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FiLwT
Mission Impossible 3
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「待たない」
きっぱりとアキが答える。
「考える時間。あげると、スイさん余計なこと考えるからな。今すぐ。答えて。
二人とも好きかどうかだけでいい。それだけ、聞かせてくれたら、もう、余計なこと考えられないくらい、思いっきり甘やかして、大切にするから」
そんな顔をするのはズルい。
スイは思う。
好きだと自覚したばかりの人に、こんなふうに全部許すみたいな顔されて、逆らえるほど幸せな人生を歩んでいない。裏切られる悔しさも。蹂躙される屈辱も。傷つけられる痛みも。逃げ続ける恐怖も。独りでいる孤独も。いやというほど理解しているスイにとって、その誘惑は抗いがたいものだった。
「スイさんが本当はどうしたいのか教えて」
首を傾げたユキがスイの顔を覗き込む。なんでも見透かしてしまいそうなその深い黒の目にはきっと、スイの揺れる気持ちなんてお見通しだのだろう。
「俺。言えないことばっかだし……PC以外に自慢できることもないし……随分。年上だし。女の子でもないし……そのうえ、欲張りで。選べないとかいうのに……それでいいのかよ」
ダメ。と、言ってくれれば今ならまだ間に合う。とは、もう、思えなかった。もう、引き返せないくらいに気持ちは傾いている。全部引き換えにしてでも、手に入れられるなら、手に入れたい。
幸福を。
「なんだよ今更。言えないことばっかりなんて知ってるし、年上だってことだってわかってるし、女の子じゃないことことくらい、見りゃわかる。
けど、PC以外にだってスイさんのいいところは山ほど知ってるし、スイさんじゃなきゃやなんだ」
ユキの言葉に、許されてもいいのかと思えてくる。
三人でいられる幸福を手に入れるための、その幸福を守るための努力をするチャンスを諦めなくてもいいのだろうか。
「スイさん。
俺たちがほしいのは、平穏じゃないよ。スイさん自身だ。遠慮しないで、欲張って」
アキの甘い甘い低い声にもう、逆らうことなんてできなかった。
自分のためにここまで言ってくれる二人をスイ自身の手で幸せにしてあげたいと願う。
もし、自分の呪いが彼らを傷つけようとするなら、どんな手を使ってでも、どんな犠牲を払っても、自分が守ると、決めた。
二人が想ってくれている限りは、想いを返したいと決めた。
「……好き。だよ。アキ君。好きだよ。ユキ君。
俺には何にも、残らなくてもいい。一人占めさせて」
スイの言葉に、ユキの顔にぱぁ。っと、笑顔が咲いた。と、思った瞬間にぐい。と、横から引き寄せられてアキの腕の中に収められる。
「聞いたからな。も、絶対に離さない」
吐息がかかるほどにアキの声が近い。突然動き出したんじゃないかと思うほどに心臓の音が高鳴る。上手く息ができないほどだ。けれど、はく。と、息を吸い込んだ瞬間。アキの匂いがして、肺から全身へ幸せが広がっていくようだった。
「兄貴。ズルい」
頭越しにユキの拗ねたような声が聞こえる。いや、拗ねたような、ではなく、ユキは拗ねた。
「俺だってスイさんのこと抱きしめたい!」
駄々っ子のようなだん。と、足をならして、ユキが言う。たしか、今24時を回った頃だ。近所迷惑かもしれない。と、別れなくていいのだと安堵したら当たり前のことが頭をかすめた。
「何が『ズルい』だ。お前、さっきフライングしてただろうが。今度は俺の番だ」
片手でしっし。と、ユキを追い払うような仕草をして、アキが答える。
さっきまで、この世界が終わってしまうような気持ちだった。閉じ込められた呪いから絶対に抜け出すことなんてできなくて、自分は一生独りなんだと思っていた。
世界は何一つ変わってはいない。スイに呪いをかけた相手はまだ、この世界の中にいる。話していない過去だって変えられないし、スイが自分に自信がないのも変わらない。
それなのに、一言で世界は変わってしまった。
「好きだよ。スイさん」
耳元を擽る、アキの甘くて低くて優しい声。
「俺も! スイさんのこと大好きだからね」
アキが抱きしめるその背中からスイをぎゅ。と、抱きしめて、ユキも言う。
二人の言葉が世界を変えてくれた。
「……ありがとう。俺も……すき」
二人が変えてくれた世界をもう、二度と手放すことはできない。
どんなことがあっても守りたいと願うスイだった。
きっぱりとアキが答える。
「考える時間。あげると、スイさん余計なこと考えるからな。今すぐ。答えて。
二人とも好きかどうかだけでいい。それだけ、聞かせてくれたら、もう、余計なこと考えられないくらい、思いっきり甘やかして、大切にするから」
そんな顔をするのはズルい。
スイは思う。
好きだと自覚したばかりの人に、こんなふうに全部許すみたいな顔されて、逆らえるほど幸せな人生を歩んでいない。裏切られる悔しさも。蹂躙される屈辱も。傷つけられる痛みも。逃げ続ける恐怖も。独りでいる孤独も。いやというほど理解しているスイにとって、その誘惑は抗いがたいものだった。
「スイさんが本当はどうしたいのか教えて」
首を傾げたユキがスイの顔を覗き込む。なんでも見透かしてしまいそうなその深い黒の目にはきっと、スイの揺れる気持ちなんてお見通しだのだろう。
「俺。言えないことばっかだし……PC以外に自慢できることもないし……随分。年上だし。女の子でもないし……そのうえ、欲張りで。選べないとかいうのに……それでいいのかよ」
ダメ。と、言ってくれれば今ならまだ間に合う。とは、もう、思えなかった。もう、引き返せないくらいに気持ちは傾いている。全部引き換えにしてでも、手に入れられるなら、手に入れたい。
幸福を。
「なんだよ今更。言えないことばっかりなんて知ってるし、年上だってことだってわかってるし、女の子じゃないことことくらい、見りゃわかる。
けど、PC以外にだってスイさんのいいところは山ほど知ってるし、スイさんじゃなきゃやなんだ」
ユキの言葉に、許されてもいいのかと思えてくる。
三人でいられる幸福を手に入れるための、その幸福を守るための努力をするチャンスを諦めなくてもいいのだろうか。
「スイさん。
俺たちがほしいのは、平穏じゃないよ。スイさん自身だ。遠慮しないで、欲張って」
アキの甘い甘い低い声にもう、逆らうことなんてできなかった。
自分のためにここまで言ってくれる二人をスイ自身の手で幸せにしてあげたいと願う。
もし、自分の呪いが彼らを傷つけようとするなら、どんな手を使ってでも、どんな犠牲を払っても、自分が守ると、決めた。
二人が想ってくれている限りは、想いを返したいと決めた。
「……好き。だよ。アキ君。好きだよ。ユキ君。
俺には何にも、残らなくてもいい。一人占めさせて」
スイの言葉に、ユキの顔にぱぁ。っと、笑顔が咲いた。と、思った瞬間にぐい。と、横から引き寄せられてアキの腕の中に収められる。
「聞いたからな。も、絶対に離さない」
吐息がかかるほどにアキの声が近い。突然動き出したんじゃないかと思うほどに心臓の音が高鳴る。上手く息ができないほどだ。けれど、はく。と、息を吸い込んだ瞬間。アキの匂いがして、肺から全身へ幸せが広がっていくようだった。
「兄貴。ズルい」
頭越しにユキの拗ねたような声が聞こえる。いや、拗ねたような、ではなく、ユキは拗ねた。
「俺だってスイさんのこと抱きしめたい!」
駄々っ子のようなだん。と、足をならして、ユキが言う。たしか、今24時を回った頃だ。近所迷惑かもしれない。と、別れなくていいのだと安堵したら当たり前のことが頭をかすめた。
「何が『ズルい』だ。お前、さっきフライングしてただろうが。今度は俺の番だ」
片手でしっし。と、ユキを追い払うような仕草をして、アキが答える。
さっきまで、この世界が終わってしまうような気持ちだった。閉じ込められた呪いから絶対に抜け出すことなんてできなくて、自分は一生独りなんだと思っていた。
世界は何一つ変わってはいない。スイに呪いをかけた相手はまだ、この世界の中にいる。話していない過去だって変えられないし、スイが自分に自信がないのも変わらない。
それなのに、一言で世界は変わってしまった。
「好きだよ。スイさん」
耳元を擽る、アキの甘くて低くて優しい声。
「俺も! スイさんのこと大好きだからね」
アキが抱きしめるその背中からスイをぎゅ。と、抱きしめて、ユキも言う。
二人の言葉が世界を変えてくれた。
「……ありがとう。俺も……すき」
二人が変えてくれた世界をもう、二度と手放すことはできない。
どんなことがあっても守りたいと願うスイだった。
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