遠くて近い世界で

司書Y

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ダメだ。だめだ。だめだ。1

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 ◇小鳥遊兄弟の部屋:翡翠◇

 メディスン。
 と、一般的に呼ばれているのは、錠剤タイプの合成麻薬で、MDMAのようないわゆるセックスドラッグの一種だ。効果は高いとは言えず、その代わりに依存度も低い。かなり安価で、流通量が多く、中高生でも容易に手に入れることができる。ただ、結局は物足りなくなり、より依存度な毒性が強いものへと移行してしまうことが、問題になっていた。

 使用すると多幸感と、軽い幻覚作用があり、触覚が敏感になる。そのため性行為の際に快感を高めるために使用されることが多い。しかし、近年、販路の拡大で、生活水準の高い家庭の子女が受験や人間関係のストレスから使用する例もかなり報告されていた。
 先に触れたが、売人のほとんどは中高生。既使用者が友達を紹介してくれれば割引する。という謳い文句につられて次の使用者を作り出す。いわゆる、マルチ商法。商品は駅中の通販用受け取りボックスを利用して、金銭の受け渡しはネット用の金券。どれもこれも使い古された手口だ。

 正攻法では時間がかかるかもしれない。けれど、手段を択ばなければ商品の流れは簡単に掴むことができたし、もちろん、非合法だが、中高生であれば健康診断の結果も入手可能だ。ある程度の『震源地』の推測はできる。ただ、被疑者が異常に多いため、こちらからこれ以上の情報を得るのは一人で(しかも短期間で)調査しているスイには難しい。
 それにしても、警察の動きは鈍いことは一目瞭然だった。中学校の教室でさえ取引されているというのに、摘発されるのは末端の売人ばかりだ。本格的に調査をしていないスイですら、すでに数年前にはある程度の情報を得ていたというのに、警察はいまだおおよその主犯像すら把握しておらず、ほとんど何もしていないに等しい。

 かわりに、動きを見せているのは、反社会的勢力だった。自分たちのシマで好き放題に商売されて、黙っているわけにはいかない。
 メディスンの『流行』は主にK県の都市部に見られる。周辺各都県にも広がりつつあるが、中心地はK県の県庁所在地である。この地域を勢力圏に持つ組織は当初かなり強引なやり方でメディスンの販路を潰そうとしていたが、あるものはそのいたちごっこに疲弊し諦め、あるものはメディスンで満足できなくなった使用者に上位互換となる薬物の販売を優位に進めるという条件で手を出すのをやめ、あるものはまるで取るに足らないことだと静観していた。
 いずれにせよ、反社会組織の連中にはメディスンの情報は決して手に入れなれないものではない。このことから、メディスンの販売の黒幕が検挙されないのは、彼らが警察に影響力を持つ誰かの庇護を受けているからだと、スイは結論付けた。

 さらに調査を進める。
 ニコの友人であるミナこと『田中三奈』。ニコと同じ名門女子高に通う俗にいうお嬢様。とはいえ、彼女が通う高校では彼女程度の家柄はごく普通で、彼女自身も目立つような存在ではない。ニコが教室の隅で本を読んでいるような子と評したように彼女の交友範囲はそれほど広くはない。というのが、彼女の周辺の友人の評価だったのだが、調査し始めてすぐにそうでもなかったことが分かった。
 彼女はSNSの裏アカウントを持っていた。ニコは情報工学の技術を駆使するスイのようなタイプの情報屋ではない。もちろん、今時の女子だから全く興味がないわけではないけれど、鍵がかかったSNSを覗き見て情報を得るようなやり方には精通してはいないだろう。だから、気付かなかった。けれど、それを読むことで、スイの調査の殆どは終了してしまった。
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