遠くて近い世界で

司書Y

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制服の情報屋 2

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「無理。てか、塾の時間あるんだろ。本題」

 そう言って、スイは彼女にmicroSDを渡した。

「いわれたやつ」

 中身は某有名私大S大学の裏口入学者名簿だ。入手経路はもちろん、駅前で大声で話せるような方法ではない。

「さんきゅ。さすがスイちゃん、仕事が早いね。じゃ。これ。私の方も」

 そう言って、可愛らしいピンクの花柄の封筒を渡される。何も知らない人が見たら、少女が年上のおっさんにラブレターでも渡しているように見えるのだろうか。スイは思う。
 けれど、この便せんの中に入っているのも、そんな色気のあるものではない。いや、別の意味で色気はあるかもしれない。それは、彼女の通う有名女子高の生徒の保護者であるところの某一部上場企業の役員の女子高生買春の情報だった。娘と同じ歳の女子高生(こちらは普通の公立高校の生徒)を何人も侍らせて取引先の重役たち相手に接待させていた証拠だ。

「こっちも、助かった」

 情報の交換。
 それが、スイが彼女と定期的に会っている理由だ。
 彼女は現役女子高生でありながら、情報屋。数十人とも言われるこの界隈の情報屋のコミュニティの一員だ。そこでは情報屋同士での情報交換が頻繁に行われている。金銭による情報の受け渡しもないわけではないが、基本的には情報には情報で対価とするのが暗黙の了解。そして、ネットなどを介さず、顔を合わせて情報を受け渡すことも、コミュニティの鉄則だった。

「じゃ。俺はかえる」

 座っていた植え込みから立ち上がって、立ち去ろうとすると、いつもなら、ひらひら。と、手を振って見送るニコがスイの袖を掴んだ。

「ねえ。スイちゃん。お願いがあるんだけど」

 コミュニティではほしい情報は個人同士でやり取りするのではなく、昼は喫茶店、夜はバーになるとある店に伝えて、情報をくれる相手を募る。情報屋にも得手不得手があるため、その方が効率がいいからだ。今回の情報交換もコミュニティの中心であるその店を介して紹介された。
 だから、ニコがスイに頼み事。と言っているのはおそらく、ただ情報を集めてほしいだけではないと、すぐにわかった。

「ん?」

 ニコは見た目は真面目な女子高生だ。父親はそこそこの企業の社長で、優しい母親と、ニコ曰く生意気な妹の4人家族。
 絵に書いたような幸福な家庭の娘が何故こんな犯罪まがいのことをしているのかは、わからない。過去を詮索しないことも、コミュニティのルールのひとつだ。
 しかし、スイが訊ねたわけではないのだが、雑談の端で「トラウマの克服のため」と、その理由を彼女はけらけら笑いながら語った。それは、多分嘘ではない。スイは思う。
 何故そう思うのか。それは、勘としか言いようがない。ただ、スイは彼女に自分と似た匂いを感じていた。
 トラウマになるような出来事が過去にあったこと。だから、全てを知っていなければ気が済まない事。そして、本当のことは言えない。けれど、こんなことをしている理由を誰かに知っていてほしいこと。
 自分が消えて無くなったときのために。

「スイちゃん?」

 だから、自分が協力できることは協力してやりたかった。それが、彼女自身のためになるかどうかは、わからないけれど。
 スイの沈黙にニコは珍しく困った顔をした。そんな表情を見ていると、余計に放っておけない。彼女は、一級の情報屋だか、また、子供だ。

「言ってみな」

 仕方ない。というポーズだけ作って促すと、彼女はさっきとは違う水色の封筒を学校指定だと思われるカバンからとりだして、スイに渡した。見ていいかと視線で問いかけると、頷くだけの返事が返ってくる。
 封筒を開けると、ニコと、同じ制服を着たもう一人の少女が二人で映った写真と、おそらくはその少女の氏名と国民番号と思われる番号が書かれた紙片が入っていた。
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