遠くて近い世界で

司書Y

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BT.H

#1

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 ある朝の出来事だった。

 スイ達が住居を構える街は、賑やかなメインストリートからは少し離れた場所にある。しかし、住宅街というには少しばかり物騒な場所で、通りを少しだけ進むと飲み屋街が広がっていた。ただ、女性を侍らせたり、学生が大騒ぎするような場所ではなく、個人経営のバーや安い酒と料理が楽しめるようないわゆる小料理屋のような店がひっそりと、けれど、そこかしこに並んでいる場所だった。
 だから、街の朝は決して早くはない。ただ、こんなゴミゴミした街でも、朝には小鳥のさえずりが聞こえる。ずっと続いていた寒気がようやく緩んできて、春らしい陽光が窓の向こうから差し込んでいた。
 そんな、穏やかな朝。
 スイは、リビングのソファに座って、仕事の資料を読んでいた。先日、アキが説明を受けに行っていた警護の仕事の資料だ。特に変わった仕事ではない。

 人気のショーモデルに殺害予告が届いたらしい。
 ショービジネスにはよくあることで、事務所もあまりおおげさに考えてはいないようだった。ただ、彼女がそれをSNSで拡散させてしまったため、マスコミの報道が過熱して放ってはおけなくなった。しかし、彼女は酷い警察嫌いで、警察の警備は受けたくないと駄々を捏ねているらしかった。
 そのため、交代要員を含めて何組かのハウンドに白羽の矢が立ったのだが、その選考基準が独特だった。
 曰く『私の周りにいる人間なら、警護人もそれなりの容姿が必要に決まってる』だそうだ。

 意味わかんねえ。

 スイはため息をついた。
 警察が好きではないのはスイも同意見だが、無駄な予算を使って他人に迷惑をかけた挙句、命を危険に晒すほどのことなんだろうか。その上、警護人がショーに出るわけでも、雑誌の写真に載るわけでもあるまいに、見た目重視とは、お気楽なことだと飽きれてしまう。

 しかし『外見重視』という意味では、自分はともかく、アキやユキは問題ないと思う。と、いうよりも、文句のつけようがないだろう。
 特に、アキ。身長188センチ。すらりとした長身に広い肩幅。しかも、街を歩けば頬染めたおねえさんが、勝手に振り返っていく超のつく美形だ。日に透けると氷のように見える銀色の髪に、炎のような赤い瞳。目を惹かれない方が嘘だ。正直、ハウンドなんてするよりも、アキがモデルにでもなったほうが安全に稼げる気がしないでもない。
 そして、ユキ。身長185センチ。鍛え上げられて引きしまった身体に、精悍な顔つき。で、あるにも関わらず、ふとした時に見せる少年のような笑顔がギャップ萌えのお姉さま方にはどストライクだと思う。全く手を加えていない黒髪に黒い瞳は却って戦士のような凛々しさと、子供のような純朴さを引き立てている。
 いくら目が肥えている売れっ子モデルとはいえ、二人ほどの『逸材』には、目を奪われるだろう。

 しかし。だ。
 その横でおまけの自分はこの仕事には居場所がないと思う。少なくとも、容姿において人より秀でているところはないと、自覚している。別に小さいわけでもないのだが、巨人族の二人に囲まれると掴まった宇宙人状態だ。

「ロズウェル事件か……」

 わけのわからない突っ込みが思わず口から洩れた。

「は?」

 スイの独り言のあまりの不可解さにゲームをしていたユキが顔を上げる。

「え? なに?」

 ユキは頭の上にはてなマークをいくつも浮かべていた。そもそも、ロズウェル事件のことをユキは知っているだろうか? 多分、知ってはいないだろう。
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