遠くて近い世界で

司書Y

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L's rule. Side Hisui.

Gulab Jamun 1

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 真剣に見つめる先には、真っ直ぐに見つめ返してくれる赤い瞳があった。

「……俺が……“いやだ”って言っても……やめないで。それは、絶対に君への言葉じゃないから。だから、俺を君のものにしてほしい」

 今日。今。アキに抱いてほしい。
 古家から逃げ出した日“幸せになれない”と、あのおことが言った。その呪いを、アキの手で、解いてほしい。

「スイさん。どうしてもだめだったら、ちゃんと言うって約束してくれるか?」

 大きな手が頬に触れる。それから、紅玉の色の瞳がスイの瞳を見つめて来る。頷くだけでスイは答えた。

「分かった」

 アキの唇が、スイの唇に重なる。そして、そのまま、静かにベッドに押し倒された。
 一瞬。また、過る恐怖。身体が強張る。何度も何度も、深いキスをしながら、優しい指が頬から顎へ、それから、首筋へ、労わるように優しく触れる。
 まるで、スイの心の痛みを癒そうとしているかのようだった。

「……ん」

 鎖骨の辺りを撫でられて、鼻から吐息が漏れる。
 アキの優しい愛撫とは裏腹に、何度も蘇ってくるあの時の光景に、ぎゅっと閉じた目の端から、涙が零れた。

 違う。違う。タイトさんじゃない。

 何でも頭の中で繰り返す。それでも、過去は簡単にスイを解放してはくれなかった。

「スイさん。目。開けて。俺だよ?」

 耳元に甘いアキの声。目を開けると、いつもの表情のアキ。いや。いつもとは違う。夜の雰囲気を纏って、怖いくらいに真剣な顔だった。

「……あ……きくん」

 温もりを感じたくて、手を伸ばすと、その大きな手が細い指を握り返してくれる。
 空いたもう片方の手で、アキが服の上から胸元や脇腹、腰骨あたりを撫でる。そんな優しいアキの手にも、身体が強張る。
 見えるのだ。
 愛しい人に重なるように、あの男の顔。自分のことなんて、何も考えていない癖に、愛してるなんて言う、最低の男。アキとはなに一つとっても同じところなんてないはずなのに、ほかの人との経験などないスイには、性的な接触は全て古家に繋がってしまう。

 怖い。怖い。
 でも、アキをこれ以上傷つけたくない。

 相反する思いに裂けてしまいそうだと思う。

「ほら、言っただろ? 俺だけ見ててよ?」

 アキの指がそっと頬に触れた。
 その指に促されるままにアキを見ると、優しくて、艶っぽくて、綺麗なアキの顔がそこにあった。
 この人は違う。あの男とは違う。
 この人は本当に、自分を愛してくれている。自分勝手に押し付ける愛ではない。いつだって、スイのことを一番に考えていてくれている。
 そして、今その人は、自分に欲情している。少しだけ切なげに顰めた眉がそれをスイに伝えてくれた。
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