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スイの気持ち
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そんなある日の出来事だった。
いつも通り、朝一番にドア横についたチャイムを押す。一回で起きたためしはないから、何回も。
いい加減迷惑かと思う。いや、迷惑だ。自由業の男二人暮らしが、朝7時に起きているわけがないのだから。
「アキくん。ユキくん」
それでも、少しでも早く会いたい。
口に出しては言えないけれど。きっと、そのくらいは許されてもいいと、思う。
シーンと静まり返る。ドアの中。起きていないどころか、もしかしたら、いないのかもしれない。自由業というのは、自由だから自由業なのだ。朝昼晩など関係なく、仕事のある時は出かけている。
けれど、自分が通うようになってから、いないよ。と、前置きされた時以外で、彼らが朝、家に居なかったことはない。いないよ。と、言われたときは、来ていないから、もしかしたらいたかもしれないけれど、少なくとも、ここへ来て空振りに終わったことはない。
本当に、いないのかな?
と、思い始めた時だった。
がたん!!!
がしゃ~ん!!
ドアの奥から、派手に音を立てて、何かが壊れる音がする。それから、またしんと静まり返る。
「ちょ……。大丈夫!?」
心配になってドアの中に、声をかけると、ドアに近付いてくる足音。それから、ドアチェーンが外れる音。
「……ん。おはよ」
ドアが開いて、あからさまに目をしょぼしょぼさせた世帯主が登場する。
「おはよう。アキ君」
エントランスの壁に片手をついて、もう片方の手で脛あたりを撫でている。多分、さっきの音は何かに脛をぶつけた音なんだろう。
「どした?」
おそるおそる問いかけると、にっこりと笑顔が返ってきた。
「スイさん。手出して」
言われるままに手を出すと、その手の上に飴色の革のキーケースが載せられた。スイが二人にプレゼントしたものと同じキーケースだ。
「……??」
ただ、ついている石は翡翠。スイの瞳の色の石。
「あげるよ。鍵もついてるから」
ケースの中には鍵が入っていた。作ったばかりの真新しい鍵。
「この部屋の鍵。好きな時に好きなように入っていいから。だから。さ」
ずりずりと壁に寄りかかったまま、アキが座り込む。
「……せめて8時まで寝かせて?」
よほど眠かったのか、そのまままた寝入りそうになるアキ。
「あ。ちょっと! アキ君こんなとこで寝たら風邪ひくよ?」
また、目をしょぼしょぼさせて僅かにアキがスイを見る。折角の美人が台無しだ。目が3になってる。
「……こんなん。渡しちゃっていいわけ? 女の子連れ込んでるときに、入ってきちゃうかもよ?」
「だいじょうぶ。スイさん、いがい……つれこんだりしないから」
起きているのか寝ているのか、冗談なのか本気なのか、いまいち判断がつきかねる。
「……あんまり……甘やかさないでよ。嬉しくて……入り浸っちゃうよ?」
アキは笑っていた。でも、目は開けなかった。
「あー。スイさんおはよ」
奥から、ユキが出てきた。こっちは、アクロバティックな寝癖を披露しているが、幾分寝起きはいいようだ。
「あー! 兄貴渡しちゃったの?? 俺が渡したかったのにー」
アキの前にしゃがみこんだスイの手にキーケースを見つけて、ユキがアキを揺する。
「俺が渡そうって言ったんだぜ。折角、スイさんびっくりさせようと思ったのに」
ユキの言葉に僅かに目を開けるアキ。しかし、興味ないとばかりにまた目を閉じてしまった。
「ありがと。二人とも」
スイの言葉に二人が笑う。
嬉しかったから、明日からは8時に起こしてあげよう。
朝食を用意して、コーヒーを入れて。
きっとアキ君は目を3にして。
きっとユキ君は頭を爆発させて。
おはようと言ってくれる。
願ってもいいかな。
こんな風にずっと変わらない日常が続いていくこと。
その日常にずっと二人がいること。
幸せになれないと。あの人は言ったけれど、知っていたんだろうか。
多分これが幸せだ。特別なことなんて何も要らない。
神様。
別に微笑んでくれなくてもいいです。俺に微笑んでくれないことくらいはちゃんと理解しています。でも、俺に微笑んでくれる人はここにいるから。神様の微笑みは要りません。
だから、どうか、邪魔だけはしないでください。
もし、邪魔するって言うなら、相手が誰でも関係ない。二度と邪魔する気なんておきないような嫌がらせをして差し上げます。
と、天使の頬笑みで悪魔は笑うのであった。
いつも通り、朝一番にドア横についたチャイムを押す。一回で起きたためしはないから、何回も。
いい加減迷惑かと思う。いや、迷惑だ。自由業の男二人暮らしが、朝7時に起きているわけがないのだから。
「アキくん。ユキくん」
それでも、少しでも早く会いたい。
口に出しては言えないけれど。きっと、そのくらいは許されてもいいと、思う。
シーンと静まり返る。ドアの中。起きていないどころか、もしかしたら、いないのかもしれない。自由業というのは、自由だから自由業なのだ。朝昼晩など関係なく、仕事のある時は出かけている。
けれど、自分が通うようになってから、いないよ。と、前置きされた時以外で、彼らが朝、家に居なかったことはない。いないよ。と、言われたときは、来ていないから、もしかしたらいたかもしれないけれど、少なくとも、ここへ来て空振りに終わったことはない。
本当に、いないのかな?
と、思い始めた時だった。
がたん!!!
がしゃ~ん!!
ドアの奥から、派手に音を立てて、何かが壊れる音がする。それから、またしんと静まり返る。
「ちょ……。大丈夫!?」
心配になってドアの中に、声をかけると、ドアに近付いてくる足音。それから、ドアチェーンが外れる音。
「……ん。おはよ」
ドアが開いて、あからさまに目をしょぼしょぼさせた世帯主が登場する。
「おはよう。アキ君」
エントランスの壁に片手をついて、もう片方の手で脛あたりを撫でている。多分、さっきの音は何かに脛をぶつけた音なんだろう。
「どした?」
おそるおそる問いかけると、にっこりと笑顔が返ってきた。
「スイさん。手出して」
言われるままに手を出すと、その手の上に飴色の革のキーケースが載せられた。スイが二人にプレゼントしたものと同じキーケースだ。
「……??」
ただ、ついている石は翡翠。スイの瞳の色の石。
「あげるよ。鍵もついてるから」
ケースの中には鍵が入っていた。作ったばかりの真新しい鍵。
「この部屋の鍵。好きな時に好きなように入っていいから。だから。さ」
ずりずりと壁に寄りかかったまま、アキが座り込む。
「……せめて8時まで寝かせて?」
よほど眠かったのか、そのまままた寝入りそうになるアキ。
「あ。ちょっと! アキ君こんなとこで寝たら風邪ひくよ?」
また、目をしょぼしょぼさせて僅かにアキがスイを見る。折角の美人が台無しだ。目が3になってる。
「……こんなん。渡しちゃっていいわけ? 女の子連れ込んでるときに、入ってきちゃうかもよ?」
「だいじょうぶ。スイさん、いがい……つれこんだりしないから」
起きているのか寝ているのか、冗談なのか本気なのか、いまいち判断がつきかねる。
「……あんまり……甘やかさないでよ。嬉しくて……入り浸っちゃうよ?」
アキは笑っていた。でも、目は開けなかった。
「あー。スイさんおはよ」
奥から、ユキが出てきた。こっちは、アクロバティックな寝癖を披露しているが、幾分寝起きはいいようだ。
「あー! 兄貴渡しちゃったの?? 俺が渡したかったのにー」
アキの前にしゃがみこんだスイの手にキーケースを見つけて、ユキがアキを揺する。
「俺が渡そうって言ったんだぜ。折角、スイさんびっくりさせようと思ったのに」
ユキの言葉に僅かに目を開けるアキ。しかし、興味ないとばかりにまた目を閉じてしまった。
「ありがと。二人とも」
スイの言葉に二人が笑う。
嬉しかったから、明日からは8時に起こしてあげよう。
朝食を用意して、コーヒーを入れて。
きっとアキ君は目を3にして。
きっとユキ君は頭を爆発させて。
おはようと言ってくれる。
願ってもいいかな。
こんな風にずっと変わらない日常が続いていくこと。
その日常にずっと二人がいること。
幸せになれないと。あの人は言ったけれど、知っていたんだろうか。
多分これが幸せだ。特別なことなんて何も要らない。
神様。
別に微笑んでくれなくてもいいです。俺に微笑んでくれないことくらいはちゃんと理解しています。でも、俺に微笑んでくれる人はここにいるから。神様の微笑みは要りません。
だから、どうか、邪魔だけはしないでください。
もし、邪魔するって言うなら、相手が誰でも関係ない。二度と邪魔する気なんておきないような嫌がらせをして差し上げます。
と、天使の頬笑みで悪魔は笑うのであった。
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