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L's rule. Side Hisui.
断ち切りたいのは過去という鎖です 3
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「……順を追って話すから……長くなると思うけど……。
俺さ。子供のころから……変なガキで。3歳くらいから、物理学書読んだり、PC言語マスターしたり、数学の証明問題をやったりしてたらしい。自分では、覚えてないけど。
あとで聞いたんだけど、IQ220以上なんだって。
母親は俺のこと気持ち悪い子だっていつも言ってた。本人の前でだよ? 親父はすごく厳しい人で、武道とかやらされて、そのくせ、俺の目を見て話をすることもできないような弱い人だった」
その頃のことは、覚えてはいるけれど、本当に自分のことではないように感じている。遠すぎて自分の記憶だという実感がない。
最初は両親も普通だった。“翡翠”と、美しい名前を付けてくれた人たちが、最初から自分のことを疎んでいたとは思いたくない。けれど、あまりに“普通”とかけ離れてしまった自分に、たぶん、疲れてしまったのだと思う。
「7歳の時に捨てられるみたいに施設に入れられて、なんていうか。あんまり人道的じゃない感じの施設で。実験動物みたいに扱われてた。その頃のことはあまり記憶にはない。ただ。毎日泣いてた気がする。でも、両親は迎えに来てくれることはなかったよ。
たしか、12歳の時だったと思うんだけど、ある人がそこから俺を助けてくれたんだ」
施設にいた頃のことは本当に殆ど夢の中の出来事のようだ。実際に向精神系の殆ど麻薬に近い薬物を投与されていたらしく、非人道的な仕打ちにも逆らうことはなかった。仮に薬がなかったとしても、生きるためにそこにいるしかないことも、自分は捨てられて独りになったのだということも理解できてしまっていたから、逆らえなかっただろう。
その人が現れるまでは。
「その人が、古家泰斗(ふるえたいと)って人で。菱川の橘会の人で。多分、別に俺のこと助けに来たわけじゃないんだけど……。きっと、アカデミーの情報とか、研究者とか。そいうの目当てだったんだと思う。俺、親にも捨てられたようなもんだし」
その人は、優しかった。
ただの気まぐれだったのかもしれない。でも、自分にとっては、殆ど初めて優しくしてくれた大人だった。
「でも、それから、10年以上。その人が親代わりになって、俺のこと育ててくれた。そのことには感謝してる。その人はいろんなものを俺にくれたし。人のぬくもりとか、幸せって言葉がこの世にあるってこととか、ナイフとか銃器の扱いとかも、古家に習った」
その人の顔を思い出して、スイは肩を震わせた。
出会った頃のその人は不器用でも優しくて、心配してくれたり、怒ってくれたり、我儘を聞いてくれたり、身体を壊せば看病してくれたり。スイが体験したことのがなかった、そして手に入れることを諦めていた”家族”の温もりそのものだった。
それなのに、今、思い出せるのは昏く薄く笑う空洞のような笑い顔だけだった。
「その人のこと父親とか、兄とか、俺はそんな風に思ってたんだ。そうじゃなかったら、先生かな。でも、あの人にとっては違ってた。
俺はそのころ、PCのスキルが認められて、橘の中でもそこそこな仕事をするようなってて。でも、そこを狙って、引き抜きをかけてきたヤツがいた。……これは、後でわかったことなんだけど、それが当時俺が付き合ってたっていうか……そんな感じになっている子だった」
その子のことを好きだったのかと問われると、よくわからない。恋愛とは違っていたように、今となっては思う。いつも、そばにいてくれて、優しくしてくれる年上の女性。そんな人、初めてだったから、大切だったことは間違いない。
もしかしたら、早くに自分を捨てた、母のかわりのように思っていたのかもしれない。
「その子。古家の父親違いの妹で。古家の家に転がり込んでてさ。ま。ようは色仕掛け……てことかな。でも、俺は全く古家を裏切るつもりなんてなかった。ただ、一人前と認められたいって気持ちが強くて、そのころ、古家の家を出て行こうとしてたんだ。
なんでだったんだろうな……リサと付き合うって言ったときだって、タイトさんは何も言わなかったのに……俺が家を出る話をした頃から、何かが変わった」
あれは。あの生活や温もりは、何だったんだろう。そして、あの日何故、あんなことになってしまったんだろう。
今でも思う。
古家は自分に何を望んで、どうして、一緒にいたのか。それを、どうして突然自らの手で壊してしまったのか。数学の正面問題よりも難解で、いくら考えてもスイには答えが出せなかった。
俺さ。子供のころから……変なガキで。3歳くらいから、物理学書読んだり、PC言語マスターしたり、数学の証明問題をやったりしてたらしい。自分では、覚えてないけど。
あとで聞いたんだけど、IQ220以上なんだって。
母親は俺のこと気持ち悪い子だっていつも言ってた。本人の前でだよ? 親父はすごく厳しい人で、武道とかやらされて、そのくせ、俺の目を見て話をすることもできないような弱い人だった」
その頃のことは、覚えてはいるけれど、本当に自分のことではないように感じている。遠すぎて自分の記憶だという実感がない。
最初は両親も普通だった。“翡翠”と、美しい名前を付けてくれた人たちが、最初から自分のことを疎んでいたとは思いたくない。けれど、あまりに“普通”とかけ離れてしまった自分に、たぶん、疲れてしまったのだと思う。
「7歳の時に捨てられるみたいに施設に入れられて、なんていうか。あんまり人道的じゃない感じの施設で。実験動物みたいに扱われてた。その頃のことはあまり記憶にはない。ただ。毎日泣いてた気がする。でも、両親は迎えに来てくれることはなかったよ。
たしか、12歳の時だったと思うんだけど、ある人がそこから俺を助けてくれたんだ」
施設にいた頃のことは本当に殆ど夢の中の出来事のようだ。実際に向精神系の殆ど麻薬に近い薬物を投与されていたらしく、非人道的な仕打ちにも逆らうことはなかった。仮に薬がなかったとしても、生きるためにそこにいるしかないことも、自分は捨てられて独りになったのだということも理解できてしまっていたから、逆らえなかっただろう。
その人が現れるまでは。
「その人が、古家泰斗(ふるえたいと)って人で。菱川の橘会の人で。多分、別に俺のこと助けに来たわけじゃないんだけど……。きっと、アカデミーの情報とか、研究者とか。そいうの目当てだったんだと思う。俺、親にも捨てられたようなもんだし」
その人は、優しかった。
ただの気まぐれだったのかもしれない。でも、自分にとっては、殆ど初めて優しくしてくれた大人だった。
「でも、それから、10年以上。その人が親代わりになって、俺のこと育ててくれた。そのことには感謝してる。その人はいろんなものを俺にくれたし。人のぬくもりとか、幸せって言葉がこの世にあるってこととか、ナイフとか銃器の扱いとかも、古家に習った」
その人の顔を思い出して、スイは肩を震わせた。
出会った頃のその人は不器用でも優しくて、心配してくれたり、怒ってくれたり、我儘を聞いてくれたり、身体を壊せば看病してくれたり。スイが体験したことのがなかった、そして手に入れることを諦めていた”家族”の温もりそのものだった。
それなのに、今、思い出せるのは昏く薄く笑う空洞のような笑い顔だけだった。
「その人のこと父親とか、兄とか、俺はそんな風に思ってたんだ。そうじゃなかったら、先生かな。でも、あの人にとっては違ってた。
俺はそのころ、PCのスキルが認められて、橘の中でもそこそこな仕事をするようなってて。でも、そこを狙って、引き抜きをかけてきたヤツがいた。……これは、後でわかったことなんだけど、それが当時俺が付き合ってたっていうか……そんな感じになっている子だった」
その子のことを好きだったのかと問われると、よくわからない。恋愛とは違っていたように、今となっては思う。いつも、そばにいてくれて、優しくしてくれる年上の女性。そんな人、初めてだったから、大切だったことは間違いない。
もしかしたら、早くに自分を捨てた、母のかわりのように思っていたのかもしれない。
「その子。古家の父親違いの妹で。古家の家に転がり込んでてさ。ま。ようは色仕掛け……てことかな。でも、俺は全く古家を裏切るつもりなんてなかった。ただ、一人前と認められたいって気持ちが強くて、そのころ、古家の家を出て行こうとしてたんだ。
なんでだったんだろうな……リサと付き合うって言ったときだって、タイトさんは何も言わなかったのに……俺が家を出る話をした頃から、何かが変わった」
あれは。あの生活や温もりは、何だったんだろう。そして、あの日何故、あんなことになってしまったんだろう。
今でも思う。
古家は自分に何を望んで、どうして、一緒にいたのか。それを、どうして突然自らの手で壊してしまったのか。数学の正面問題よりも難解で、いくら考えてもスイには答えが出せなかった。
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