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FiLwT
チロル 1
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◇車内:翡翠2◇
カーステレオがなっているはずなのに、その音はよく聞こえなかった。沈黙は3分なのか、5分なのか、もしかしたらほんの30秒だったのかもしれない。それが、永遠と思えるほど長く感じる。まるで、死刑宣告を待つようだ。
「……スイさん」
沈黙を破ったのは、アキだった。
さっきの声とは違う。もう、怒っているようには聞こえない。けれど、どこか緊張したような声色にスイの身体はまた、びく。と、小さく強張る。
「……それは……どういう……その言い方は。俺の勘違いなら……いや、ダメだろ。それじゃ、期待すんなって方がおかしい」
緊張。というよりは、動揺している。と、スイは思う。それから、当たり前か。とも、思う。ビジネスパートナーとして、友人として、いい関係を築いていたと思っていた相手に好きだとか言われたら、動揺するのは当たり前だ。
「……まるで。それじゃ、恋してるって。言ってるみたいだろ?」
運転席から身体を乗り出して、アキの手が近づいてくる。そして、一瞬躊躇ってから、スイの手に触れる。その手はとても温かく感じた。その温かさで震えがようやく収まってくる。
「な。俺。間違ってる?」
触れられるのは怖い。非力な自分は距離を保たないと自分の身を守れない。だから、必要以上に警戒してしまう時がある。信頼しているはずのアキやユキでも不意に触れられるのは怖いときがある。それは、多分この先も変わらない。
でも、今は触れてもらえるのが嬉しかった。安心できた。
「……間違って……ない」
スイは答えた。
「……マジか……」
ぎゅ。と、スイの手を握るアキの手に力が籠る。
「スイさん。もうひとつ。聞いてもいいか?」
その言葉にスイの身体はまた、強張る。
人混みに探す人のことを聞かれたときのことを思い出したからだ。
また、それを聞かれたらどうしよう。どう答えればいい。思いを巡らせている間に、返事を待たず、アキが口を開いた。
「スイさんが好きだって思っているのって。ユキ? それとも、俺?」
けれど、思いがけない質問にスイは思わず顔を上げた。
そこには、ものすごく真剣な顔をしたアキがいた。それこそ死刑宣告を待つような面持ちだ。
「え?」
アキの顔があまりに真剣で、動揺して、スイは助けを求めるように隣に座るユキを見る。けれど、そこには悲壮感すら漂わせたユキの顔があった。
俺も知りたい。
口には出さなかったけれど、ユキの目がそう言っている。
叶うはずがないと思っていた。
だから、二人を比べようなんて考えたことはない。
カーステレオがなっているはずなのに、その音はよく聞こえなかった。沈黙は3分なのか、5分なのか、もしかしたらほんの30秒だったのかもしれない。それが、永遠と思えるほど長く感じる。まるで、死刑宣告を待つようだ。
「……スイさん」
沈黙を破ったのは、アキだった。
さっきの声とは違う。もう、怒っているようには聞こえない。けれど、どこか緊張したような声色にスイの身体はまた、びく。と、小さく強張る。
「……それは……どういう……その言い方は。俺の勘違いなら……いや、ダメだろ。それじゃ、期待すんなって方がおかしい」
緊張。というよりは、動揺している。と、スイは思う。それから、当たり前か。とも、思う。ビジネスパートナーとして、友人として、いい関係を築いていたと思っていた相手に好きだとか言われたら、動揺するのは当たり前だ。
「……まるで。それじゃ、恋してるって。言ってるみたいだろ?」
運転席から身体を乗り出して、アキの手が近づいてくる。そして、一瞬躊躇ってから、スイの手に触れる。その手はとても温かく感じた。その温かさで震えがようやく収まってくる。
「な。俺。間違ってる?」
触れられるのは怖い。非力な自分は距離を保たないと自分の身を守れない。だから、必要以上に警戒してしまう時がある。信頼しているはずのアキやユキでも不意に触れられるのは怖いときがある。それは、多分この先も変わらない。
でも、今は触れてもらえるのが嬉しかった。安心できた。
「……間違って……ない」
スイは答えた。
「……マジか……」
ぎゅ。と、スイの手を握るアキの手に力が籠る。
「スイさん。もうひとつ。聞いてもいいか?」
その言葉にスイの身体はまた、強張る。
人混みに探す人のことを聞かれたときのことを思い出したからだ。
また、それを聞かれたらどうしよう。どう答えればいい。思いを巡らせている間に、返事を待たず、アキが口を開いた。
「スイさんが好きだって思っているのって。ユキ? それとも、俺?」
けれど、思いがけない質問にスイは思わず顔を上げた。
そこには、ものすごく真剣な顔をしたアキがいた。それこそ死刑宣告を待つような面持ちだ。
「え?」
アキの顔があまりに真剣で、動揺して、スイは助けを求めるように隣に座るユキを見る。けれど、そこには悲壮感すら漂わせたユキの顔があった。
俺も知りたい。
口には出さなかったけれど、ユキの目がそう言っている。
叶うはずがないと思っていた。
だから、二人を比べようなんて考えたことはない。
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