遠くて近い世界で

司書Y

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BT.H

#4

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 そんなわけで、2階にあるその部屋を目指して、セイジは階段を上っていた。
 その兄弟が住む部屋。
 いつもは、外のファミレスや喫茶店などで落ち合うのが当たり前になっていたが、『特殊業務代行者資格免許』取得の際、リビングを事務所代わりにする。と、聞いたので、訪ねてみることにした。ちなみに、特務ライセンスの取得に必要な実績の承認と推薦をしたのは、セイジだった。友人だからという以上に、家主が拗ねて仕事を請けてもらえなくなったら死活問題になるからだった。
 部屋の前に立つ。
 5か月前に訪ねてきた時は、ソファの搬入を手伝わされた。
 こうしてみると、ライセンスの推薦人にされたり、荷物運び手伝わされたり、いいように使われているように見えるかもしれないが、実はいいように使っているのは自分の方で、他で断られた面倒な仕事を回すことが多いのが実情だ。いや、『多い』には語弊がある。ほぼ毎回だ。
 だからこその兄の皮肉や、罵詈雑言とも言えなくもない。

 今日も、イヤミいわれるんだろうなぁ。

 ため息交じりに、チャイムを押す。
 兄の方の寝起きが悪いのは知っている。弟曰く『災害級』のそれを考慮に入れて、朝の聞き込みを先に終わらせて、ここに来た。さすがに10時だ。起きているだろう。
 そう思っていたのだが、やけにしんと静まり返っている。
 もう一度、チャイムを鳴らすと、中から、聞き覚えのない声が聞こえてきた。

「あ。はい!」

 少し高めの男性の声。兄の方アキの声でも、弟の方ユキの声でもない。
 ドアチェーンが外れる音がする。それから、ドアが開いた。

「はい? えと、どちらさまでしょうか?」

 顔を出したのは、翠の髪をした、線の細い男性だった。長めの髪を後ろで纏めて、首には大きめのヘッドホンをかけている。黒のハイネックのインナーにゆったり目の青いセーターを着て、ダメージジーンズを穿いた腰はかなり細い人のようだった。
 首をかしげるようにして、綺麗な翠の大きな目が、セイジを見ている。その人の形の良い唇は僅かに微笑んでいるように見えた。
 多分、歳は自分と変わらないくらいだろうか。

「あの?」

 名乗らない自分に、不審に思ったのか、その唇から、躊躇いがちに声が漏れる。
 その人の容姿によく似合う高い声。

「あ。いや。あれ? あの、ここ、アキさんの……え?」

 その顔に見惚れていたから、思わず、しどろもどろになってしまう。
 いや。相手は男だぞ? と、自分自身に突っ込みを入れるけれど、見惚れていた事実は変わらない。アキのようなストレートな美形ではないのだが、何と表現していいのか、とても、魅力的な人物だった。
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