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FiLwT
ダメだ。だめだ。だめだ。5
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「連絡する人って誰?」
さっきまで酔っ払いの顔だったのに、嘘のように醒めた表情。真剣な眼差し。怒っているようにも見える。
ユキはまるで幼い子供のように感情の起伏が激しい。ように見えるのだが、その実かなり穏やかな性格をしている。表情は豊かだけれど、あくまで自分自身の気持ちが溢れているだけで、その喜怒哀楽を他人にぶつけることはしない。
「……あ。いや。個人的な知り合いで……ユキ君は知らない人だから」
ユキが剥き出しの感情をぶつけてくるのは、アキが連れ去られたあの日以来だと思う。何がユキをそんなふうにさせているのか分からなくて、何と答えていいのか分からなくなって、スイは言葉を濁した。
「……俺の、知らない人?」
スイの片腕を掴んだユキの手に力が籠る。
「……痛っ」
あまりの強さに顔を顰めても、その力が緩むことはなかった。
「ユキ君。痛い」
腕力でユキに敵うはずがない。けれど、ユキが今までスイに暴力をふるうようなことはなかった。だから、スイは戸惑う。何がユキをそんな風にさせているか、何を見落としているのか、考えないといけない。
「……だって、スイさん何も教えてくんないだろ?」
ぼそり。と、呟くようにユキが言う。今度は怒りというよりも、悲し気な声だ。
「何考えてんの? 教えてよ」
顔を見上げると、迷子の子供のような顔をしたユキがいた。心臓を握りつぶされるような気がした。
「ユキ……」
ユキが何を知りたがっているのか、分からない。分からないことだらけで、怖い。また、あのときのように一瞬で幸福がすべて泡のように消えてしまいそうな気がする。
「……ねえ。スイさん。誰を、待っていたの? 人混み嫌いなのに……」
その問いに、一瞬で、今度は心臓が凍り付く。鼓動が止まってしまったかのような錯覚。
うまく息ができない。
あの日、アキにされた質問と同じだ。
スイの腕を掴む手に、別の腕の映像が重なる。あの日、スイの腕を掴んだのが誰だったのか、思い出してはいけないと思ったときにはもう、手遅れだった。
「……離し……」
喉がからからに乾く。胃の中にあるものがせり上がってくる。鼓動が早くて音が聞こえない。違うと分かっていても掴まれた手がどうしようもなく怖い。
「……スイさん?」
ああ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。
心の中でスイは何度も自分に言い聞かせた。
何がダメなのか、自分でもわからなかった。
ユキの声はもう、聞こえなかった。
「……ど…したの……」
「離せ!」
スイの叫び声に、驚いてユキの手から一瞬力が抜けた。その機を逃さずに手を振り払い、スイはそのまま駆け出した。
「スイさん!」
追いすがってくるユキの声。けれど、後ろを振り返ることができなかった。
さっきまで酔っ払いの顔だったのに、嘘のように醒めた表情。真剣な眼差し。怒っているようにも見える。
ユキはまるで幼い子供のように感情の起伏が激しい。ように見えるのだが、その実かなり穏やかな性格をしている。表情は豊かだけれど、あくまで自分自身の気持ちが溢れているだけで、その喜怒哀楽を他人にぶつけることはしない。
「……あ。いや。個人的な知り合いで……ユキ君は知らない人だから」
ユキが剥き出しの感情をぶつけてくるのは、アキが連れ去られたあの日以来だと思う。何がユキをそんなふうにさせているのか分からなくて、何と答えていいのか分からなくなって、スイは言葉を濁した。
「……俺の、知らない人?」
スイの片腕を掴んだユキの手に力が籠る。
「……痛っ」
あまりの強さに顔を顰めても、その力が緩むことはなかった。
「ユキ君。痛い」
腕力でユキに敵うはずがない。けれど、ユキが今までスイに暴力をふるうようなことはなかった。だから、スイは戸惑う。何がユキをそんな風にさせているか、何を見落としているのか、考えないといけない。
「……だって、スイさん何も教えてくんないだろ?」
ぼそり。と、呟くようにユキが言う。今度は怒りというよりも、悲し気な声だ。
「何考えてんの? 教えてよ」
顔を見上げると、迷子の子供のような顔をしたユキがいた。心臓を握りつぶされるような気がした。
「ユキ……」
ユキが何を知りたがっているのか、分からない。分からないことだらけで、怖い。また、あのときのように一瞬で幸福がすべて泡のように消えてしまいそうな気がする。
「……ねえ。スイさん。誰を、待っていたの? 人混み嫌いなのに……」
その問いに、一瞬で、今度は心臓が凍り付く。鼓動が止まってしまったかのような錯覚。
うまく息ができない。
あの日、アキにされた質問と同じだ。
スイの腕を掴む手に、別の腕の映像が重なる。あの日、スイの腕を掴んだのが誰だったのか、思い出してはいけないと思ったときにはもう、手遅れだった。
「……離し……」
喉がからからに乾く。胃の中にあるものがせり上がってくる。鼓動が早くて音が聞こえない。違うと分かっていても掴まれた手がどうしようもなく怖い。
「……スイさん?」
ああ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。
心の中でスイは何度も自分に言い聞かせた。
何がダメなのか、自分でもわからなかった。
ユキの声はもう、聞こえなかった。
「……ど…したの……」
「離せ!」
スイの叫び声に、驚いてユキの手から一瞬力が抜けた。その機を逃さずに手を振り払い、スイはそのまま駆け出した。
「スイさん!」
追いすがってくるユキの声。けれど、後ろを振り返ることができなかった。
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