遠くて近い世界で

司書Y

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FiLwT

狂犬と引きこもり 6

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「ん。じゃ、今度うちに招待する。……ところで、それ。そろそろ放してやらないと死んじゃうかもよ?」

 意図的に無視していたナンパ男はシロに腕をひねり上げられて瀕死の状態だった。最早言葉すら出なくなって、口をパクパクさせている。仲間の男が見捨てて逃げ出さないのは意外だったけれど、よくよく見てみたら、人込みの中にシロのお付きの黒服が何人かいるようなので、逃げられなかっただけかもしれない。

「や。スイさんが許すって言うまでは、と、思って。折れって言うなら、今すぐ……」

 腕を掴んだ男に、背筋が凍り付くような笑みを向けて、シロは腕に力を入れた。

「ぎゃあああっ」

 それだけで、男が大声で叫ぶ。よく見ると、失禁しているのか、股間に染みができていた。

「シロ君。やりすぎ。もういい」

 スイが苦笑しながら言うと、突然興味を失くしたようにぽいっ。と、掴んだ腕を離して、シロはスイに向きなおった。途端に、二人組の男が逃げ出す。失禁したガラの悪い男が走ってくるから、モーゼの十戒みたいに割れていく人混みを抜けて、男たちが消えると、街は徐々に元の喧騒に戻っていった。

「今のも、ありがと。シロ君が来なかったら、植え込みに頭突っ込んでパンツ下ろしてやろうかと思ってた。目立ち過ぎだな」

 あながち冗談でもないのだが、笑いながらそう言うと、こわ。と、呟きながら、シロも笑った。

「ところで。ホント、スイさんがこんな場所にいるなんて珍しいな。人、多いところ嫌いじゃなかったか?」

 立っていると見上げる形になるシロの顔。少し心配そうだ。ここで出会ったのは偶然で、スイの待ち合わせの相手は彼ではない。

「うん。苦手。ああいうのいるし。でも……」

「なに? こいつ」

 ぐい。と、少し強引に腕を引かれて、スイの言葉は途切れる。かわりに不機嫌そうな低い声が頭の上から聞こえてきた。
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