88 / 414
FiLwT
制服の情報屋 2
しおりを挟む
「無理。てか、塾の時間あるんだろ。本題」
そう言って、スイは彼女にmicroSDを渡した。
「いわれたやつ」
中身は某有名私大S大学の裏口入学者名簿だ。入手経路はもちろん、駅前で大声で話せるような方法ではない。
「さんきゅ。さすがスイちゃん、仕事が早いね。じゃ。これ。私の方も」
そう言って、可愛らしいピンクの花柄の封筒を渡される。何も知らない人が見たら、少女が年上のおっさんにラブレターでも渡しているように見えるのだろうか。スイは思う。
けれど、この便せんの中に入っているのも、そんな色気のあるものではない。いや、別の意味で色気はあるかもしれない。それは、彼女の通う有名女子高の生徒の保護者であるところの某一部上場企業の役員の女子高生買春の情報だった。娘と同じ歳の女子高生(こちらは普通の公立高校の生徒)を何人も侍らせて取引先の重役たち相手に接待させていた証拠だ。
「こっちも、助かった」
情報の交換。
それが、スイが彼女と定期的に会っている理由だ。
彼女は現役女子高生でありながら、情報屋。数十人とも言われるこの界隈の情報屋のコミュニティの一員だ。そこでは情報屋同士での情報交換が頻繁に行われている。金銭による情報の受け渡しもないわけではないが、基本的には情報には情報で対価とするのが暗黙の了解。そして、ネットなどを介さず、顔を合わせて情報を受け渡すことも、コミュニティの鉄則だった。
「じゃ。俺はかえる」
座っていた植え込みから立ち上がって、立ち去ろうとすると、いつもなら、ひらひら。と、手を振って見送るニコがスイの袖を掴んだ。
「ねえ。スイちゃん。お願いがあるんだけど」
コミュニティではほしい情報は個人同士でやり取りするのではなく、昼は喫茶店、夜はバーになるとある店に伝えて、情報をくれる相手を募る。情報屋にも得手不得手があるため、その方が効率がいいからだ。今回の情報交換もコミュニティの中心であるその店を介して紹介された。
だから、ニコがスイに頼み事。と言っているのはおそらく、ただ情報を集めてほしいだけではないと、すぐにわかった。
「ん?」
ニコは見た目は真面目な女子高生だ。父親はそこそこの企業の社長で、優しい母親と、ニコ曰く生意気な妹の4人家族。
絵に書いたような幸福な家庭の娘が何故こんな犯罪まがいのことをしているのかは、わからない。過去を詮索しないことも、コミュニティのルールのひとつだ。
しかし、スイが訊ねたわけではないのだが、雑談の端で「トラウマの克服のため」と、その理由を彼女はけらけら笑いながら語った。それは、多分嘘ではない。スイは思う。
何故そう思うのか。それは、勘としか言いようがない。ただ、スイは彼女に自分と似た匂いを感じていた。
トラウマになるような出来事が過去にあったこと。だから、全てを知っていなければ気が済まない事。そして、本当のことは言えない。けれど、こんなことをしている理由を誰かに知っていてほしいこと。
自分が消えて無くなったときのために。
「スイちゃん?」
だから、自分が協力できることは協力してやりたかった。それが、彼女自身のためになるかどうかは、わからないけれど。
スイの沈黙にニコは珍しく困った顔をした。そんな表情を見ていると、余計に放っておけない。彼女は、一級の情報屋だか、また、子供だ。
「言ってみな」
仕方ない。というポーズだけ作って促すと、彼女はさっきとは違う水色の封筒を学校指定だと思われるカバンからとりだして、スイに渡した。見ていいかと視線で問いかけると、頷くだけの返事が返ってくる。
封筒を開けると、ニコと、同じ制服を着たもう一人の少女が二人で映った写真と、おそらくはその少女の氏名と国民番号と思われる番号が書かれた紙片が入っていた。
そう言って、スイは彼女にmicroSDを渡した。
「いわれたやつ」
中身は某有名私大S大学の裏口入学者名簿だ。入手経路はもちろん、駅前で大声で話せるような方法ではない。
「さんきゅ。さすがスイちゃん、仕事が早いね。じゃ。これ。私の方も」
そう言って、可愛らしいピンクの花柄の封筒を渡される。何も知らない人が見たら、少女が年上のおっさんにラブレターでも渡しているように見えるのだろうか。スイは思う。
けれど、この便せんの中に入っているのも、そんな色気のあるものではない。いや、別の意味で色気はあるかもしれない。それは、彼女の通う有名女子高の生徒の保護者であるところの某一部上場企業の役員の女子高生買春の情報だった。娘と同じ歳の女子高生(こちらは普通の公立高校の生徒)を何人も侍らせて取引先の重役たち相手に接待させていた証拠だ。
「こっちも、助かった」
情報の交換。
それが、スイが彼女と定期的に会っている理由だ。
彼女は現役女子高生でありながら、情報屋。数十人とも言われるこの界隈の情報屋のコミュニティの一員だ。そこでは情報屋同士での情報交換が頻繁に行われている。金銭による情報の受け渡しもないわけではないが、基本的には情報には情報で対価とするのが暗黙の了解。そして、ネットなどを介さず、顔を合わせて情報を受け渡すことも、コミュニティの鉄則だった。
「じゃ。俺はかえる」
座っていた植え込みから立ち上がって、立ち去ろうとすると、いつもなら、ひらひら。と、手を振って見送るニコがスイの袖を掴んだ。
「ねえ。スイちゃん。お願いがあるんだけど」
コミュニティではほしい情報は個人同士でやり取りするのではなく、昼は喫茶店、夜はバーになるとある店に伝えて、情報をくれる相手を募る。情報屋にも得手不得手があるため、その方が効率がいいからだ。今回の情報交換もコミュニティの中心であるその店を介して紹介された。
だから、ニコがスイに頼み事。と言っているのはおそらく、ただ情報を集めてほしいだけではないと、すぐにわかった。
「ん?」
ニコは見た目は真面目な女子高生だ。父親はそこそこの企業の社長で、優しい母親と、ニコ曰く生意気な妹の4人家族。
絵に書いたような幸福な家庭の娘が何故こんな犯罪まがいのことをしているのかは、わからない。過去を詮索しないことも、コミュニティのルールのひとつだ。
しかし、スイが訊ねたわけではないのだが、雑談の端で「トラウマの克服のため」と、その理由を彼女はけらけら笑いながら語った。それは、多分嘘ではない。スイは思う。
何故そう思うのか。それは、勘としか言いようがない。ただ、スイは彼女に自分と似た匂いを感じていた。
トラウマになるような出来事が過去にあったこと。だから、全てを知っていなければ気が済まない事。そして、本当のことは言えない。けれど、こんなことをしている理由を誰かに知っていてほしいこと。
自分が消えて無くなったときのために。
「スイちゃん?」
だから、自分が協力できることは協力してやりたかった。それが、彼女自身のためになるかどうかは、わからないけれど。
スイの沈黙にニコは珍しく困った顔をした。そんな表情を見ていると、余計に放っておけない。彼女は、一級の情報屋だか、また、子供だ。
「言ってみな」
仕方ない。というポーズだけ作って促すと、彼女はさっきとは違う水色の封筒を学校指定だと思われるカバンからとりだして、スイに渡した。見ていいかと視線で問いかけると、頷くだけの返事が返ってくる。
封筒を開けると、ニコと、同じ制服を着たもう一人の少女が二人で映った写真と、おそらくはその少女の氏名と国民番号と思われる番号が書かれた紙片が入っていた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

たしかなこと
大波小波
BL
白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。
ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。
彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。
そんな彼が言うことには。
「すでに私たちは、恋人同士なのだから」
僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
しあわせのカタチ
葉月めいこ
BL
気ままで男前な年上彼氏とそんな彼を溺愛する年下ワンコのまったりのんびりな日常。
好き、愛してるじゃなくて「一緒にいる」それが二人のしあわせのカタチ。
ゆるりと甘いけれど時々ぴりりとスパイスも――。
二人の日常の切れ端をお楽しみください。
※続編の予定はありますが次回更新まで完結をつけさせていただきます。

アズ同盟
未瑠
BL
事故のため入学が遅れた榊漣が見たのは、透き通る美貌の水瀬和珠だった。
一目惚れした漣はさっそくアタックを開始するが、アズに惚れているのは漣だけではなかった。
アズの側にいるためにはアズ同盟に入らないといけないと連れて行かれたカラオケBOXには、アズが居て
……いや、お前は誰だ?
やはりアズに一目惚れした同級生の藤原朔に、幼馴染の水野奨まで留学から帰ってきて、アズの周りはスパダリの大渋滞。一方アズは自分への好意へは無頓着で、それにはある理由が……。
アズ同盟を結んだ彼らの恋の行方は?
悠遠の誓い
angel
BL
幼馴染の正太朗と海瑠(かいる)は高校1年生。
超絶ハーフイケメンの海瑠は初めて出会った幼稚園の頃からずっと平凡な正太朗のことを愛し続けている。
ほのぼの日常から運命に巻き込まれていく二人のラブラブで時にシリアスな日々をお楽しみください。
前作「転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった」を先に読んでいただいたほうがわかりやすいかもしれません。(読まなくても問題なく読んでいただけると思います)
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる