、夜は商社ビルで清掃員のバイトをしてる。ある日体調不良で階段から落ちた時、偶然居合わせた商社の社員・津和に助けられ……偏頭痛持ちの主人公が、エリート商社マンに世話を焼かれつつ癒される甘めの話です◾️スピンオフ1【社交的爽やかイケメン営業マン×胃弱で攻めに塩対応なSE】千野のチームの先輩SE太田が主人公です◾️スピンオフ2【元モデルの実業家×低血圧の営業マン】千野と太田のプロジェクトチーム担当営業・片瀬とその幼馴染・白石の恋模様です

処理中です...