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L's rule. Side Hisui.
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一人になると、雨が降っているせいか、雨音ばかりが耳について、寂しいような、心細いような気持ちになる。どうして、今日はそんな風に思うのだろうか。ずっと、独りでいたはずなのに。その時間をどんなふうに過ごしていたのか、よく思い出せない。
いたたまれなくなって、スイはテレビを付けた。急にやってきた喧騒が、今度はやけに大きく聞こえて、音量を絞る。
ため息を一つ。
いろいろなことが頭の中を通り過ぎていく。
本当にいいんだろうか。
アキも、ユキも、本当に自分でいいのだろうか。
そう思う。
あんなに魅力的な二人を自分が独占していていいのだろうか。
たとえば、二人のどちらかが、自分の子供がほしいといっても、男のスイにはそれをあげることはできない。
たとえば、二人が結婚してほしいといっても、同性婚が認められているとはいっても、戸籍すらないスイには籍を入れることはできない。
たとえば、ずっと一緒にいてほしいといってくれても、ほんの子供のころから多量の薬物を摂取してきた身体は、そんな願いをかなえることすらできないかもしれない。
その上、この身体は彼らが思ってくれているほど綺麗でもない。
自分が大切だと、思えるような生き方をしてこなかった。だから、身体は傷だらけで、背中には”アカデミー”時代の焼印まで残っていた。
それだけじゃない。
スイは思う。
この身体に残る一番大きな傷はそんなものじゃない。
いや。それは、傷ですらないかもしれない。
それは、呪いだ。
そんな自分が、本当に二人と一緒にいていいのか。
何度も、何度も、考えた。
でも、答えはいつも同じだった。
たとえ、どんな罰を受けてもいいから、一緒にいたいし、愛して、愛されたい。
だから、精一杯、スイは二人に愛情を投げ続けようと思う。二人が、自分の愛情をほしいと思ってくれている間は。
「……ずっと」
アキが、あなたを抱きたい。と言った時、やっぱり、幸せだった。
考えないといけないこととか、乗り越えなければならないこととか、沢山あるのは分かっていたけれど、彼が自分を求めてくれたことが、嬉しかった。
自分がその人を求めているのと同じだと思うのが嬉しかった。
「……きっと。アキ君となら……大丈夫」
自分に言い聞かせるように言う。
心の奥に、何かが湧き上がってくるのに、意図的に気付かないふりをする。
大丈夫。大丈夫。
かちゃ。と、リビングのドアが開く音が聞こえた。
振り返ると、そこにいたのはアキだった。その姿が見えたことに、無意識にスイは、ほうっ。と息をついた。
「あ。じゃ。次俺入るから……待ってて」
自分の言った言葉に顔が熱くなるのを感じる。
『待っていて』?
何を?
そう考えただけで、もう、恥ずかしくて耐えきれなくなって、逃げるようにバスルームに向かう。
そうしたら、アキの腕がスイの腕を掴んで、抱き寄せられた。温かな体温。早い鼓動が聞こえる。
「スイさん……愛してる」
耳元で聞こえた甘い声。アキの、大好きなアキの声。大切に紡がれる言葉が愛おしい。
「俺も……」
その腕を縋るように頬を寄せて、応える。
この瞬間だけは、自分はきっと、彼の望む、綺麗な自分になれている。きっと。
だから、きっと、大丈夫。自分はその人に応えられる。
名残惜しそうに頬を擽る腕を離れて、スイは、バスルームに向かった。
いたたまれなくなって、スイはテレビを付けた。急にやってきた喧騒が、今度はやけに大きく聞こえて、音量を絞る。
ため息を一つ。
いろいろなことが頭の中を通り過ぎていく。
本当にいいんだろうか。
アキも、ユキも、本当に自分でいいのだろうか。
そう思う。
あんなに魅力的な二人を自分が独占していていいのだろうか。
たとえば、二人のどちらかが、自分の子供がほしいといっても、男のスイにはそれをあげることはできない。
たとえば、二人が結婚してほしいといっても、同性婚が認められているとはいっても、戸籍すらないスイには籍を入れることはできない。
たとえば、ずっと一緒にいてほしいといってくれても、ほんの子供のころから多量の薬物を摂取してきた身体は、そんな願いをかなえることすらできないかもしれない。
その上、この身体は彼らが思ってくれているほど綺麗でもない。
自分が大切だと、思えるような生き方をしてこなかった。だから、身体は傷だらけで、背中には”アカデミー”時代の焼印まで残っていた。
それだけじゃない。
スイは思う。
この身体に残る一番大きな傷はそんなものじゃない。
いや。それは、傷ですらないかもしれない。
それは、呪いだ。
そんな自分が、本当に二人と一緒にいていいのか。
何度も、何度も、考えた。
でも、答えはいつも同じだった。
たとえ、どんな罰を受けてもいいから、一緒にいたいし、愛して、愛されたい。
だから、精一杯、スイは二人に愛情を投げ続けようと思う。二人が、自分の愛情をほしいと思ってくれている間は。
「……ずっと」
アキが、あなたを抱きたい。と言った時、やっぱり、幸せだった。
考えないといけないこととか、乗り越えなければならないこととか、沢山あるのは分かっていたけれど、彼が自分を求めてくれたことが、嬉しかった。
自分がその人を求めているのと同じだと思うのが嬉しかった。
「……きっと。アキ君となら……大丈夫」
自分に言い聞かせるように言う。
心の奥に、何かが湧き上がってくるのに、意図的に気付かないふりをする。
大丈夫。大丈夫。
かちゃ。と、リビングのドアが開く音が聞こえた。
振り返ると、そこにいたのはアキだった。その姿が見えたことに、無意識にスイは、ほうっ。と息をついた。
「あ。じゃ。次俺入るから……待ってて」
自分の言った言葉に顔が熱くなるのを感じる。
『待っていて』?
何を?
そう考えただけで、もう、恥ずかしくて耐えきれなくなって、逃げるようにバスルームに向かう。
そうしたら、アキの腕がスイの腕を掴んで、抱き寄せられた。温かな体温。早い鼓動が聞こえる。
「スイさん……愛してる」
耳元で聞こえた甘い声。アキの、大好きなアキの声。大切に紡がれる言葉が愛おしい。
「俺も……」
その腕を縋るように頬を寄せて、応える。
この瞬間だけは、自分はきっと、彼の望む、綺麗な自分になれている。きっと。
だから、きっと、大丈夫。自分はその人に応えられる。
名残惜しそうに頬を擽る腕を離れて、スイは、バスルームに向かった。
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