126 / 414
FiLwT
別れが確定事項なら 5
しおりを挟む
「俺たちが知らなかったこと、どうしてシムや川和志狼が知ってるの?」
アキの声がさっきより低くなったからだ。
やはり、シロとの会話はアキを怒らせてしまったらしい。怒らせてしまったと思うと、言葉にならない。息すらうまく吸い込めない。
「兄貴……もう」
「ユキは黙ってろ」
スイを気遣うユキの声は一蹴された。
「二人……には話したわけじゃない。電話。聞かれただけ」
怖いと。思う。
自分を好きに扱おうとする相手の怖さとは違う。けれど、怖い。
「……ん。それはわかった。で? 俺たちに何も言わなかったのはどうして?」
アキは怒っている。スイは思う。
独断先行も。秘密主義も。脆弱さも。頑なさも。
きっと、何もかもがアキをイラつかせているのだろう。
「それは……」
怖い。嫌われるのは堪らなく怖い。
過去のことを知られること。プロとしての仕事すら真っ当にこなせなくて、失望させてしまうこと。足枷になって迷惑をかけてしまうこと。自分のせいで、危険な目に合わせること。好きだと言う思いを拒絶されること。
二人といて、怖くないことなんて殆どない。
怖くて、スイの肩はまた小さく震えた。言葉の代わりに涙が溢れる。
「……ごめ……ん」
呟くと、車が急停車した。
「謝ってほしいわけじゃないっていっただろ」
がん。
と、ハンドルを叩いて、アキが低く唸るような声で言う。
結局、何を言っても、怒らせてしまう。
スイは思う。
思うと涙が止まらない。
そんなふうに泣いて、同情を買おうとしている自分が堪らなく嫌だ。心の底では、泣いてやり過ごせばいいと、思っているんだ。被害者面して許されようとしている。二人が優しいから、泣いていれば諦めてくれると思っている。
そんな最低の自分が二人のそばにいる資格があるはずがない。
「兄貴、もうやめろ! スイさん、ないてる。これ以上、この人傷つけるなら、俺は許さないよ」
アキの肩に手をかけて、顔を後ろに向けさせて、ユキは言った。
普段、仲がいい二人が、こんなふうに言い争うことなんて見たことがない。
「許さないなら、どうするって言うんだ」
社内の温度が一気に冷えた気がする。そのくらいにアキの声は冷たかった。
「わかってるんだろ? 物理的にでも黙らせる」
アキの怒気にもユキが怯むことはなかった。兄の手にかけた手に力が籠る。
「……待って。言うから……ホントのこと言うから……」
もしも。過去のことがなかったら。
スイは思う。
そうだったら、もう少し素直に気持ちを伝えられたかもしれない。
アキの声がさっきより低くなったからだ。
やはり、シロとの会話はアキを怒らせてしまったらしい。怒らせてしまったと思うと、言葉にならない。息すらうまく吸い込めない。
「兄貴……もう」
「ユキは黙ってろ」
スイを気遣うユキの声は一蹴された。
「二人……には話したわけじゃない。電話。聞かれただけ」
怖いと。思う。
自分を好きに扱おうとする相手の怖さとは違う。けれど、怖い。
「……ん。それはわかった。で? 俺たちに何も言わなかったのはどうして?」
アキは怒っている。スイは思う。
独断先行も。秘密主義も。脆弱さも。頑なさも。
きっと、何もかもがアキをイラつかせているのだろう。
「それは……」
怖い。嫌われるのは堪らなく怖い。
過去のことを知られること。プロとしての仕事すら真っ当にこなせなくて、失望させてしまうこと。足枷になって迷惑をかけてしまうこと。自分のせいで、危険な目に合わせること。好きだと言う思いを拒絶されること。
二人といて、怖くないことなんて殆どない。
怖くて、スイの肩はまた小さく震えた。言葉の代わりに涙が溢れる。
「……ごめ……ん」
呟くと、車が急停車した。
「謝ってほしいわけじゃないっていっただろ」
がん。
と、ハンドルを叩いて、アキが低く唸るような声で言う。
結局、何を言っても、怒らせてしまう。
スイは思う。
思うと涙が止まらない。
そんなふうに泣いて、同情を買おうとしている自分が堪らなく嫌だ。心の底では、泣いてやり過ごせばいいと、思っているんだ。被害者面して許されようとしている。二人が優しいから、泣いていれば諦めてくれると思っている。
そんな最低の自分が二人のそばにいる資格があるはずがない。
「兄貴、もうやめろ! スイさん、ないてる。これ以上、この人傷つけるなら、俺は許さないよ」
アキの肩に手をかけて、顔を後ろに向けさせて、ユキは言った。
普段、仲がいい二人が、こんなふうに言い争うことなんて見たことがない。
「許さないなら、どうするって言うんだ」
社内の温度が一気に冷えた気がする。そのくらいにアキの声は冷たかった。
「わかってるんだろ? 物理的にでも黙らせる」
アキの怒気にもユキが怯むことはなかった。兄の手にかけた手に力が籠る。
「……待って。言うから……ホントのこと言うから……」
もしも。過去のことがなかったら。
スイは思う。
そうだったら、もう少し素直に気持ちを伝えられたかもしれない。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。

朝起きたら幼なじみと番になってた。
オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。
隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた
思いつきの書き殴り
オメガバースの設定をお借りしてます

彩雲華胥
柚月なぎ
BL
暉の国。
紅鏡。金虎の一族に、痴れ者の第四公子という、不名誉な名の轟かせ方をしている、奇妙な仮面で顔を覆った少年がいた。
名を無明。
高い霊力を封じるための仮面を付け、幼い頃から痴れ者を演じ、周囲を欺いていた無明だったが、ある出逢いをきっかけに、少年の運命が回り出す――――――。
暉の国をめぐる、中華BLファンタジー。
※この作品は最新話は「カクヨム」さんで読めます。また、「小説家になろう」さん「Fujossy」さんでも連載中です。
※表紙や挿絵はすべてAIによるイメージ画像です。
※お気に入り登録、投票、コメント等、すべてが励みとなります!応援していただけたら、幸いです。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?


目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
よく効くお薬〜偏頭痛持ちの俺がエリートリーマンに助けられた話〜
高菜あやめ
BL
【マイペース美形商社マン×頭痛持ち平凡清掃員】千野はフリーのプログラマーだが収入が少ないため、夜は商社ビルで清掃員のバイトをしてる。ある日体調不良で階段から落ちた時、偶然居合わせた商社の社員・津和に助けられ……偏頭痛持ちの主人公が、エリート商社マンに世話を焼かれつつ癒される甘めの話です◾️スピンオフ1【社交的爽やかイケメン営業マン×胃弱で攻めに塩対応なSE】千野のチームの先輩SE太田が主人公です◾️スピンオフ2【元モデルの実業家×低血圧の営業マン】千野と太田のプロジェクトチーム担当営業・片瀬とその幼馴染・白石の恋模様です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる