遠くて近い世界で

司書Y

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L's rule. Side Akiha.

可愛い人が俺を尊死させようとしてきます 3

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 リビングに行くと、いい匂いが迎えてくれた。今日はフレンチトーストだな。と思う。甘い匂いだ。それから、コーヒーの匂い。カウンターの上にはもう、オレンジとキウイのフルーツサラダが載っていた。

「あ。ユキ君。おはよう」

 カウンターの向こうでスイが微笑む。
 いつもと同じ光景だ。寝起きの悪いアキはユキより先に起きてくることは殆どない。だから、朝一番にスイにおはようを言ってもらうのはユキの特権だ。いつもなら。

「……あ。おはよ」

 けれど、今日は、そうではないと、一目見て、分かってしまった。
 それが、なんでなのかと聞かれたら、多分、その答えは、彼が昨日より綺麗だったから。
 ゆったりとした、ハイネックのセーターを着て、好んで穿いている黒いジーンズで。珍しく髪を下ろしたままで、その髪を耳にかけて、少しだけ赤く見える目元。それから、少しだけ掠れた声。
 多分、自分でなかったら気付かなかったと思う。

 きっと、兄はこの人を抱いたのだ。
 だから、今日、目覚めて一番にスイにおはようをもらったのは多分兄だ。

 スイはいつもよりずっと綺麗に見えるのは、いや、実際にいつもよりずっとスイが綺麗なのは、兄にすべてを愛されたからだ。
 思って、少し複雑な気持ちになる。
 わかっていた。多分、アキの方が先にこの人と結ばれるんだということ。
 兄の方が先にスイを好きになって、兄の方が先にキスをして。
 やっぱり、身体を繋げるのも兄の方が先だった。
 分かっているけれど、この気持ちをどうすることもできなかった。
 これは、嫉妬だ。

「ユキ君? どうした?」

 スイが近くまで来て、顔を覗きこんでくる。ふわり。と、香る。スイの身体から兄の香り。目元に泣きはらした跡。それなのに、幸せそうな笑顔。

「スイさん」

 堪らなくなって、スイを抱き締めた。
 兄が憎いとか、いなくなればいいとか、そんなことは思っていない。二人が関係を持ったとしても、二人に対する気持ちは変わらない。それでも、喉の奥につかえたものは、思っていたよりもずっと重くて、大きかった。

「……ユキ君?」

 されるままになって、困惑したようにスイが小さな声で囁いた。

「……ごめん。ちょっとだけ……このままでいてよ」

 きっと、声が震えていたのだと思う。泣いていたのかもしれない。悔しくて。
 我慢していたわけじゃない。本当にユキは自分が兄に嫉妬していることに今まで気付いていなかった。気付かないふりをしていたわけでもない。ただ、スイは自分のことを大好きだと言ってくれるけど、自分は兄に勝てることが何もないから、置いていかれてしまったようで、絶対に追いつける日が来ない気がして、不安になるのだ。
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