188 / 414
BT.H
#4
しおりを挟む
そんなわけで、2階にあるその部屋を目指して、セイジは階段を上っていた。
その兄弟が住む部屋。
いつもは、外のファミレスや喫茶店などで落ち合うのが当たり前になっていたが、『特殊業務代行者資格免許』取得の際、リビングを事務所代わりにする。と、聞いたので、訪ねてみることにした。ちなみに、特務ライセンスの取得に必要な実績の承認と推薦をしたのは、セイジだった。友人だからという以上に、家主が拗ねて仕事を請けてもらえなくなったら死活問題になるからだった。
部屋の前に立つ。
5か月前に訪ねてきた時は、ソファの搬入を手伝わされた。
こうしてみると、ライセンスの推薦人にされたり、荷物運び手伝わされたり、いいように使われているように見えるかもしれないが、実はいいように使っているのは自分の方で、他で断られた面倒な仕事を回すことが多いのが実情だ。いや、『多い』には語弊がある。ほぼ毎回だ。
だからこその兄の皮肉や、罵詈雑言とも言えなくもない。
今日も、イヤミいわれるんだろうなぁ。
ため息交じりに、チャイムを押す。
兄の方の寝起きが悪いのは知っている。弟曰く『災害級』のそれを考慮に入れて、朝の聞き込みを先に終わらせて、ここに来た。さすがに10時だ。起きているだろう。
そう思っていたのだが、やけにしんと静まり返っている。
もう一度、チャイムを鳴らすと、中から、聞き覚えのない声が聞こえてきた。
「あ。はい!」
少し高めの男性の声。兄の方アキの声でも、弟の方ユキの声でもない。
ドアチェーンが外れる音がする。それから、ドアが開いた。
「はい? えと、どちらさまでしょうか?」
顔を出したのは、翠の髪をした、線の細い男性だった。長めの髪を後ろで纏めて、首には大きめのヘッドホンをかけている。黒のハイネックのインナーにゆったり目の青いセーターを着て、ダメージジーンズを穿いた腰はかなり細い人のようだった。
首をかしげるようにして、綺麗な翠の大きな目が、セイジを見ている。その人の形の良い唇は僅かに微笑んでいるように見えた。
多分、歳は自分と変わらないくらいだろうか。
「あの?」
名乗らない自分に、不審に思ったのか、その唇から、躊躇いがちに声が漏れる。
その人の容姿によく似合う高い声。
「あ。いや。あれ? あの、ここ、アキさんの……え?」
その顔に見惚れていたから、思わず、しどろもどろになってしまう。
いや。相手は男だぞ? と、自分自身に突っ込みを入れるけれど、見惚れていた事実は変わらない。アキのようなストレートな美形ではないのだが、何と表現していいのか、とても、魅力的な人物だった。
その兄弟が住む部屋。
いつもは、外のファミレスや喫茶店などで落ち合うのが当たり前になっていたが、『特殊業務代行者資格免許』取得の際、リビングを事務所代わりにする。と、聞いたので、訪ねてみることにした。ちなみに、特務ライセンスの取得に必要な実績の承認と推薦をしたのは、セイジだった。友人だからという以上に、家主が拗ねて仕事を請けてもらえなくなったら死活問題になるからだった。
部屋の前に立つ。
5か月前に訪ねてきた時は、ソファの搬入を手伝わされた。
こうしてみると、ライセンスの推薦人にされたり、荷物運び手伝わされたり、いいように使われているように見えるかもしれないが、実はいいように使っているのは自分の方で、他で断られた面倒な仕事を回すことが多いのが実情だ。いや、『多い』には語弊がある。ほぼ毎回だ。
だからこその兄の皮肉や、罵詈雑言とも言えなくもない。
今日も、イヤミいわれるんだろうなぁ。
ため息交じりに、チャイムを押す。
兄の方の寝起きが悪いのは知っている。弟曰く『災害級』のそれを考慮に入れて、朝の聞き込みを先に終わらせて、ここに来た。さすがに10時だ。起きているだろう。
そう思っていたのだが、やけにしんと静まり返っている。
もう一度、チャイムを鳴らすと、中から、聞き覚えのない声が聞こえてきた。
「あ。はい!」
少し高めの男性の声。兄の方アキの声でも、弟の方ユキの声でもない。
ドアチェーンが外れる音がする。それから、ドアが開いた。
「はい? えと、どちらさまでしょうか?」
顔を出したのは、翠の髪をした、線の細い男性だった。長めの髪を後ろで纏めて、首には大きめのヘッドホンをかけている。黒のハイネックのインナーにゆったり目の青いセーターを着て、ダメージジーンズを穿いた腰はかなり細い人のようだった。
首をかしげるようにして、綺麗な翠の大きな目が、セイジを見ている。その人の形の良い唇は僅かに微笑んでいるように見えた。
多分、歳は自分と変わらないくらいだろうか。
「あの?」
名乗らない自分に、不審に思ったのか、その唇から、躊躇いがちに声が漏れる。
その人の容姿によく似合う高い声。
「あ。いや。あれ? あの、ここ、アキさんの……え?」
その顔に見惚れていたから、思わず、しどろもどろになってしまう。
いや。相手は男だぞ? と、自分自身に突っ込みを入れるけれど、見惚れていた事実は変わらない。アキのようなストレートな美形ではないのだが、何と表現していいのか、とても、魅力的な人物だった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

たしかなこと
大波小波
BL
白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。
ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。
彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。
そんな彼が言うことには。
「すでに私たちは、恋人同士なのだから」
僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。

神子は再召喚される
田舎
BL
??×神子(召喚者)。
平凡な学生だった有田満は突然異世界に召喚されてしまう。そこでは軟禁に近い地獄のような生活を送り苦痛を強いられる日々だった。
そして平和になり元の世界に戻ったというのに―――― …。
受けはかなり可哀そうです。


【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?


目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
よく効くお薬〜偏頭痛持ちの俺がエリートリーマンに助けられた話〜
高菜あやめ
BL
【マイペース美形商社マン×頭痛持ち平凡清掃員】千野はフリーのプログラマーだが収入が少ないため、夜は商社ビルで清掃員のバイトをしてる。ある日体調不良で階段から落ちた時、偶然居合わせた商社の社員・津和に助けられ……偏頭痛持ちの主人公が、エリート商社マンに世話を焼かれつつ癒される甘めの話です◾️スピンオフ1【社交的爽やかイケメン営業マン×胃弱で攻めに塩対応なSE】千野のチームの先輩SE太田が主人公です◾️スピンオフ2【元モデルの実業家×低血圧の営業マン】千野と太田のプロジェクトチーム担当営業・片瀬とその幼馴染・白石の恋模様です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる