遠くて近い世界で

司書Y

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後日談 やっぱり可愛いもん勝ち 3

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「あのさ。シロ君がユキ君も一緒にどうかって。どうする?」

 暗転した画面を見つめて一息ついてから、振り返ってスイが言う。
 もちろん、ユキは川和志狼に会ったことはない。それをわざわざ呼ぶ意味に、スイは気付かないだろう。

「俺も? いいの?」

 ユキは気付いているか気付いていないのか、いまいちわかりかねる返答をする。

 それは宣戦布告だぞ。

 と、アキは心の中で呟いた。
 あの男・川和志狼はおそらく、アキとユキを値踏みするつもりだ。スイに心の内を告げる勇気すらない癖に(まあ、これはスイから告白してもらったアキだって偉そうなことは言えないのだが)自分たちがスイのそばにいるのに相応しいのか確かめるつもりなのだ。さらにいうなら、相応しくないと判断したときには全力で叩きつぶしにかかるだろう。
 じつに面白くない。

「いいね。面白そう」

 一瞬。ほんの一瞬だけ、ユキの天真爛漫な笑顔に鋭利な何かが混ざった気がした。と、感じた瞬間には、もう、いつものユキに戻っている。

「じゃ。俺もいく」

 どうやら、ユキも川和志狼のメッセージを相違なく受け取ったらしい。
 紛争地帯にでも行くんじゃないか。というような殺気だった。そのくせ、一瞬後にはテーマパークに連れて行ってもらえると決まった子供のような笑顔になっているのが末恐ろしい。

「……う……ん……?」

 ユキの感情の一瞬の変化には気付いても、それがどうしてかなんてわからないスイはイマイチ腑に落ちないという顔で考え込んでいた。

「川和さん? こないだの助けてくれた人なんだろ?」

 そんなスイの心中を察したのか、ユキは言った。

「『俺の』スイさんがお世話になったんだから、ちゃんとお礼しないと」

 笑顔は屈託ないのだが、その『お礼』とやらが、どんなものなのか考えるとうすら寒く感じる。ユキは恐ろしく人当たりがいいけれど、敵と認識すると途端に容赦なくなるからだ。アキが川和志狼を明確に敵認定しているから、いい感情を持ってはいないだろう。

「……うん。じゃあ、三人で行くってLINEする」

 スイが再びスマートフォンを手に取ると、ユキはそれを止めるようにその手に自分の手を重ねた。
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