140 / 414
FiLwT
後日談 やっぱり可愛いもん勝ち 2
しおりを挟む
ヴヴヴヴ。ヴヴヴヴ。
そんなことを考えていると、カウンターの上に置かれたスイのスマートフォンが不意に着信を伝えてきた。ごめん。と、声に出さず、口を動かすだけで告げてから、スイはディスプレイを確認した。それから、アキの顔を見る。一瞬、躊躇い、スイは画面をタップした。
「はい。……うん。スイだよ……シロ君?」
聞こえてきた相手の名前に一瞬にして、警戒心が高まる。
川和志狼。また、あいつだ。
今、アキが一番気に入らない男。
「うん。ニコのことありがと。気付いてくれて助かった。……うん。摘発されたって。……そっちは? ……よかった。……え? あ。うん。いいけど……」
ちら。と、窺うような視線をスイが寄越す。それから、スマートフォンを耳から離した。
「あの……さ。アキ君」
おずおずと、言いづらそうにスイが口を開く。
「シロ君。こないだ、BIG Hのとき助けてもらって……その……お礼したいってLINEしたら、食事どうかって。行ってもいいかな?」
確か、あの日、電話でスイは『LINEする』と、言っていた。スイの性格上、借りを作ったままにはしたくなかったのだと思う。
それは分かっている。
「……なんで、それ、俺に聞くわけ?」
分かってはいるけれど、面白くはない。
だから、アキはぶっきらぼうに答える。
あの男は間違いなくスイが好きなのだ。しかも、自分たちがスイと知り合うずっと以前から。
おそらくは、表面でもスイがこうなってくれたら助かる。と、思うことをしているだろうし、表面上見えないように裏で手を回すようなこともしているだろう。あの男の立場ならそれが可能だ。
もちろん、それに気付かないスイではないから、シロに対して悪い感情は持ってはいないと思う。
それが、いちいち面白くない。
「え? や。だって、シロ君に会うときは教えろって、アキ君が言ったから」
でも、スイにそんなふうに言われると、結局『会うな』とは、言えなくなる。
「ダメかな?」
上目遣いにそんな懇願するように言われたらなおさらだ。
心中では雨雲みたいなもやもやが消えないけれど、スイに『器のちっさい男』とは思われたくない。しかも、付き合いたての恋人のおねだりは無下につっぱねるには可愛すぎた。
「ダメ。って、言ったら、スイさん困るんだろ? いいよ」
こんなことでこんなふうに嫉妬する自分にもアキは初めて気づいた。スイはあんな一方的な約束を守って、お伺いまで立ててくれているのに、自分の方はあの男がスイのスマートフォンの番号を知っているだけで不快なのだ。
それでも、格好つけたい。こんなことくらいでヤキモチを妬いているのは、知られたくない。
「その代わり、俺もついてく」
そんなせめぎ合いの妥協点は結局そこだった。
「え? アキ君、シロ君のこと苦手じゃなかった?」
きょとん。と、音がするような顔でスイが聞いてくる。スイは頭がいい。たとえば、川和志狼がどんなに知られまいと注意して、裏で手を回してスイの仕事に助け舟を出しても、すぐに気づくはずだ。
でも、スイは他人が自分に向ける感情に対して、驚くほどに鈍いのだ。だから、きっと今だって、アキが嫉妬してるなんて、夢にも思わないんだろう。
「苦手じゃない。嫌いなだけ」
溜め息を堪えながら、アキは答えた。
嫉妬しているのは知られたくない。でも、こんなに無防備で大丈夫なんだろうか。と、不安になる。
「同じじゃん」
スイの呟きに、彼の向こうにいるユキがなんとも言えない顔をしていた。信じられないと驚いているような、前途を嘆いているような、哀れなものを見るような表情だ。多分、ユキにはアキの気持ちがわかっているだろう。
何も言わず、ユキは首を左右に振った。
「言ってほしいなら、ダメって言うよ?」
少し意地の悪い言い方をすると、スイは首をぶんぶんと横に振って、再度スマートフォンに向かって話し始めた。
「待たせてごめん。……大丈夫。うん。……え? そんなことないけど……あ。けどアキ君も来るって。……大丈夫? 嫌なら……え? うん。いいけど……わかった。またLINEする。……うん。電話ありがと」
スマートフォンの画面をタップして、スイは通話を終えた。
そんなことを考えていると、カウンターの上に置かれたスイのスマートフォンが不意に着信を伝えてきた。ごめん。と、声に出さず、口を動かすだけで告げてから、スイはディスプレイを確認した。それから、アキの顔を見る。一瞬、躊躇い、スイは画面をタップした。
「はい。……うん。スイだよ……シロ君?」
聞こえてきた相手の名前に一瞬にして、警戒心が高まる。
川和志狼。また、あいつだ。
今、アキが一番気に入らない男。
「うん。ニコのことありがと。気付いてくれて助かった。……うん。摘発されたって。……そっちは? ……よかった。……え? あ。うん。いいけど……」
ちら。と、窺うような視線をスイが寄越す。それから、スマートフォンを耳から離した。
「あの……さ。アキ君」
おずおずと、言いづらそうにスイが口を開く。
「シロ君。こないだ、BIG Hのとき助けてもらって……その……お礼したいってLINEしたら、食事どうかって。行ってもいいかな?」
確か、あの日、電話でスイは『LINEする』と、言っていた。スイの性格上、借りを作ったままにはしたくなかったのだと思う。
それは分かっている。
「……なんで、それ、俺に聞くわけ?」
分かってはいるけれど、面白くはない。
だから、アキはぶっきらぼうに答える。
あの男は間違いなくスイが好きなのだ。しかも、自分たちがスイと知り合うずっと以前から。
おそらくは、表面でもスイがこうなってくれたら助かる。と、思うことをしているだろうし、表面上見えないように裏で手を回すようなこともしているだろう。あの男の立場ならそれが可能だ。
もちろん、それに気付かないスイではないから、シロに対して悪い感情は持ってはいないと思う。
それが、いちいち面白くない。
「え? や。だって、シロ君に会うときは教えろって、アキ君が言ったから」
でも、スイにそんなふうに言われると、結局『会うな』とは、言えなくなる。
「ダメかな?」
上目遣いにそんな懇願するように言われたらなおさらだ。
心中では雨雲みたいなもやもやが消えないけれど、スイに『器のちっさい男』とは思われたくない。しかも、付き合いたての恋人のおねだりは無下につっぱねるには可愛すぎた。
「ダメ。って、言ったら、スイさん困るんだろ? いいよ」
こんなことでこんなふうに嫉妬する自分にもアキは初めて気づいた。スイはあんな一方的な約束を守って、お伺いまで立ててくれているのに、自分の方はあの男がスイのスマートフォンの番号を知っているだけで不快なのだ。
それでも、格好つけたい。こんなことくらいでヤキモチを妬いているのは、知られたくない。
「その代わり、俺もついてく」
そんなせめぎ合いの妥協点は結局そこだった。
「え? アキ君、シロ君のこと苦手じゃなかった?」
きょとん。と、音がするような顔でスイが聞いてくる。スイは頭がいい。たとえば、川和志狼がどんなに知られまいと注意して、裏で手を回してスイの仕事に助け舟を出しても、すぐに気づくはずだ。
でも、スイは他人が自分に向ける感情に対して、驚くほどに鈍いのだ。だから、きっと今だって、アキが嫉妬してるなんて、夢にも思わないんだろう。
「苦手じゃない。嫌いなだけ」
溜め息を堪えながら、アキは答えた。
嫉妬しているのは知られたくない。でも、こんなに無防備で大丈夫なんだろうか。と、不安になる。
「同じじゃん」
スイの呟きに、彼の向こうにいるユキがなんとも言えない顔をしていた。信じられないと驚いているような、前途を嘆いているような、哀れなものを見るような表情だ。多分、ユキにはアキの気持ちがわかっているだろう。
何も言わず、ユキは首を左右に振った。
「言ってほしいなら、ダメって言うよ?」
少し意地の悪い言い方をすると、スイは首をぶんぶんと横に振って、再度スマートフォンに向かって話し始めた。
「待たせてごめん。……大丈夫。うん。……え? そんなことないけど……あ。けどアキ君も来るって。……大丈夫? 嫌なら……え? うん。いいけど……わかった。またLINEする。……うん。電話ありがと」
スマートフォンの画面をタップして、スイは通話を終えた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

たしかなこと
大波小波
BL
白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。
ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。
彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。
そんな彼が言うことには。
「すでに私たちは、恋人同士なのだから」
僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。

朝起きたら幼なじみと番になってた。
オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。
隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた
思いつきの書き殴り
オメガバースの設定をお借りしてます

神子は再召喚される
田舎
BL
??×神子(召喚者)。
平凡な学生だった有田満は突然異世界に召喚されてしまう。そこでは軟禁に近い地獄のような生活を送り苦痛を強いられる日々だった。
そして平和になり元の世界に戻ったというのに―――― …。
受けはかなり可哀そうです。

彩雲華胥
柚月なぎ
BL
暉の国。
紅鏡。金虎の一族に、痴れ者の第四公子という、不名誉な名の轟かせ方をしている、奇妙な仮面で顔を覆った少年がいた。
名を無明。
高い霊力を封じるための仮面を付け、幼い頃から痴れ者を演じ、周囲を欺いていた無明だったが、ある出逢いをきっかけに、少年の運命が回り出す――――――。
暉の国をめぐる、中華BLファンタジー。
※この作品は最新話は「カクヨム」さんで読めます。また、「小説家になろう」さん「Fujossy」さんでも連載中です。
※表紙や挿絵はすべてAIによるイメージ画像です。
※お気に入り登録、投票、コメント等、すべてが励みとなります!応援していただけたら、幸いです。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる