108 / 414
FiLwT
BIG H 3
しおりを挟む
◇BIG H店内:翡翠◇
ドアに鍵がかかっていなかったのは、想定してた中ではかなり低確率と思っていた状況だった。カムフラージュしてあるとはいえ、隠しておきたい秘密がある割には不用心だと思う。飼い主の指示が聞けないバカな番犬を飼っているのか、責任者の方が余程の間抜なのか、誰も来ない、または来られたとしてもどうにかなると思っているか、どの選択肢が正解だったにせよ今はありがたい。
待ち伏せされている。という選択肢だけはありがたくないけれど、その可能性はドアに鍵がかかっていないことよりももっと、可能性は薄い。なんにせよ、少しでも早くニコを連れてここを出ないといけないスイには、追い風と言える。
音をさせないようにドアを開けるとすぐに男が二人待機していた。
二人とも少しも驚いてはいない。どちらかというと、面倒くさそうだ。片方の男は舌打ちしてまたかよ。と、呟いた。人気クラブの裏口だ。好奇心で入ってしまうものもいるのかもしれない。と、なると、さっきの疑問への答えは『来られたとしてもどうにかなる』だったようだ。
表側は目立たないスタッフ用の通用口そのものなのに、その内側は通用口とは思えない造りだった。
廊下は広く、磁器タイルの光沢のある床は掃除が行き届いていて、ところどころに置いてある照明や観葉植物を鏡のように映している。天井の照明は間接照明で落ち着いた雰囲気だが、フットライトがあるために暗いとは感じない。まるで高級クラブのような作りだ。若者向けのナイトクラブというった雰囲気ではない。しかも、通用口から入った場所が何故これほど豪華な造りになっているのか、まっとうな方法では説明はつかないだろう。
「おい。お前、こっちはスタッフオンリーだ」
舌打ちしたほうの男が声をかけてきた。派手ではあるが、一応スーツは着ている。とはいえ、どこぞのホスト崩れといった風情で似合ってはいない。着せられている感が全面に出ていたし、脱色後時間が経ったせいでプリンのようになっている金髪頭が妙に折り目がくっきりと見えるスーツと合っていない。
「……っと。あの。連れがここに入っちゃって……連れ戻そうと思って」
できうる限り無力を装っておずおずと答える。これが通用するとは思っていないけれど、何か少しでも情報を得たい。
「ツレ? ああ。さっきの女子高生? ふうん」
おそらくはさっきの女子高生。とは、ニコのことだろう。明らかに面倒くさそうだった顔が不審物を見るそれに変わる。
「Jさんが『キャスト』だって言ってたから通したけど。ツレがいるとか聞いてないぞ」
じろじろと無遠慮にスイの姿を見ている男に、もう一人の黒髪短髪の男が言った。こちらはもう少し頭が回りそうだけれど、やはりスーツのセンスは良くなかった。
「でもよ」
ドアに鍵がかかっていなかったのは、想定してた中ではかなり低確率と思っていた状況だった。カムフラージュしてあるとはいえ、隠しておきたい秘密がある割には不用心だと思う。飼い主の指示が聞けないバカな番犬を飼っているのか、責任者の方が余程の間抜なのか、誰も来ない、または来られたとしてもどうにかなると思っているか、どの選択肢が正解だったにせよ今はありがたい。
待ち伏せされている。という選択肢だけはありがたくないけれど、その可能性はドアに鍵がかかっていないことよりももっと、可能性は薄い。なんにせよ、少しでも早くニコを連れてここを出ないといけないスイには、追い風と言える。
音をさせないようにドアを開けるとすぐに男が二人待機していた。
二人とも少しも驚いてはいない。どちらかというと、面倒くさそうだ。片方の男は舌打ちしてまたかよ。と、呟いた。人気クラブの裏口だ。好奇心で入ってしまうものもいるのかもしれない。と、なると、さっきの疑問への答えは『来られたとしてもどうにかなる』だったようだ。
表側は目立たないスタッフ用の通用口そのものなのに、その内側は通用口とは思えない造りだった。
廊下は広く、磁器タイルの光沢のある床は掃除が行き届いていて、ところどころに置いてある照明や観葉植物を鏡のように映している。天井の照明は間接照明で落ち着いた雰囲気だが、フットライトがあるために暗いとは感じない。まるで高級クラブのような作りだ。若者向けのナイトクラブというった雰囲気ではない。しかも、通用口から入った場所が何故これほど豪華な造りになっているのか、まっとうな方法では説明はつかないだろう。
「おい。お前、こっちはスタッフオンリーだ」
舌打ちしたほうの男が声をかけてきた。派手ではあるが、一応スーツは着ている。とはいえ、どこぞのホスト崩れといった風情で似合ってはいない。着せられている感が全面に出ていたし、脱色後時間が経ったせいでプリンのようになっている金髪頭が妙に折り目がくっきりと見えるスーツと合っていない。
「……っと。あの。連れがここに入っちゃって……連れ戻そうと思って」
できうる限り無力を装っておずおずと答える。これが通用するとは思っていないけれど、何か少しでも情報を得たい。
「ツレ? ああ。さっきの女子高生? ふうん」
おそらくはさっきの女子高生。とは、ニコのことだろう。明らかに面倒くさそうだった顔が不審物を見るそれに変わる。
「Jさんが『キャスト』だって言ってたから通したけど。ツレがいるとか聞いてないぞ」
じろじろと無遠慮にスイの姿を見ている男に、もう一人の黒髪短髪の男が言った。こちらはもう少し頭が回りそうだけれど、やはりスーツのセンスは良くなかった。
「でもよ」
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。

朝起きたら幼なじみと番になってた。
オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。
隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた
思いつきの書き殴り
オメガバースの設定をお借りしてます
しあわせのカタチ
葉月めいこ
BL
気ままで男前な年上彼氏とそんな彼を溺愛する年下ワンコのまったりのんびりな日常。
好き、愛してるじゃなくて「一緒にいる」それが二人のしあわせのカタチ。
ゆるりと甘いけれど時々ぴりりとスパイスも――。
二人の日常の切れ端をお楽しみください。
※続編の予定はありますが次回更新まで完結をつけさせていただきます。


【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?


目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
よく効くお薬〜偏頭痛持ちの俺がエリートリーマンに助けられた話〜
高菜あやめ
BL
【マイペース美形商社マン×頭痛持ち平凡清掃員】千野はフリーのプログラマーだが収入が少ないため、夜は商社ビルで清掃員のバイトをしてる。ある日体調不良で階段から落ちた時、偶然居合わせた商社の社員・津和に助けられ……偏頭痛持ちの主人公が、エリート商社マンに世話を焼かれつつ癒される甘めの話です◾️スピンオフ1【社交的爽やかイケメン営業マン×胃弱で攻めに塩対応なSE】千野のチームの先輩SE太田が主人公です◾️スピンオフ2【元モデルの実業家×低血圧の営業マン】千野と太田のプロジェクトチーム担当営業・片瀬とその幼馴染・白石の恋模様です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる