129 / 414
FiLwT
チロル 2
しおりを挟む
綺麗なアキ。大理石の彫刻のような完璧な造作に表情が乗ったとき、奇蹟を見ているような気持ちになる。冷静でクレバーな彼が好きだ。信頼なんて自分には遠い世界にあると思っていたものを彼がくれた。それなのに、時折見せる子供みたいな強がりとか、負けず嫌いな一面に気付いたとき、信頼とは違う感情が生まれた。素直に、すごく愛おしいと思った。
可愛いユキ。研鑽を重ねたことが一目でわかる身体と、男らしい精悍な容貌とは、不釣り合いな少年のようにころころと変化する表情と屈託ない言動。一瞬でも目を離すのが惜しくなる。なんでも見透かすような真っすぐな眼差しと、何でも許してしまう包容力に自分の方が随分年上だということすら忘れて甘えていることにふとした時に気付いた。
スイは二人を、二人とも同じように大切に思う。魅力を感じるところは違うけれど、同じくらいに焦がれる。同じように嫉妬したし、一緒にいると同じように楽しい。三人でいるときが一番幸せだと思う。
そもそも、二人を比べるなんておこがましいとスイは思う。そんな権利が自分にあるとは到底思えない。
「……わからな……」
わからないとしか、言えない。
どっちも好きなんて言えるはずがない。そんな傲慢なことを言ったらきっと、罰が当たる。
「わからない? 好きではないってこと?」
アキの問いにスイは首を横に振る。
「どっちも好き?」
ユキの問いに、スイはその顔を見た。酷く恥ずかしいことのような気がして頬が上気するのを止められない。身の程知らずにもほどがある。
けれど、その反応で二人にはスイの気持ちがわかってしまったようだった。
「……そか」
ユキが呟く。
怒っているとか、バカにしているとかそんな顔ではなかった。けれど、呆れているのかもしれない。
「……ごめん」
消えてしまいたい。
スイは思う。
さっきまでとは意味が違う。けれど、やっぱり自分が恥ずかしい。恥ずかしくて、消えてなくなりたい。
「……とにかく。一旦。家、帰ろう。傷の手当させて?」
アキは名残惜しそうにスイの手を離して前を向いた。そして、再び車は動き出した。
可愛いユキ。研鑽を重ねたことが一目でわかる身体と、男らしい精悍な容貌とは、不釣り合いな少年のようにころころと変化する表情と屈託ない言動。一瞬でも目を離すのが惜しくなる。なんでも見透かすような真っすぐな眼差しと、何でも許してしまう包容力に自分の方が随分年上だということすら忘れて甘えていることにふとした時に気付いた。
スイは二人を、二人とも同じように大切に思う。魅力を感じるところは違うけれど、同じくらいに焦がれる。同じように嫉妬したし、一緒にいると同じように楽しい。三人でいるときが一番幸せだと思う。
そもそも、二人を比べるなんておこがましいとスイは思う。そんな権利が自分にあるとは到底思えない。
「……わからな……」
わからないとしか、言えない。
どっちも好きなんて言えるはずがない。そんな傲慢なことを言ったらきっと、罰が当たる。
「わからない? 好きではないってこと?」
アキの問いにスイは首を横に振る。
「どっちも好き?」
ユキの問いに、スイはその顔を見た。酷く恥ずかしいことのような気がして頬が上気するのを止められない。身の程知らずにもほどがある。
けれど、その反応で二人にはスイの気持ちがわかってしまったようだった。
「……そか」
ユキが呟く。
怒っているとか、バカにしているとかそんな顔ではなかった。けれど、呆れているのかもしれない。
「……ごめん」
消えてしまいたい。
スイは思う。
さっきまでとは意味が違う。けれど、やっぱり自分が恥ずかしい。恥ずかしくて、消えてなくなりたい。
「……とにかく。一旦。家、帰ろう。傷の手当させて?」
アキは名残惜しそうにスイの手を離して前を向いた。そして、再び車は動き出した。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。

朝起きたら幼なじみと番になってた。
オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。
隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた
思いつきの書き殴り
オメガバースの設定をお借りしてます

とろけてまざる
ゆなな
BL
綾川雪也(ユキ)はオメガであるが発情抑制剤が良く効くタイプであったため上手に隠して帝都大学附属病院に小児科医として勤務していた。そこでアメリカからやってきた天才外科医だという永瀬和真と出会う。永瀬の前では今まで完全に効いていた抑制剤が全く効かなくて、ユキは初めてアルファを求めるオメガの熱を感じて狂おしく身を焦がす…一方どんなオメガにも心動かされることがなかった永瀬を狂わせるのもユキだけで──
表紙素材http://touch.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=55856941

彩雲華胥
柚月なぎ
BL
暉の国。
紅鏡。金虎の一族に、痴れ者の第四公子という、不名誉な名の轟かせ方をしている、奇妙な仮面で顔を覆った少年がいた。
名を無明。
高い霊力を封じるための仮面を付け、幼い頃から痴れ者を演じ、周囲を欺いていた無明だったが、ある出逢いをきっかけに、少年の運命が回り出す――――――。
暉の国をめぐる、中華BLファンタジー。
※この作品は最新話は「カクヨム」さんで読めます。また、「小説家になろう」さん「Fujossy」さんでも連載中です。
※表紙や挿絵はすべてAIによるイメージ画像です。
※お気に入り登録、投票、コメント等、すべてが励みとなります!応援していただけたら、幸いです。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?


目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる