遠くて近い世界で

司書Y

文字の大きさ
上 下
186 / 414
BT.H

#2

しおりを挟む
「……や。ごめん。ただの独り言」

 苦笑して、スイはまた、資料に目を落とした。
 多分、この仕事は受けることになると思う。
 アキとユキがよく仕事を依頼されている、警察関係の人物から回ってきた仕事らしいからだ。アキは『たっぷり恩を売りつける』とか、意地の悪い顔をして言っていた。
 しかし、この仕事を受けた場合、きっとスイはその間休みになるだろうと、予想していた。多分、自分は彼女のお眼鏡にかなうことはないだろう。
 この仕事は正直、何日かかるかも分からない。殺人予告の日時もわからなければ、相手の見当もつかない。すぐに警察に捕まってくれればいいのだが、そうでなければ、ほとぼりが冷めるまで警護をやめるわけにはいかないだろう。さすがに、警察嫌いと言っても、捜査をすること自体は拒まれなかったのだが、その殺人予告が来た時点ですぐに警察に通報したわけでもないので、初動は遅れまくりで捜査はすぐに行き詰ってしまったらしい。
 そうなると、二人がその仕事をしている間、スイは完全に暇になってしまう。

 やっぱ、しばらくは一人でやろうかな。

 二人と一緒に仕事を受けるようになって、まだ、ほんの4カ月程度。未だに情報屋をやっていた頃に使っていたエージェントから、声がかかることもあったから、しばらくはまた一人での仕事を受けようかと思う。別に数ヶ月くらいなら仕事をしなくても食ってはいけるけれど、ワーカホリックの気があるスイにはそれも我慢ならなかった。
 スイのやり方なら情報収集の仕事は家にいる事の方が多いから、二人に会えないわけでもない。そもそも、普段から、一緒に仕事を受けているといっても、それぞれに行動していることも多いのだ。警護の仕事で二人が不定期で帰ってきたとしても、いつでも顔を合わせられるなら、普段よりも一緒にいられる時間は長くなるかもしれない。
 二人といる時間は今のスイにとって一番大切な時間だ。その時間が長くなるなら、悪くはないな。なんて、考えていた。

 ぴんぽーん。

 そんなことを考えていた時だった。事務所側のエントランスでチャイムが鳴った。
 朝と言っても、もう10時近い。来客があるのは不思議ではない。ゲームをしているユキ。まだ眠いのか、ソファで転寝をしているアキ。
 二人の寛いでいる時間を邪魔されたくなくて、スイはエントランスに行くために立ちあがった。

「あ。スイさん。俺行くよ?」

 それに気付いてユキが言う。
 でも、それを片手で制す。

「いいよ。俺出る」

 それから、リビングのドアを開けて事務所側に出た。

 ぴんぽーん。

 もう一度、チャイムが鳴る。

「あ。はい!」

 リビングのドアを出て、エントランスへ向かう。
 ドアチェーンを外して、スイはドアを開けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

たしかなこと

大波小波
BL
 白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。  ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。  彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。  そんな彼が言うことには。 「すでに私たちは、恋人同士なのだから」  僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

神子は再召喚される

田舎
BL
??×神子(召喚者)。 平凡な学生だった有田満は突然異世界に召喚されてしまう。そこでは軟禁に近い地獄のような生活を送り苦痛を強いられる日々だった。 そして平和になり元の世界に戻ったというのに―――― …。 受けはかなり可哀そうです。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

彩雲華胥

柚月なぎ
BL
 暉の国。  紅鏡。金虎の一族に、痴れ者の第四公子という、不名誉な名の轟かせ方をしている、奇妙な仮面で顔を覆った少年がいた。  名を無明。  高い霊力を封じるための仮面を付け、幼い頃から痴れ者を演じ、周囲を欺いていた無明だったが、ある出逢いをきっかけに、少年の運命が回り出す――――――。  暉の国をめぐる、中華BLファンタジー。 ※この作品は最新話は「カクヨム」さんで読めます。また、「小説家になろう」さん「Fujossy」さんでも連載中です。 ※表紙や挿絵はすべてAIによるイメージ画像です。 ※お気に入り登録、投票、コメント等、すべてが励みとなります!応援していただけたら、幸いです。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

処理中です...