遠くて近い世界で

司書Y

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触らないから 1

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 ◇N駅前:翡翠 2◇

「アキ君」

 見上げると、それは、スイの待ち合わせの相手だった。
 今日は出かけているアキとユキと外で合流して外で食事をする約束をしていたからだ。N駅前でアキと。焼肉屋の前でユキと落ち合う予定だったのだけれど、久しぶりに三人での外食が楽しみで、嫌いだった人混みでの待ち合わせも了承してしまったのだった。

「あ。この人は川和……」

「知ってる」

 スイの腕を引いて、後ろに押しやってシロとの間に割り込んでアキはまた、スイの言葉を遮った。
 少し乱暴なやり方でも、アキなら不快感はない。それはどうしてなのだろうと、スイは思う。その答えも、軽く情緒が欠落しているスイにはわからなかった。

「川和志狼。川和組の会長・川和歳狼の長男だろ?」

 アキの顔は元々大理石の彫刻みたいに整っている。白銀の色の髪や赤い瞳と相まって、殆ど人間味がないくらいに見えるときがある。今日はまさにそれで、シロを見る目はまるで機械のようだ。

「それは知ってる。何で、こいつがここにいるのかって、聞いてる」

 まるで、シロの視線からスイを隠すように立ちはだかって、アキが続ける。

「あ? 俺がどこにいようと俺の勝手だ。てか、小鳥遊秋生(たかなしあきは)? スイさんが入院させてくれって言ってきたのお前か」

 明確過ぎる敵意が籠ったシロの視線。普通の人が見たら泣いて逃げだすだろう。けれど、アキは一歩も引こうとはしない。それどころか、機械のようだった赤い瞳に鋭角な殺気が混ざる。

「最近、噂になってる。兄弟で仕事してるってハウンド。腕。いいんだってな」

 く。と、喉の奥で笑うシロはさっきスイに微笑みかけた時とはもう、別人だ。獲物を前にした狼のような目に背筋が寒くなる。

「の、わりには。スイさん、危ない目に合わせてんじゃねえよ。
 てめえみてえな優男にスイさんと仕事する資格あんのか?」

 一瞬だけ、アキの表情が変わった。スイを危ない目に合わせるな。と、シロが言ったときだ。きっと、それについては、アキ自身が一番悪いと思っているはずだ。けれど、それはアキのせいではないし、もし、捕まったのがユキでもシロでスイは同じことをしたと思う。

「あ。アキ君。シロ君には、偶然あって。変なのに絡まれてたの助けてくれて……」

 ぎゅ。と、アキの服の袖をつかむと、アキはようやくシロから視線を離して振り返った。

「変なの?」

 けれど、険しい表情は変わらない。

「なんだよそれ?」

 くる。と、さっきまで殺そうとしてるんじゃないかという勢いで睨んでいた相手に背を向けて、スイを正面から見て、アキが聞いてくる。でも、険しい表情だけれど、さっきまでとは違う、本気で心配してくれている顔だ。

「や。その……」

 男にナンパされて、拉致られそうになってました。とは、恥ずかしくて言えなくて、スイは口籠った。
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