遠くて近い世界で

司書Y

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別れが確定事項なら 5

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「俺たちが知らなかったこと、どうしてシムや川和志狼が知ってるの?」

 アキの声がさっきより低くなったからだ。
 やはり、シロとの会話はアキを怒らせてしまったらしい。怒らせてしまったと思うと、言葉にならない。息すらうまく吸い込めない。

「兄貴……もう」

「ユキは黙ってろ」

 スイを気遣うユキの声は一蹴された。

「二人……には話したわけじゃない。電話。聞かれただけ」

 怖いと。思う。
 自分を好きに扱おうとする相手の怖さとは違う。けれど、怖い。

「……ん。それはわかった。で? 俺たちに何も言わなかったのはどうして?」

 アキは怒っている。スイは思う。
 独断先行も。秘密主義も。脆弱さも。頑なさも。
 きっと、何もかもがアキをイラつかせているのだろう。

「それは……」

 怖い。嫌われるのは堪らなく怖い。
 過去のことを知られること。プロとしての仕事すら真っ当にこなせなくて、失望させてしまうこと。足枷になって迷惑をかけてしまうこと。自分のせいで、危険な目に合わせること。好きだと言う思いを拒絶されること。
 二人といて、怖くないことなんて殆どない。
 怖くて、スイの肩はまた小さく震えた。言葉の代わりに涙が溢れる。

「……ごめ……ん」

 呟くと、車が急停車した。

「謝ってほしいわけじゃないっていっただろ」

 がん。
 と、ハンドルを叩いて、アキが低く唸るような声で言う。
 結局、何を言っても、怒らせてしまう。
 スイは思う。
 思うと涙が止まらない。

 そんなふうに泣いて、同情を買おうとしている自分が堪らなく嫌だ。心の底では、泣いてやり過ごせばいいと、思っているんだ。被害者面して許されようとしている。二人が優しいから、泣いていれば諦めてくれると思っている。
 そんな最低の自分が二人のそばにいる資格があるはずがない。

「兄貴、もうやめろ! スイさん、ないてる。これ以上、この人傷つけるなら、俺は許さないよ」

 アキの肩に手をかけて、顔を後ろに向けさせて、ユキは言った。
 普段、仲がいい二人が、こんなふうに言い争うことなんて見たことがない。

「許さないなら、どうするって言うんだ」

 社内の温度が一気に冷えた気がする。そのくらいにアキの声は冷たかった。

「わかってるんだろ? 物理的にでも黙らせる」

 アキの怒気にもユキが怯むことはなかった。兄の手にかけた手に力が籠る。

「……待って。言うから……ホントのこと言うから……」

 もしも。過去のことがなかったら。
 スイは思う。
 そうだったら、もう少し素直に気持ちを伝えられたかもしれない。
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