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HBtF
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真夜中の道を、ユキは走っていた。肩に担いだライフルのケースが重くて、かさばって、いつも通りのスピードで走れなくて、イライラする。苛立ち紛れに前方に現れた車止めを軽く飛び越えて、さらに加速する。
アキは大丈夫だろうか。
インカムから聞こえた声は、少し掠れていて、多分ユキを心配させまいと無理をしていたんだと思う。もう、負担をかけたくなくて、通話を終わらせてしまったけれど、その後がどうなったのか、心配でならなかった。
菱川の助っ人が来て、二人が危険な目にあってるんじゃないかとか、無理していたけど本当は怪我がひどくて通話ができなくなってしまったんじゃないかとか、何も言っていなかったけれど、スイがひどく怒っているんじゃないかとか。
普段はポジティブシンキングのユキには珍しく、悪い考えばかりがぐるぐると頭を回って離れてくれなかった。
何度目かの信号無視をした時だった、車のクラクションが響いて、ユキは立ち止まった。
「るせえ!!」
大声で叫ぶ。そうでもしないと、頭がパンクしそうだった。
「……ユキ君?」
しかし、クラクションの主の声に、ユキははっと顔を上げた。
「よかった、会えた。乗りな? アキ君の病院行くよ」
車の運転席から顔を出したのは、スイだった。いつも通りの表情。あのときの悲し気な色は全く見えない。その顔に、ほっとしたのと、苦しくなるのが同時だった。
「どした?」
何も答えられずに黙っているユキに不思議そうにスイが声をかける。
「スイ……さん。ごめん」
言葉は自然に出ていた。謝らずに先に進めない気がした。スイの顔は見られない。
また、あんな顔をさせてしまったらどうしよう。
アキはちゃんと謝れと言っていた。だから、ユキには謝るしかできなかった。
「ユキ君」
でも、スイの声は優しくて、ユキは顔をあげた。そこにはいつも通り笑うスイがいた。
「怒ってなんてない。ユキ君が気持ちをぶつけてくれるのは、俺のこと認めてくれてるからだって、わかった」
きっと、ガキみたいに謝ることしかできない自分のかわりに、アキがユキの気持ちを伝えてくれたのだと思う。それから、そんなことまで兄に頼っている自分が情けなくなった。
「ほら、早く乗って。アキ君待ってるよ」
もっと、大人になりたいと思う。二人のように。そして、アキとスイには自分の気持ちを自分で伝えたいと思う。だから、それまで一緒にいてほしい。ユキは思う。どんな危険が降りかかってきても、自分が二人を守るから。
「……スイさん。お願いだ」
そんな思いを込めて、ユキは真剣な顔でスイを見つめた。
「俺さ。もっと、その……ちゃんとするから。待っててくれる? 俺たちのそばで」
少し驚いた顔のスイ。それから、おかしそうに目を細めた。
「何を?」
街灯の明かりしかないのに、その翡翠の色の目はすごく綺麗で。ユキはそれに見とれていた。
「え?」
見惚れていたから、質問の意味がわからなくて、ユキは問い返した。
「だから。俺は何を待っていればいいわけ?」
くすくすと、楽しそうに笑うスイ。その笑顔はすごく大人なようで、どれでいてまるで少女のように屈託なくて、綺麗で。ユキの心に温かな何かを湧き上がらせた。
よかった。笑ってくれた。
ユキは思う。
「……だから。……あれ? なんだっけ??」
だから、その答えは、ゆっくり探せばいいと思った。
急がなくても、多分時間はたっぷりある。
その答えが出るころには、きっと。
アキは大丈夫だろうか。
インカムから聞こえた声は、少し掠れていて、多分ユキを心配させまいと無理をしていたんだと思う。もう、負担をかけたくなくて、通話を終わらせてしまったけれど、その後がどうなったのか、心配でならなかった。
菱川の助っ人が来て、二人が危険な目にあってるんじゃないかとか、無理していたけど本当は怪我がひどくて通話ができなくなってしまったんじゃないかとか、何も言っていなかったけれど、スイがひどく怒っているんじゃないかとか。
普段はポジティブシンキングのユキには珍しく、悪い考えばかりがぐるぐると頭を回って離れてくれなかった。
何度目かの信号無視をした時だった、車のクラクションが響いて、ユキは立ち止まった。
「るせえ!!」
大声で叫ぶ。そうでもしないと、頭がパンクしそうだった。
「……ユキ君?」
しかし、クラクションの主の声に、ユキははっと顔を上げた。
「よかった、会えた。乗りな? アキ君の病院行くよ」
車の運転席から顔を出したのは、スイだった。いつも通りの表情。あのときの悲し気な色は全く見えない。その顔に、ほっとしたのと、苦しくなるのが同時だった。
「どした?」
何も答えられずに黙っているユキに不思議そうにスイが声をかける。
「スイ……さん。ごめん」
言葉は自然に出ていた。謝らずに先に進めない気がした。スイの顔は見られない。
また、あんな顔をさせてしまったらどうしよう。
アキはちゃんと謝れと言っていた。だから、ユキには謝るしかできなかった。
「ユキ君」
でも、スイの声は優しくて、ユキは顔をあげた。そこにはいつも通り笑うスイがいた。
「怒ってなんてない。ユキ君が気持ちをぶつけてくれるのは、俺のこと認めてくれてるからだって、わかった」
きっと、ガキみたいに謝ることしかできない自分のかわりに、アキがユキの気持ちを伝えてくれたのだと思う。それから、そんなことまで兄に頼っている自分が情けなくなった。
「ほら、早く乗って。アキ君待ってるよ」
もっと、大人になりたいと思う。二人のように。そして、アキとスイには自分の気持ちを自分で伝えたいと思う。だから、それまで一緒にいてほしい。ユキは思う。どんな危険が降りかかってきても、自分が二人を守るから。
「……スイさん。お願いだ」
そんな思いを込めて、ユキは真剣な顔でスイを見つめた。
「俺さ。もっと、その……ちゃんとするから。待っててくれる? 俺たちのそばで」
少し驚いた顔のスイ。それから、おかしそうに目を細めた。
「何を?」
街灯の明かりしかないのに、その翡翠の色の目はすごく綺麗で。ユキはそれに見とれていた。
「え?」
見惚れていたから、質問の意味がわからなくて、ユキは問い返した。
「だから。俺は何を待っていればいいわけ?」
くすくすと、楽しそうに笑うスイ。その笑顔はすごく大人なようで、どれでいてまるで少女のように屈託なくて、綺麗で。ユキの心に温かな何かを湧き上がらせた。
よかった。笑ってくれた。
ユキは思う。
「……だから。……あれ? なんだっけ??」
だから、その答えは、ゆっくり探せばいいと思った。
急がなくても、多分時間はたっぷりある。
その答えが出るころには、きっと。
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