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FiLwT
触らないから 3
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「こいつに会うときは教えて」
袖を折り終えて、アキが顔を上げる。
赤い瞳が見ている。真剣な表情。また、どきり。と、鼓動が早くなる。
「え? どして?」
今日はたまたま偶然に会ったのだけれど、シロと会うことは少なくない。友人としてプライベートでも、クライアントとして仕事でも。特定の相手と親しくすることがあまりないスイにとっては、プライベート用のスマホに名前がある数少ない人物の一人だ。
思い立って急に食事に誘ったり、珍しい酒が手に入ったと声をかけられたり、いちいち報告していたら面倒だろうと、思う。
「こいつが、一番、危ないから」
危ない。
の、意味が分からずにスイは首を傾げた。確かに彼は一般営業職のサラリーマンに比べたらかなり危険人物かもしれないが、少なくともスイには手を上げたことどころか、友人と呼べるような間柄になってからは声を荒げたことすらない。いつも、スイの気持ちを一番に考えてくれていると思う。
「ああん?」
と、言うスイのシロへの印象とは裏腹にどこからどう見てもヤバい人全開の表情を作って、シロがアキを睨んできた。まさに一触即発。指先でも触れたら切れてしまいそうな緊張感だ。
「本当のことだろうが」
また、スイを後ろに隠すようにして、アキもシロと対峙する。
ここに至って、完全に周囲には人だかりができていた。美形で長身の二人の対峙は(二人の思惑はともかくとして)一般人にはわくわくするようなアトラクションなのだ。
「んだと?」
売られたものを買う気満々で、シロも一歩前に出る。
もともと、二人とも気が長いほうではない。どちらかというと、直情型だ。しかも、キレたら相手を徹底的にねじ伏せないと気が済まないタイプだ。
「あー。もう。そこまで! ほら。アキ君。ユキ君待ってるから行くよ」
だから、スイは慌ててアキの腕を引いた。二人が本気で喧嘩を始めたなら、そんな怪獣大決戦を止められる自信はないし、通報されることは間違いない。そしたら、折角楽しみにしていた外ご飯の計画が台無しだ。
「あ、ちょ。スイさん……」
今度はスイが強引に腕を引いて歩き出す。
「じゃ。シロ君。またね」
それから、呆気にとられているシロに手を振る。とにかくすぐにこの場から去りたい。目立つのは嫌だし、たとえ加害者でなくとも警察沙汰はもっと嫌だ。
「あ。ちょ。スイさん……」
タイプはかなり違うくせに、同じような言葉で引き留めようとするシロに、スイはにっこり。と、笑みを返した。
「帰ったら、LINEするから」
スイの言葉に、何かを言おうと口を開きかけたけれど、シロはその言葉は飲み込んだ。
「待ってる」
代わりに、近くまで歩いてきて、そ。と、顔に手を伸ばした。それから、アキが止める間もなく、す。と、頬を撫でる。
「シロ君?」
さっきのナンパ男に触られたような不快感はない。けれど、突然のことで驚くと、シロは、いつもの笑顔に戻って言う。
「睫毛。ついてた」
スイの方に向けた親指の先にスイのものと思しき緑色の睫毛が付いている。
「あ。ありがと」
シロの触れた場所をそっと手でさすりながら答えると、ぐい。と、また、腕を乱暴にひかれた。
「アキ君?」
「行こう」
どこからどう見ても不機嫌な表情を浮かべるアキ。そのまま、腕を引かれてスイは歩き出す。
「あ。……シロ君。それじゃあ、また」
「ん。連絡待ってる」
振り返って見たシロの表情はアキとは対照的にもう、不機嫌な顔ではなかった。と、言うより、勝ち誇ったような、してやったりというような、簡単に言うとドヤ顔。シロとアキの間では、今のやり取りで何かあったのだろうとは思う。けれど、スイにはその意味はやはり分からないのであった。
袖を折り終えて、アキが顔を上げる。
赤い瞳が見ている。真剣な表情。また、どきり。と、鼓動が早くなる。
「え? どして?」
今日はたまたま偶然に会ったのだけれど、シロと会うことは少なくない。友人としてプライベートでも、クライアントとして仕事でも。特定の相手と親しくすることがあまりないスイにとっては、プライベート用のスマホに名前がある数少ない人物の一人だ。
思い立って急に食事に誘ったり、珍しい酒が手に入ったと声をかけられたり、いちいち報告していたら面倒だろうと、思う。
「こいつが、一番、危ないから」
危ない。
の、意味が分からずにスイは首を傾げた。確かに彼は一般営業職のサラリーマンに比べたらかなり危険人物かもしれないが、少なくともスイには手を上げたことどころか、友人と呼べるような間柄になってからは声を荒げたことすらない。いつも、スイの気持ちを一番に考えてくれていると思う。
「ああん?」
と、言うスイのシロへの印象とは裏腹にどこからどう見てもヤバい人全開の表情を作って、シロがアキを睨んできた。まさに一触即発。指先でも触れたら切れてしまいそうな緊張感だ。
「本当のことだろうが」
また、スイを後ろに隠すようにして、アキもシロと対峙する。
ここに至って、完全に周囲には人だかりができていた。美形で長身の二人の対峙は(二人の思惑はともかくとして)一般人にはわくわくするようなアトラクションなのだ。
「んだと?」
売られたものを買う気満々で、シロも一歩前に出る。
もともと、二人とも気が長いほうではない。どちらかというと、直情型だ。しかも、キレたら相手を徹底的にねじ伏せないと気が済まないタイプだ。
「あー。もう。そこまで! ほら。アキ君。ユキ君待ってるから行くよ」
だから、スイは慌ててアキの腕を引いた。二人が本気で喧嘩を始めたなら、そんな怪獣大決戦を止められる自信はないし、通報されることは間違いない。そしたら、折角楽しみにしていた外ご飯の計画が台無しだ。
「あ、ちょ。スイさん……」
今度はスイが強引に腕を引いて歩き出す。
「じゃ。シロ君。またね」
それから、呆気にとられているシロに手を振る。とにかくすぐにこの場から去りたい。目立つのは嫌だし、たとえ加害者でなくとも警察沙汰はもっと嫌だ。
「あ。ちょ。スイさん……」
タイプはかなり違うくせに、同じような言葉で引き留めようとするシロに、スイはにっこり。と、笑みを返した。
「帰ったら、LINEするから」
スイの言葉に、何かを言おうと口を開きかけたけれど、シロはその言葉は飲み込んだ。
「待ってる」
代わりに、近くまで歩いてきて、そ。と、顔に手を伸ばした。それから、アキが止める間もなく、す。と、頬を撫でる。
「シロ君?」
さっきのナンパ男に触られたような不快感はない。けれど、突然のことで驚くと、シロは、いつもの笑顔に戻って言う。
「睫毛。ついてた」
スイの方に向けた親指の先にスイのものと思しき緑色の睫毛が付いている。
「あ。ありがと」
シロの触れた場所をそっと手でさすりながら答えると、ぐい。と、また、腕を乱暴にひかれた。
「アキ君?」
「行こう」
どこからどう見ても不機嫌な表情を浮かべるアキ。そのまま、腕を引かれてスイは歩き出す。
「あ。……シロ君。それじゃあ、また」
「ん。連絡待ってる」
振り返って見たシロの表情はアキとは対照的にもう、不機嫌な顔ではなかった。と、言うより、勝ち誇ったような、してやったりというような、簡単に言うとドヤ顔。シロとアキの間では、今のやり取りで何かあったのだろうとは思う。けれど、スイにはその意味はやはり分からないのであった。
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