遠くて近い世界で

司書Y

文字の大きさ
上 下
154 / 414
L's rule. Side Akiha.

俺にもあなたに話せないことがあります 3

しおりを挟む
「スイさん」

 スイの部屋のベッドの端に彼を下ろして、アキは向かい合うようにベッドの下に膝をついて座った。その顔を覗きこむ。風呂上がりで髪を下ろしているから、いつもと印象が違う。酷く無防備に見えるのが、自分にすべて許してくれているからなのかと思うと堪らない。

「また、軽くなったんじゃない? 無理してないか?」

 逸る気持ちをおさえて、優しく頬を撫でると、少し擽ったそうに首をすくめて、スイは首を横に振った。

「無理なんてしてない。すごく幸せだよ」

 本当に幸せそうなスイの表情に安堵する。強がることが得意なスイだけれど、幸せだと言った言葉に嘘はないと思う。

「……あの……さ。アキ君」

 頬を撫でるアキの手に自分の手を重ねて、スイが言う。頬が赤い。きっと、風呂上がりだから。ではない。

「……その。……うまく……できなかったら……ごめん」

 少し不安げに言うスイが愛おしくて、アキはその細い身体を強く抱き締めた。

「スイさんが、俺を許してくれるだけで。俺だって、幸せだ」

 そして、その思いのまま、優しくスイをベッドに横たえる。心が逸って乱暴にしてしまうのが怖くて、ことさら優しく。それから、額にかかる長い髪をそっと手で梳いてそこにキスを落とす。

「アキ……くん」

 瞼に、頬に、鼻先に、最後に自分の名を呟く唇に。一度、二度。三度目からは口づけは深いものに変わった。

「……んん……っん」

 舌先が絡み合って、水音が響く。スイの喉奥から、子猫の鳴くような声が漏れて、その声に煽られて、キスがより深くなっていった。
 苦しげに寄せた眉も、熱い舌の感触も、その甘い声も、縋るようにアキの服を握る細い手も、所在なげにすり合わせた脚も、堪らない。全部がアキの中の雄の部分を煽って、性急になってしまうのを抑えるのがやっとだ。

「……ん……ぁ」

 ゆったりとしたTシャツの裾から、そっと脇腹に手を入れた時だった。

「……あ」

 スイが僅かに身を捩る。くすぐったいのだろうかと思う。だから、そのまま手を進めると、急にスイの身体が強張った。

「……ま……って……あ、やだっ」

 アキの身体を両手で拒絶するように押しのけようとして、はっとしてスイが固まる。自分のしてしまったことが信じられないとでも言うように、見開かれた目で、自分自身の手を見つめている。

「……あ。ごめ……あの」

 そのスイの手は僅かに震えていた。

「あ。悪い。やだった?」

 正直、拒絶されたことがショックで、アキは傷ついたという表情を隠せていなかったと思う。スイも自分と身体を重ねることを幸せだと思ってくれていると思っていたから。それとも、やっぱり、自分のために無理をしていたんだろうか。

「ちが……っ。あの……」

 スイの瞳にみるみる涙がたまっていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

とろけてまざる

ゆなな
BL
綾川雪也(ユキ)はオメガであるが発情抑制剤が良く効くタイプであったため上手に隠して帝都大学附属病院に小児科医として勤務していた。そこでアメリカからやってきた天才外科医だという永瀬和真と出会う。永瀬の前では今まで完全に効いていた抑制剤が全く効かなくて、ユキは初めてアルファを求めるオメガの熱を感じて狂おしく身を焦がす…一方どんなオメガにも心動かされることがなかった永瀬を狂わせるのもユキだけで── 表紙素材http://touch.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=55856941

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

彩雲華胥

柚月なぎ
BL
 暉の国。  紅鏡。金虎の一族に、痴れ者の第四公子という、不名誉な名の轟かせ方をしている、奇妙な仮面で顔を覆った少年がいた。  名を無明。  高い霊力を封じるための仮面を付け、幼い頃から痴れ者を演じ、周囲を欺いていた無明だったが、ある出逢いをきっかけに、少年の運命が回り出す――――――。  暉の国をめぐる、中華BLファンタジー。 ※この作品は最新話は「カクヨム」さんで読めます。また、「小説家になろう」さん「Fujossy」さんでも連載中です。 ※表紙や挿絵はすべてAIによるイメージ画像です。 ※お気に入り登録、投票、コメント等、すべてが励みとなります!応援していただけたら、幸いです。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

処理中です...