遠くて近い世界で

司書Y

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チロル 2

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 綺麗なアキ。大理石の彫刻のような完璧な造作に表情が乗ったとき、奇蹟を見ているような気持ちになる。冷静でクレバーな彼が好きだ。信頼なんて自分には遠い世界にあると思っていたものを彼がくれた。それなのに、時折見せる子供みたいな強がりとか、負けず嫌いな一面に気付いたとき、信頼とは違う感情が生まれた。素直に、すごく愛おしいと思った。
 可愛いユキ。研鑽を重ねたことが一目でわかる身体と、男らしい精悍な容貌とは、不釣り合いな少年のようにころころと変化する表情と屈託ない言動。一瞬でも目を離すのが惜しくなる。なんでも見透かすような真っすぐな眼差しと、何でも許してしまう包容力に自分の方が随分年上だということすら忘れて甘えていることにふとした時に気付いた。

 スイは二人を、二人とも同じように大切に思う。魅力を感じるところは違うけれど、同じくらいに焦がれる。同じように嫉妬したし、一緒にいると同じように楽しい。三人でいるときが一番幸せだと思う。

 そもそも、二人を比べるなんておこがましいとスイは思う。そんな権利が自分にあるとは到底思えない。

「……わからな……」

 わからないとしか、言えない。
 どっちも好きなんて言えるはずがない。そんな傲慢なことを言ったらきっと、罰が当たる。

「わからない? 好きではないってこと?」

 アキの問いにスイは首を横に振る。

「どっちも好き?」

 ユキの問いに、スイはその顔を見た。酷く恥ずかしいことのような気がして頬が上気するのを止められない。身の程知らずにもほどがある。
 けれど、その反応で二人にはスイの気持ちがわかってしまったようだった。

「……そか」

 ユキが呟く。
 怒っているとか、バカにしているとかそんな顔ではなかった。けれど、呆れているのかもしれない。

「……ごめん」

 消えてしまいたい。
 スイは思う。
 さっきまでとは意味が違う。けれど、やっぱり自分が恥ずかしい。恥ずかしくて、消えてなくなりたい。

「……とにかく。一旦。家、帰ろう。傷の手当させて?」

 アキは名残惜しそうにスイの手を離して前を向いた。そして、再び車は動き出した。
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