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FiLwT
後日談 ただただイチャコラしたいだけの話 1
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とある昼下がり。リビングの壁を見つめて、アキは悩んでいた。
いろいろ、もろもろあってスイに気持ちが伝わって、今は付き合い始めの一番幸せな時。何の因果か弟と恋人をシェアすることになったけれど、それなりにうまくやっている。と、アキは思っている。
「どうした?」
壁を見つめるアキの背後から、男性にしては少し高めの声。スイの声だ。振り返ると、この世界で一番可愛い人がいる。
正直な話、アキは自分はそこそこ、いや結構。かなり、すごく独占欲が強い方だと思う。付き合いたてのこんな可愛い人を半分は弟にとられるとかあり得ないと思っていた。
でも、意外なことにあまり腹が立つことはなかった。なおかつ、ユキに膝枕をして頭を優しく撫でているスイを見て、何故かほっこりとした気分になるというよくわからない感情にアキも困惑していた。
ただ、一つだけ気に食わないことがある。
「ん。これ。穴開いたままだろ? ちゃんと直してもらおうかと思って」
それは、菱川の襲撃のときについてしまった銃弾の跡だった。小さいし、インテリアの一部だと開き直って、ほったらかしにしていた。しかし、警察が発行する特殊業務代行者免許なる長ったらしい名前のライセンスを取得して、仕事の幅を広げようと思い立って、資料を取り寄せたところ、固定の事務所が必要になると明記されていた。そうなると、別の部屋を借りるのも無駄な出費になるし、ここを事務所にしなければいけない。さらにそうなったら、インテリア。では済まされなくなるのは間違いなかった。
穴を塞ぐだけならいいのだが、へたくそが撃ったために、結構広範囲で直さなければならないのだ。
また、無駄な出費が増える。と、ため息が出た。
それはもう仕方ないことだし、諦めている。穴をあけたヤツには腹が立つが、そいつはもう鬼籍に入っているから、代償は払わせたと言える。
だから、気に食わないことはそれではない。
「……あのさ」
壁の穴をスイが指でなぞる。細い指が綺麗だと思う。
「ここ。直すなら、壁抜いて、扉付けようか?」
アキを振り返ってスイが言った。
いいことを思いついた!とでも言うようなドヤ顔である。まあ、それも可愛いから別にかまわないのだが。
問題は、そのスイの無防備さなのだ。
「ほら、これちょうどドア付けたらなくなるくらいの大きさだろ? この向こう、俺のとこのリビングだし。ここ通れたら、近道だよな」
少し考えてから、アキはため息をつく。
そんなことはもちろん、アキだって先に考えた。スイの部屋はアキとユキの部屋と完全に左右対称になっていて、二人の部屋のリビングの壁の向こうはスイの部屋のリビングだ。そこからいったん外に出ずにスイの部屋へ行けたらいいなんて、付き合いたての恋人が考えないと本当に思っているんだろうか。
スイは無防備で本当に怖い。自分を煽っているのだろうかと、本気で思う。
けれど、彼は完全に無自覚なのだ。多分。
志狼のことでも分かっているのだが、スイは自分に向けられる、なんというか、男の欲望?に無自覚すぎる。スイがいつも劣等感に苛まれているのはしっているけれど、それにしても自分を知らなすぎる。
「スイさん。言ってる意味、分かってる?」
きょとんとして、スイは考え込んだ。
くそ。可愛い顔しやがって。
アキは思う。
相変わらず、本当にこういうことには疎い。とても、頭のいい人なのに自分のことにはとことん疎い。
いつも、髪を纏めているから、綺麗なうなじ見せ放題。人付き合いが苦手だからって何かって言うと笑って誤魔化すもんだから、可愛い笑顔見せ放題。狙われていることに気付かないから、男に声かけられ放題。腕に自信があるもんだから、無防備な姿晒し放題。
その細い首も腰も肩も腕も指先も、柔らかそうな髪も唇も、翠の瞳も、高めの声も、どれだけ飢えた獣を煽っているかなんて気づきもしないのだ。
いろいろ、もろもろあってスイに気持ちが伝わって、今は付き合い始めの一番幸せな時。何の因果か弟と恋人をシェアすることになったけれど、それなりにうまくやっている。と、アキは思っている。
「どうした?」
壁を見つめるアキの背後から、男性にしては少し高めの声。スイの声だ。振り返ると、この世界で一番可愛い人がいる。
正直な話、アキは自分はそこそこ、いや結構。かなり、すごく独占欲が強い方だと思う。付き合いたてのこんな可愛い人を半分は弟にとられるとかあり得ないと思っていた。
でも、意外なことにあまり腹が立つことはなかった。なおかつ、ユキに膝枕をして頭を優しく撫でているスイを見て、何故かほっこりとした気分になるというよくわからない感情にアキも困惑していた。
ただ、一つだけ気に食わないことがある。
「ん。これ。穴開いたままだろ? ちゃんと直してもらおうかと思って」
それは、菱川の襲撃のときについてしまった銃弾の跡だった。小さいし、インテリアの一部だと開き直って、ほったらかしにしていた。しかし、警察が発行する特殊業務代行者免許なる長ったらしい名前のライセンスを取得して、仕事の幅を広げようと思い立って、資料を取り寄せたところ、固定の事務所が必要になると明記されていた。そうなると、別の部屋を借りるのも無駄な出費になるし、ここを事務所にしなければいけない。さらにそうなったら、インテリア。では済まされなくなるのは間違いなかった。
穴を塞ぐだけならいいのだが、へたくそが撃ったために、結構広範囲で直さなければならないのだ。
また、無駄な出費が増える。と、ため息が出た。
それはもう仕方ないことだし、諦めている。穴をあけたヤツには腹が立つが、そいつはもう鬼籍に入っているから、代償は払わせたと言える。
だから、気に食わないことはそれではない。
「……あのさ」
壁の穴をスイが指でなぞる。細い指が綺麗だと思う。
「ここ。直すなら、壁抜いて、扉付けようか?」
アキを振り返ってスイが言った。
いいことを思いついた!とでも言うようなドヤ顔である。まあ、それも可愛いから別にかまわないのだが。
問題は、そのスイの無防備さなのだ。
「ほら、これちょうどドア付けたらなくなるくらいの大きさだろ? この向こう、俺のとこのリビングだし。ここ通れたら、近道だよな」
少し考えてから、アキはため息をつく。
そんなことはもちろん、アキだって先に考えた。スイの部屋はアキとユキの部屋と完全に左右対称になっていて、二人の部屋のリビングの壁の向こうはスイの部屋のリビングだ。そこからいったん外に出ずにスイの部屋へ行けたらいいなんて、付き合いたての恋人が考えないと本当に思っているんだろうか。
スイは無防備で本当に怖い。自分を煽っているのだろうかと、本気で思う。
けれど、彼は完全に無自覚なのだ。多分。
志狼のことでも分かっているのだが、スイは自分に向けられる、なんというか、男の欲望?に無自覚すぎる。スイがいつも劣等感に苛まれているのはしっているけれど、それにしても自分を知らなすぎる。
「スイさん。言ってる意味、分かってる?」
きょとんとして、スイは考え込んだ。
くそ。可愛い顔しやがって。
アキは思う。
相変わらず、本当にこういうことには疎い。とても、頭のいい人なのに自分のことにはとことん疎い。
いつも、髪を纏めているから、綺麗なうなじ見せ放題。人付き合いが苦手だからって何かって言うと笑って誤魔化すもんだから、可愛い笑顔見せ放題。狙われていることに気付かないから、男に声かけられ放題。腕に自信があるもんだから、無防備な姿晒し放題。
その細い首も腰も肩も腕も指先も、柔らかそうな髪も唇も、翠の瞳も、高めの声も、どれだけ飢えた獣を煽っているかなんて気づきもしないのだ。
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