遠くて近い世界で

司書Y

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後日談 やっぱり可愛いもん勝ち 4

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「でもさ。今度からは、危ないところ行くときは、俺たちのこと頼ってよ?」

 不意に少し真剣な表情を作って、ユキはスイの目を見つめる。その視線に一瞬、見入ってから、スイはこくり。と、素直に頷いた。頬が少し赤い。

「結局、警察来たどさくさで簡単に帰れたけど……あれって、何とか大臣の息子だったんでしょ? 口封じされてもおかしくなかったんだよ」

 普段、ユキは仕事の背後関係などは興味がなく、殆どアキに丸投げにしているが、今回のことは、ユキにしてはある程度まともに事態を把握している。スイのことが心配だからだろう。

「ああ。それは大丈夫」

 けれど、スイはきっぱりと言い切った。それから、にっこりと笑う。

 ああ。この顔は知っている。

 アキは、思う。
 敵認定している相手に容赦がないのはスイも同じだ。いや、スイの方が多分性質が悪い。

「いきなりニコが暴走しちゃったから、タイムラグができちゃったけど、大まかな作戦に変わりはなかったし」

「え?」

 スイは知っている。それが早いか遅いかの違いだけで、スイの張った罠に獲物がかからないことなどありえないと。

「もともと、警察はメディスンの販売経路も犯人も分かってたんだよ? ただ、『何とか大臣』の息子……や。実は黒幕自体、『何とか大臣』なんだけどさ。まあ、とにかく圧力かけられて手出しできなかっただけ。きっかけがあれば、すぐにでも逮捕に踏み切りたかったんだよ」

 スイからある程度の情報は聞いていたから、それはアキにも想像がついた。

「この事件自体、明るみに出れば失脚どころか、逮捕間違いなしだけど、BIG Hの常連客には面倒くさい大物が多くてね。政治家も多いし、マスコミ関係とか、医学界とか。そういう常連客だって、ことがバレると一蓮托生だから、もみ消しに協力してたわけ。
 だから、まずは、そいつらが裏工作してもみ消してる余裕なんてなくなればいいかな。って、思って」

 ユキは興味を持ってはいないのだが、ここ数日。世間は大騒ぎになっている。
 現役の大臣の約半数が何らかの問題で失脚を余儀なくされているのだ。さらには一部上場企業の重役や、大学病院の理事の不祥事、新聞社、出版社の捏造・隠ぺい疑惑と、まるで祭りのような騒ぎだ。もちろん、『何とか大臣』も海を挟んだ某大国への禁止薬物の持ち出しが発覚して、現在逮捕拘留されている。息子の在籍している某四流大学の学長もそれに関わったとされて事情聴取を受けていた。
 どの問題も、新聞の一面を飾るのに遜色ない大問題ばかりだ。おそらく、どれ一つとっても歴戦の刑事や記者が時間をかけて裏取して証拠を集めてようやく日の目を見るようなものばかりだ。いや、証拠を集めきれずにもみ消される事案もあるだろう。

「数、多すぎて情報リークしてから話題になるまでに想像していたより時間がかかって。しかもニコが乗り込んじゃうし……たまたま、店の表の方に×××国の国家主席の孫がお忍びで来てるの掴んでたから、使えると思って、侵入の前についでに通報しといた。ほら、あの国の主席の孫ってさ、今回来たヤツの兄貴? 去年空港で毒殺されてるだろ? だから、たまたまじゃくて、警察が来たのは多分そっちが本命」

 ×××国とは民主主義とは名ばかりの絶対王政国家で、後継者争いでたびたび人死にが出る国だ。権力争いからはドロップアウトしたはずの継承権下位の男がふらふらと海外で遊びまわっていて、公共交通機関の施設で毒殺されたのは記憶に新しい。
 それでもなお、その殺された後継者候補の弟(父親に妾が20人以上いて腹違い)は自重もせずに、ろくな護衛もつけないまま他国に隠密裏に入国しては有名観光スポットを遊び歩いているらしい。密入国されたうえに殺されたり、事件を起こされたりしたら、当事国はたまったものではない。だから、信憑性の高い情報をリークしてやれば、警察も確認のために動くだろう。
 と、言うような情報を、もちろん、ユキは理解しているはずがなく、すでに頭の上には?がいくつも浮かんでいた。

「騒ぎに乗じて逃げるつもりだったけど……甘かったな。結局自分だけじゃどうにもならなかった。
 心配しなくても、もう、一人で無茶したりしない。ちゃんと、相談する」

 自嘲気味に笑ってから、少し真剣な顔をして、スイはアキとユキの顔を交互に見て、言った。
 約束してくれたのはいい。スイが望むなら、何でも力を貸すし、どんな危険も厭わない。
 けれど、気になることはある。
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