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BIG H 2
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◇BIG H裏:翡翠◇
ミナが連絡してきたとおり、BIG Hの東側側面には扉が3つあった。どれも、壁面と同じ色をしたドアで目立たなくなっている。申し訳て程度の犬走がついていなければ、見落としてしまうかもしれない。
路地自体は建物と建物の隙間のような場所で車が通行できるほどの広さの道ではない。ポリバケツや大型のゴミ箱、スタッフ用と思われる灰皿が置いてあったり、壊れたソファやら、雨ざらしでよれよれになった段ボールやら倉庫代わりなのかものが多く、その上、街灯が殆どなくて視界がきかない。
壁に背をつけて路地を覗いてからスイは溜息をついた。
ニコの姿はない。建物の外側には人の姿はないが、教えられた扉からはスイが見ている数分だけでも2・3人が出入りしていた。おそらく、内側には見張りもいるだろう。
普通に考えたらニコが一人で押し入るのは不可能だ。忍び込むのも無理だろう。諦めて帰ったならいいのだが、電話での会話からは帰ったとは思えないし、帰ったなら連絡を寄越すだろう。
だとすると、見張りに見つかって連れていかれたか、ニコが来たときだけ忍び込めるように細工していたか。だ。
どちらにせよ、スイが知られずに中に入るのは難しい。店内の構造は調査時に確認しているのだが、この通用口の奥に店内から入ることができるドアは一か所しかなく、それはなぜかプレミアムVIPルームの奥の扉からだけだった。しかも、この通路の先にある地下部分は店のほかの場所からは完全に独立して、厚い壁で守られている。
何もないとはとても思えない構造だ。
普通なら、もちろん、正面突破はありえない。けれど、別の道はない上に、状況的にほかの方法を探している時間はない。ニコが危険なことは当たり前だが、スイがここに来るまでにした『下準備』が機能してしまうと、スイやニコがここにいるのがまずい状況になってしまう。
だから、選択肢はなかった。
ふ。と、小さく吐息を漏らして、背中に手を回す。腰の後ろにさしているナイフは5本。今日はそれでもマシな方だ。通常運転で銃火器は装備対象外。何度後悔しても成長がない自分の危機管理能力の低さにもため息が出る。いや、安心しきっていたのかもしれない。
スイは、自分の戦闘能力を過信してはいないし見くびってもいない。ただ、二人がいてくれれば自分は自分の得意なことに集中していればよかった。モバイル機器を持つのに銃火器まで装備しては身軽に動けない。だから、アキやユキがいてくれるなら、自分はナイフくらいが丁度いい。
独りでいるのが当たり前だったはずなのに、いつの間にかその当たり前が変わっていた。
これが、俺の当たり前。だ。
スイは自分に言い聞かせる。
また、独りに戻らなくてはいけない。だから、これくらいのことは自分で始末をつける。
それができたら、せめて二人に別れを告げるくらいは、自分に許してやろうと思う。ちゃんと友人として別れて、もし、この先会うことがあったとき、笑って挨拶ができるようになりたい。たとえ、細い糸でもいい繋がっているのだと思っていたい。
そんなことを一瞬だけ考える。けれど、それはほんの一瞬で、スイはそんな思いを心の奥に沈めた。
それから、ドアに向かう。
いつの間にか雨の匂いがしていた。
ミナが連絡してきたとおり、BIG Hの東側側面には扉が3つあった。どれも、壁面と同じ色をしたドアで目立たなくなっている。申し訳て程度の犬走がついていなければ、見落としてしまうかもしれない。
路地自体は建物と建物の隙間のような場所で車が通行できるほどの広さの道ではない。ポリバケツや大型のゴミ箱、スタッフ用と思われる灰皿が置いてあったり、壊れたソファやら、雨ざらしでよれよれになった段ボールやら倉庫代わりなのかものが多く、その上、街灯が殆どなくて視界がきかない。
壁に背をつけて路地を覗いてからスイは溜息をついた。
ニコの姿はない。建物の外側には人の姿はないが、教えられた扉からはスイが見ている数分だけでも2・3人が出入りしていた。おそらく、内側には見張りもいるだろう。
普通に考えたらニコが一人で押し入るのは不可能だ。忍び込むのも無理だろう。諦めて帰ったならいいのだが、電話での会話からは帰ったとは思えないし、帰ったなら連絡を寄越すだろう。
だとすると、見張りに見つかって連れていかれたか、ニコが来たときだけ忍び込めるように細工していたか。だ。
どちらにせよ、スイが知られずに中に入るのは難しい。店内の構造は調査時に確認しているのだが、この通用口の奥に店内から入ることができるドアは一か所しかなく、それはなぜかプレミアムVIPルームの奥の扉からだけだった。しかも、この通路の先にある地下部分は店のほかの場所からは完全に独立して、厚い壁で守られている。
何もないとはとても思えない構造だ。
普通なら、もちろん、正面突破はありえない。けれど、別の道はない上に、状況的にほかの方法を探している時間はない。ニコが危険なことは当たり前だが、スイがここに来るまでにした『下準備』が機能してしまうと、スイやニコがここにいるのがまずい状況になってしまう。
だから、選択肢はなかった。
ふ。と、小さく吐息を漏らして、背中に手を回す。腰の後ろにさしているナイフは5本。今日はそれでもマシな方だ。通常運転で銃火器は装備対象外。何度後悔しても成長がない自分の危機管理能力の低さにもため息が出る。いや、安心しきっていたのかもしれない。
スイは、自分の戦闘能力を過信してはいないし見くびってもいない。ただ、二人がいてくれれば自分は自分の得意なことに集中していればよかった。モバイル機器を持つのに銃火器まで装備しては身軽に動けない。だから、アキやユキがいてくれるなら、自分はナイフくらいが丁度いい。
独りでいるのが当たり前だったはずなのに、いつの間にかその当たり前が変わっていた。
これが、俺の当たり前。だ。
スイは自分に言い聞かせる。
また、独りに戻らなくてはいけない。だから、これくらいのことは自分で始末をつける。
それができたら、せめて二人に別れを告げるくらいは、自分に許してやろうと思う。ちゃんと友人として別れて、もし、この先会うことがあったとき、笑って挨拶ができるようになりたい。たとえ、細い糸でもいい繋がっているのだと思っていたい。
そんなことを一瞬だけ考える。けれど、それはほんの一瞬で、スイはそんな思いを心の奥に沈めた。
それから、ドアに向かう。
いつの間にか雨の匂いがしていた。
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