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L's rule. Side Hisui.
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「スイさん」
目を閉じたまま、ユキが話しかけて来る。
ふわりと、ユキが吸っているタバコの匂いがする。その匂いもスイは好きだった。
「ん? なに?」
髪を撫でる手は止めることなく、スイは答える。
「……なんか。悩んでる?」
ユキは時々、すごく鋭い。子供みたいなのに、スイの考えていることが全部筒抜けなんじゃないかと思えるようなタイミングで、どきり。とするようなことを聞いてきたりする。その質問に深い意図があるのか、ないのかは、判断できない。ただ、そんなときのユキの瞳は心の中を映す鏡のようで覗き込むのが怖くなってしまう。
「……どして?」
冷静を装って聞き返す。でも、思わず止まってしまった手に、ユキはスイの動揺に気付いてしまったと思う。
「んー。なんとなく」
ごろんと、スイの膝の上で転がって、上を向いて、その黒曜石の色の瞳が見上げて来る。じっと覗きこんでくるその瞳は、やはり、何もかも見透かしているようだった。
「大丈夫だよ」
スイの葛藤も、怯えも、戸惑いも全部分かっているようにユキは言った。少し体温の高いユキの手が、頬に伸びて、そっと触れる。温かい。この温かい手も大好きだ。
「俺も、兄貴も、スイさんの味方だから。大丈夫」
彼は本当に全部分かっているんだろうか。スイは思う。本当は何もかも知っていて、それなのに知らないふりをしてくれているんじゃないだろうか。
誰にも話せないスイの秘密も。本当は知ってしまっているんじゃないだろうか。
「だから、スイさんはスイさんのしたいようにすればいいんだよ」
そっと身体を起して、ユキの唇がスイの唇に触れた。小鳥が啄むようなキス。隙を見つけては繰り返す悪戯のような触れ合いが心地いい。
「ユキ君」
言いたいことを言うと、もう一度、スイの膝に頭を預けて、ユキはにっこりと笑った。さっきとは打って変わって何も知りません。というような、屈託ない笑顔だった。
「とか、カッコつけて言ってみたけど……これで悩んでなかったら、カッコ悪すぎだよなぁ」
へへ。と、笑ってユキが言った。その笑顔がすごく可愛くて、スイはその頭をそっと抱き締めた。
「ありがと。ユキ君は優しいな」
気持ちが溢れだす。二人の優しさとか、愛おしさとか、強さとか、そんな温かなものに触れると、きっと、大丈夫と、思えるから不思議だ。この愛しい人たちとなら、自分は何もなかった頃の、幸せだった頃の自分に戻れる。そう、信じようと思えた。
「ご褒美は?」
悪戯っ子のような笑顔になってユキが言う。だから、スイはユキの髪にキスをした。
「そこじゃないでしょ?」
ユキの温かい手が伸びてきて、スイの首に触れた。それから、そっと引っ張られて唇を奪われる。
「大好きだよ。スイさん」
可愛い笑顔を浮かべて、ユキが、スイの腰を抱くように手を回して、また目を閉じる。
こんな時間がスイは堪らなく好きだ。二人が好きだと言ってくれると、自分がとても優しくて、綺麗なものになれたような気がする。それは、ただの錯覚かもしれないけれど、二人の温もりがそばにある時だけは信じられる真実だった。
目を閉じたまま、ユキが話しかけて来る。
ふわりと、ユキが吸っているタバコの匂いがする。その匂いもスイは好きだった。
「ん? なに?」
髪を撫でる手は止めることなく、スイは答える。
「……なんか。悩んでる?」
ユキは時々、すごく鋭い。子供みたいなのに、スイの考えていることが全部筒抜けなんじゃないかと思えるようなタイミングで、どきり。とするようなことを聞いてきたりする。その質問に深い意図があるのか、ないのかは、判断できない。ただ、そんなときのユキの瞳は心の中を映す鏡のようで覗き込むのが怖くなってしまう。
「……どして?」
冷静を装って聞き返す。でも、思わず止まってしまった手に、ユキはスイの動揺に気付いてしまったと思う。
「んー。なんとなく」
ごろんと、スイの膝の上で転がって、上を向いて、その黒曜石の色の瞳が見上げて来る。じっと覗きこんでくるその瞳は、やはり、何もかも見透かしているようだった。
「大丈夫だよ」
スイの葛藤も、怯えも、戸惑いも全部分かっているようにユキは言った。少し体温の高いユキの手が、頬に伸びて、そっと触れる。温かい。この温かい手も大好きだ。
「俺も、兄貴も、スイさんの味方だから。大丈夫」
彼は本当に全部分かっているんだろうか。スイは思う。本当は何もかも知っていて、それなのに知らないふりをしてくれているんじゃないだろうか。
誰にも話せないスイの秘密も。本当は知ってしまっているんじゃないだろうか。
「だから、スイさんはスイさんのしたいようにすればいいんだよ」
そっと身体を起して、ユキの唇がスイの唇に触れた。小鳥が啄むようなキス。隙を見つけては繰り返す悪戯のような触れ合いが心地いい。
「ユキ君」
言いたいことを言うと、もう一度、スイの膝に頭を預けて、ユキはにっこりと笑った。さっきとは打って変わって何も知りません。というような、屈託ない笑顔だった。
「とか、カッコつけて言ってみたけど……これで悩んでなかったら、カッコ悪すぎだよなぁ」
へへ。と、笑ってユキが言った。その笑顔がすごく可愛くて、スイはその頭をそっと抱き締めた。
「ありがと。ユキ君は優しいな」
気持ちが溢れだす。二人の優しさとか、愛おしさとか、強さとか、そんな温かなものに触れると、きっと、大丈夫と、思えるから不思議だ。この愛しい人たちとなら、自分は何もなかった頃の、幸せだった頃の自分に戻れる。そう、信じようと思えた。
「ご褒美は?」
悪戯っ子のような笑顔になってユキが言う。だから、スイはユキの髪にキスをした。
「そこじゃないでしょ?」
ユキの温かい手が伸びてきて、スイの首に触れた。それから、そっと引っ張られて唇を奪われる。
「大好きだよ。スイさん」
可愛い笑顔を浮かべて、ユキが、スイの腰を抱くように手を回して、また目を閉じる。
こんな時間がスイは堪らなく好きだ。二人が好きだと言ってくれると、自分がとても優しくて、綺麗なものになれたような気がする。それは、ただの錯覚かもしれないけれど、二人の温もりがそばにある時だけは信じられる真実だった。
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