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FiLwT
後日談 やっぱり可愛いもん勝ち 2
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ヴヴヴヴ。ヴヴヴヴ。
そんなことを考えていると、カウンターの上に置かれたスイのスマートフォンが不意に着信を伝えてきた。ごめん。と、声に出さず、口を動かすだけで告げてから、スイはディスプレイを確認した。それから、アキの顔を見る。一瞬、躊躇い、スイは画面をタップした。
「はい。……うん。スイだよ……シロ君?」
聞こえてきた相手の名前に一瞬にして、警戒心が高まる。
川和志狼。また、あいつだ。
今、アキが一番気に入らない男。
「うん。ニコのことありがと。気付いてくれて助かった。……うん。摘発されたって。……そっちは? ……よかった。……え? あ。うん。いいけど……」
ちら。と、窺うような視線をスイが寄越す。それから、スマートフォンを耳から離した。
「あの……さ。アキ君」
おずおずと、言いづらそうにスイが口を開く。
「シロ君。こないだ、BIG Hのとき助けてもらって……その……お礼したいってLINEしたら、食事どうかって。行ってもいいかな?」
確か、あの日、電話でスイは『LINEする』と、言っていた。スイの性格上、借りを作ったままにはしたくなかったのだと思う。
それは分かっている。
「……なんで、それ、俺に聞くわけ?」
分かってはいるけれど、面白くはない。
だから、アキはぶっきらぼうに答える。
あの男は間違いなくスイが好きなのだ。しかも、自分たちがスイと知り合うずっと以前から。
おそらくは、表面でもスイがこうなってくれたら助かる。と、思うことをしているだろうし、表面上見えないように裏で手を回すようなこともしているだろう。あの男の立場ならそれが可能だ。
もちろん、それに気付かないスイではないから、シロに対して悪い感情は持ってはいないと思う。
それが、いちいち面白くない。
「え? や。だって、シロ君に会うときは教えろって、アキ君が言ったから」
でも、スイにそんなふうに言われると、結局『会うな』とは、言えなくなる。
「ダメかな?」
上目遣いにそんな懇願するように言われたらなおさらだ。
心中では雨雲みたいなもやもやが消えないけれど、スイに『器のちっさい男』とは思われたくない。しかも、付き合いたての恋人のおねだりは無下につっぱねるには可愛すぎた。
「ダメ。って、言ったら、スイさん困るんだろ? いいよ」
こんなことでこんなふうに嫉妬する自分にもアキは初めて気づいた。スイはあんな一方的な約束を守って、お伺いまで立ててくれているのに、自分の方はあの男がスイのスマートフォンの番号を知っているだけで不快なのだ。
それでも、格好つけたい。こんなことくらいでヤキモチを妬いているのは、知られたくない。
「その代わり、俺もついてく」
そんなせめぎ合いの妥協点は結局そこだった。
「え? アキ君、シロ君のこと苦手じゃなかった?」
きょとん。と、音がするような顔でスイが聞いてくる。スイは頭がいい。たとえば、川和志狼がどんなに知られまいと注意して、裏で手を回してスイの仕事に助け舟を出しても、すぐに気づくはずだ。
でも、スイは他人が自分に向ける感情に対して、驚くほどに鈍いのだ。だから、きっと今だって、アキが嫉妬してるなんて、夢にも思わないんだろう。
「苦手じゃない。嫌いなだけ」
溜め息を堪えながら、アキは答えた。
嫉妬しているのは知られたくない。でも、こんなに無防備で大丈夫なんだろうか。と、不安になる。
「同じじゃん」
スイの呟きに、彼の向こうにいるユキがなんとも言えない顔をしていた。信じられないと驚いているような、前途を嘆いているような、哀れなものを見るような表情だ。多分、ユキにはアキの気持ちがわかっているだろう。
何も言わず、ユキは首を左右に振った。
「言ってほしいなら、ダメって言うよ?」
少し意地の悪い言い方をすると、スイは首をぶんぶんと横に振って、再度スマートフォンに向かって話し始めた。
「待たせてごめん。……大丈夫。うん。……え? そんなことないけど……あ。けどアキ君も来るって。……大丈夫? 嫌なら……え? うん。いいけど……わかった。またLINEする。……うん。電話ありがと」
スマートフォンの画面をタップして、スイは通話を終えた。
そんなことを考えていると、カウンターの上に置かれたスイのスマートフォンが不意に着信を伝えてきた。ごめん。と、声に出さず、口を動かすだけで告げてから、スイはディスプレイを確認した。それから、アキの顔を見る。一瞬、躊躇い、スイは画面をタップした。
「はい。……うん。スイだよ……シロ君?」
聞こえてきた相手の名前に一瞬にして、警戒心が高まる。
川和志狼。また、あいつだ。
今、アキが一番気に入らない男。
「うん。ニコのことありがと。気付いてくれて助かった。……うん。摘発されたって。……そっちは? ……よかった。……え? あ。うん。いいけど……」
ちら。と、窺うような視線をスイが寄越す。それから、スマートフォンを耳から離した。
「あの……さ。アキ君」
おずおずと、言いづらそうにスイが口を開く。
「シロ君。こないだ、BIG Hのとき助けてもらって……その……お礼したいってLINEしたら、食事どうかって。行ってもいいかな?」
確か、あの日、電話でスイは『LINEする』と、言っていた。スイの性格上、借りを作ったままにはしたくなかったのだと思う。
それは分かっている。
「……なんで、それ、俺に聞くわけ?」
分かってはいるけれど、面白くはない。
だから、アキはぶっきらぼうに答える。
あの男は間違いなくスイが好きなのだ。しかも、自分たちがスイと知り合うずっと以前から。
おそらくは、表面でもスイがこうなってくれたら助かる。と、思うことをしているだろうし、表面上見えないように裏で手を回すようなこともしているだろう。あの男の立場ならそれが可能だ。
もちろん、それに気付かないスイではないから、シロに対して悪い感情は持ってはいないと思う。
それが、いちいち面白くない。
「え? や。だって、シロ君に会うときは教えろって、アキ君が言ったから」
でも、スイにそんなふうに言われると、結局『会うな』とは、言えなくなる。
「ダメかな?」
上目遣いにそんな懇願するように言われたらなおさらだ。
心中では雨雲みたいなもやもやが消えないけれど、スイに『器のちっさい男』とは思われたくない。しかも、付き合いたての恋人のおねだりは無下につっぱねるには可愛すぎた。
「ダメ。って、言ったら、スイさん困るんだろ? いいよ」
こんなことでこんなふうに嫉妬する自分にもアキは初めて気づいた。スイはあんな一方的な約束を守って、お伺いまで立ててくれているのに、自分の方はあの男がスイのスマートフォンの番号を知っているだけで不快なのだ。
それでも、格好つけたい。こんなことくらいでヤキモチを妬いているのは、知られたくない。
「その代わり、俺もついてく」
そんなせめぎ合いの妥協点は結局そこだった。
「え? アキ君、シロ君のこと苦手じゃなかった?」
きょとん。と、音がするような顔でスイが聞いてくる。スイは頭がいい。たとえば、川和志狼がどんなに知られまいと注意して、裏で手を回してスイの仕事に助け舟を出しても、すぐに気づくはずだ。
でも、スイは他人が自分に向ける感情に対して、驚くほどに鈍いのだ。だから、きっと今だって、アキが嫉妬してるなんて、夢にも思わないんだろう。
「苦手じゃない。嫌いなだけ」
溜め息を堪えながら、アキは答えた。
嫉妬しているのは知られたくない。でも、こんなに無防備で大丈夫なんだろうか。と、不安になる。
「同じじゃん」
スイの呟きに、彼の向こうにいるユキがなんとも言えない顔をしていた。信じられないと驚いているような、前途を嘆いているような、哀れなものを見るような表情だ。多分、ユキにはアキの気持ちがわかっているだろう。
何も言わず、ユキは首を左右に振った。
「言ってほしいなら、ダメって言うよ?」
少し意地の悪い言い方をすると、スイは首をぶんぶんと横に振って、再度スマートフォンに向かって話し始めた。
「待たせてごめん。……大丈夫。うん。……え? そんなことないけど……あ。けどアキ君も来るって。……大丈夫? 嫌なら……え? うん。いいけど……わかった。またLINEする。……うん。電話ありがと」
スマートフォンの画面をタップして、スイは通話を終えた。
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