遠くて近い世界で

司書Y

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BIG H 3

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 ◇BIG H店内:翡翠◇

 ドアに鍵がかかっていなかったのは、想定してた中ではかなり低確率と思っていた状況だった。カムフラージュしてあるとはいえ、隠しておきたい秘密がある割には不用心だと思う。飼い主の指示が聞けないバカな番犬を飼っているのか、責任者の方が余程の間抜なのか、誰も来ない、または来られたとしてもどうにかなると思っているか、どの選択肢が正解だったにせよ今はありがたい。
 待ち伏せされている。という選択肢だけはありがたくないけれど、その可能性はドアに鍵がかかっていないことよりももっと、可能性は薄い。なんにせよ、少しでも早くニコを連れてここを出ないといけないスイには、追い風と言える。

 音をさせないようにドアを開けるとすぐに男が二人待機していた。
 二人とも少しも驚いてはいない。どちらかというと、面倒くさそうだ。片方の男は舌打ちしてまたかよ。と、呟いた。人気クラブの裏口だ。好奇心で入ってしまうものもいるのかもしれない。と、なると、さっきの疑問への答えは『来られたとしてもどうにかなる』だったようだ。

 表側は目立たないスタッフ用の通用口そのものなのに、その内側は通用口とは思えない造りだった。
 廊下は広く、磁器タイルの光沢のある床は掃除が行き届いていて、ところどころに置いてある照明や観葉植物を鏡のように映している。天井の照明は間接照明で落ち着いた雰囲気だが、フットライトがあるために暗いとは感じない。まるで高級クラブのような作りだ。若者向けのナイトクラブというった雰囲気ではない。しかも、通用口から入った場所が何故これほど豪華な造りになっているのか、まっとうな方法では説明はつかないだろう。

「おい。お前、こっちはスタッフオンリーだ」

 舌打ちしたほうの男が声をかけてきた。派手ではあるが、一応スーツは着ている。とはいえ、どこぞのホスト崩れといった風情で似合ってはいない。着せられている感が全面に出ていたし、脱色後時間が経ったせいでプリンのようになっている金髪頭が妙に折り目がくっきりと見えるスーツと合っていない。

「……っと。あの。連れがここに入っちゃって……連れ戻そうと思って」

 できうる限り無力を装っておずおずと答える。これが通用するとは思っていないけれど、何か少しでも情報を得たい。

「ツレ? ああ。さっきの女子高生? ふうん」

 おそらくはさっきの女子高生。とは、ニコのことだろう。明らかに面倒くさそうだった顔が不審物を見るそれに変わる。

「Jさんが『キャスト』だって言ってたから通したけど。ツレがいるとか聞いてないぞ」

 じろじろと無遠慮にスイの姿を見ている男に、もう一人の黒髪短髪の男が言った。こちらはもう少し頭が回りそうだけれど、やはりスーツのセンスは良くなかった。

「でもよ」
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