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BT.H
#3
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そのマンションを訪ねるのは約5カ月ぶりだった。その5カ月が、長いのか短いのかはよく分からない。訊ねた相手は、付き合いも長く、仕事上でも、プライベートでもまあ友人と言っても差し支えない人物だ。しかし、学生ならともかく、お互い社会人の友人の家を訪ねるようなことはあまりないのが普通だろう。
さらに言えば、家主は他人を家に入れるのを好まない男だ。仕事柄なのか、生い立ちのせいなのか警戒心が異常に強い。
10代の頃からの知り合いだが、住居は半年と経たずに変えることもざらで、一度も行ったことのないまま引っ越ししたこともあるくらいだ。ただ、それでも、連絡先を教えてくれるだけほかのヤツらよりは信頼してくれるのだと思う。
口が悪く、罵倒するし、パシるし、小突くし、睨むけれど、困っている時には必ず力を貸してくれる。だから、大抵、ここを訪れるときの土産は厄介ごとだった。やっぱり5カ月ぶりでも訪問回数は多かったのかもしれない。そう頻繁に厄介ごとを持ってきていたら、さすがに愛想をつかされると思う。
今日は外回りだと分かっていたので、春コートを着てきたのだが、随分と温度が上がってしまって、それは、腕の飾りに成り下がっていた。ちょっと気を利かせたつもりが、裏目に出るのはいつものことだ。ブルー系のスーツに地味なネクタイをだらしなく締めて、寝起きのようなぼさぼさ頭の男。セイジは、友人宅への階段を上っていた。
その部屋は、あまり治安のいいとは言い難い場所にあった。理由を聞くと、家主は『家賃が安いから』と、イマイチ真偽が分からない返事を返す。彼は非常に面倒くさがりなところがあって、話を最早理解できないレベルまで省略する癖があった。
その場所の治安が悪いからというわけではなく、先日、自分の依頼した仕事のせいで怪我をした時も『ヤクザの抗争のとばっちりで家を襲撃された』と、すぐにわかる明らかな嘘をついていたくらいだ。
その家の家主は弟と二人で暮らしていた。彼と出会ったのは、高校に入った頃だったから、多分もう7年以上前になる。とある事件に巻き込まれた友人を彼に助けてもらってから関係は続いている。
ただ、後に知り合った弟の方と違って、兄はあまり愛想がいい方ではない。その上、自信家で、皮肉屋で、口が悪い。本当に友人と感じてくれているのか疑問に思ってしまう時が多々ある。
対して、弟の方は人懐っこく、温和で、誰にでも好かれるタイプで、少し子供っぽいところもあるけれど、付き合いやすかった。多分、この弟の存在がなかったら、兄ともその後の付き合いはなかったんじゃないだろうか。
セイジが、警察官になって、約2年。彼らにいちおう法的には問題ないとはいえ非公式な仕事を頼みに行くのはすでにセイジの仕事の一つだと、彼が所属している部署では認識されていた。最近、国家資格の『特殊業務代行者資格免許』通称特務ライセンスを取得したので、公式での依頼もできるようになったのだが、彼らの裏の顔をセイジは知っていた。
バレたら懲戒免職かな。
セイジは思う。
彼らのしている裏の仕事のことを知ったのは警察官になる前だ。通称ハウンドと、呼ばれるものの中でも特に合法・非合法を問わずどんな仕事でも受ける何でも屋。彼らの仕事は諜報活動から、裏社会の重要人物の警護、戦闘、依頼品の調達、運び屋、暗殺等々。法律ではなく、彼ら自身のルールに従い、まさに『何でも』するのだ。
しかし、彼らを刑事的にどうこうしようとは思わない。それを知っていても自分は彼らと友人になったのだ。無辜の民を守れるなら!と、握り拳を握るまでもなく、この世界にはそういう人種も必要なんだと思っている。
この国の警察官なんて、殆どそんなもんだ。中にはヤクザとお友達。という輩も少なくない。そのヤクザのおかげ(?)もあって、この街はそれでも一般人が住める程度の治安を保っている。
まあ、懲戒免職になったらなったで、どうにかなるでしょ。
というのが正直なところだ。
さらに言えば、家主は他人を家に入れるのを好まない男だ。仕事柄なのか、生い立ちのせいなのか警戒心が異常に強い。
10代の頃からの知り合いだが、住居は半年と経たずに変えることもざらで、一度も行ったことのないまま引っ越ししたこともあるくらいだ。ただ、それでも、連絡先を教えてくれるだけほかのヤツらよりは信頼してくれるのだと思う。
口が悪く、罵倒するし、パシるし、小突くし、睨むけれど、困っている時には必ず力を貸してくれる。だから、大抵、ここを訪れるときの土産は厄介ごとだった。やっぱり5カ月ぶりでも訪問回数は多かったのかもしれない。そう頻繁に厄介ごとを持ってきていたら、さすがに愛想をつかされると思う。
今日は外回りだと分かっていたので、春コートを着てきたのだが、随分と温度が上がってしまって、それは、腕の飾りに成り下がっていた。ちょっと気を利かせたつもりが、裏目に出るのはいつものことだ。ブルー系のスーツに地味なネクタイをだらしなく締めて、寝起きのようなぼさぼさ頭の男。セイジは、友人宅への階段を上っていた。
その部屋は、あまり治安のいいとは言い難い場所にあった。理由を聞くと、家主は『家賃が安いから』と、イマイチ真偽が分からない返事を返す。彼は非常に面倒くさがりなところがあって、話を最早理解できないレベルまで省略する癖があった。
その場所の治安が悪いからというわけではなく、先日、自分の依頼した仕事のせいで怪我をした時も『ヤクザの抗争のとばっちりで家を襲撃された』と、すぐにわかる明らかな嘘をついていたくらいだ。
その家の家主は弟と二人で暮らしていた。彼と出会ったのは、高校に入った頃だったから、多分もう7年以上前になる。とある事件に巻き込まれた友人を彼に助けてもらってから関係は続いている。
ただ、後に知り合った弟の方と違って、兄はあまり愛想がいい方ではない。その上、自信家で、皮肉屋で、口が悪い。本当に友人と感じてくれているのか疑問に思ってしまう時が多々ある。
対して、弟の方は人懐っこく、温和で、誰にでも好かれるタイプで、少し子供っぽいところもあるけれど、付き合いやすかった。多分、この弟の存在がなかったら、兄ともその後の付き合いはなかったんじゃないだろうか。
セイジが、警察官になって、約2年。彼らにいちおう法的には問題ないとはいえ非公式な仕事を頼みに行くのはすでにセイジの仕事の一つだと、彼が所属している部署では認識されていた。最近、国家資格の『特殊業務代行者資格免許』通称特務ライセンスを取得したので、公式での依頼もできるようになったのだが、彼らの裏の顔をセイジは知っていた。
バレたら懲戒免職かな。
セイジは思う。
彼らのしている裏の仕事のことを知ったのは警察官になる前だ。通称ハウンドと、呼ばれるものの中でも特に合法・非合法を問わずどんな仕事でも受ける何でも屋。彼らの仕事は諜報活動から、裏社会の重要人物の警護、戦闘、依頼品の調達、運び屋、暗殺等々。法律ではなく、彼ら自身のルールに従い、まさに『何でも』するのだ。
しかし、彼らを刑事的にどうこうしようとは思わない。それを知っていても自分は彼らと友人になったのだ。無辜の民を守れるなら!と、握り拳を握るまでもなく、この世界にはそういう人種も必要なんだと思っている。
この国の警察官なんて、殆どそんなもんだ。中にはヤクザとお友達。という輩も少なくない。そのヤクザのおかげ(?)もあって、この街はそれでも一般人が住める程度の治安を保っている。
まあ、懲戒免職になったらなったで、どうにかなるでしょ。
というのが正直なところだ。
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