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「ナイスエイム」
インカムに向かってスイが呟く。さっきの視線はユキへの合図だったのだ。
分かっていても、心臓が凍るかと思った。
「ありがとう。ユキ君。見えてる? アキ君は大丈夫だよ」
遠く窓の外に視線を送って、ひらり。と、軽く手を振って、スイが言う。おそらく、その方向にユキが狙撃に使ったビルがあるのだろう。
「……うん。ごめん。……うん。アキ君を救急車に乗せたら、俺が拾いに行くよ。…………大丈夫。ちゃんと、手配してあるから……あ。うん。かわる」
インカムを外して、アキの耳にそれを付ける。それから、自分は後ろ手に縛られたアキの拘束を解きに掛かった。いつも腰の後ろに差しているナイフで結束バンドを切る。
「ユキか?」
「兄貴!」
聞こえてきた、聞きなれた声に、ほっと息が漏れる。ユキの方は安全な場所にいるのは分かっているから、これは心配というよりも、助かったのだと、自分自身が安心したため息だ。
「悪かったな。心配させて……いつっ」
両手を拘束していた結束バンドを外されて、僅かに腕が動いただけの振動で思い出したように傷が痛んだ。スイもごめん。と、口を動かすだけで伝えて、心配そうにアキを見ている。
中性的で整った顔立ち。そのいたるところに飛び散った、返り血。それにそぐわない柔らかな表情。それから、唇の端に滲んだ血。思わず、視線が逸らせなくなった。
「兄貴? 大丈夫なのか?」
一瞬。スイに気を取られて、間が開いたから、ユキが心配そうに声を上げる。
「大丈夫……とは言い難いな……」
誤魔化すようにアキは答えた。スイに見惚れてしまっていたことを、知られてはいけないような気がした。それよりも、身体が限界に近い。しかし、まだ、しなければならないことが残っている。
「話の途中でごめん。すぐにここを離れた方がいい。下に救急車呼んであるから。話しながらでいいから。アキ君肩つかまって」
スイの言う通りだ。ここからでなければならない。
ここは、まだ、菱川の縄張りの中なのだ。無様に倒れこむのは、そのほかのことを考えるのも、ここを脱出してからでなくてはいけない。
「スイさん。大丈夫なのか? さっき……」
その問いを途中で遮って、スイは唇に手を当てて、し。と、ポーズをとった。どうやら、ユキにけがをしたことは知られたくないらしい。心配させたくないのだろう。
「警備員は黙らせてあるし、夜中だからビル内には人は残っていないけど、銃声がしたから下に人が集まって来ると思う。アキ君歩ける? といっても、俺じゃ君は背負えないかもだけど」
痛みアキが、そんなことは言っていられない。スイの肩に掴まって立つと、傷口が悲鳴を上げた。スイもろっ骨のあたりを押さえているところを見ると、銃弾が当たったことは間違いないらしい。それでも声も上げない彼に弱音を吐くこともできなくて、アキは重い脚を引きずって歩き始めた。
インカムに向かってスイが呟く。さっきの視線はユキへの合図だったのだ。
分かっていても、心臓が凍るかと思った。
「ありがとう。ユキ君。見えてる? アキ君は大丈夫だよ」
遠く窓の外に視線を送って、ひらり。と、軽く手を振って、スイが言う。おそらく、その方向にユキが狙撃に使ったビルがあるのだろう。
「……うん。ごめん。……うん。アキ君を救急車に乗せたら、俺が拾いに行くよ。…………大丈夫。ちゃんと、手配してあるから……あ。うん。かわる」
インカムを外して、アキの耳にそれを付ける。それから、自分は後ろ手に縛られたアキの拘束を解きに掛かった。いつも腰の後ろに差しているナイフで結束バンドを切る。
「ユキか?」
「兄貴!」
聞こえてきた、聞きなれた声に、ほっと息が漏れる。ユキの方は安全な場所にいるのは分かっているから、これは心配というよりも、助かったのだと、自分自身が安心したため息だ。
「悪かったな。心配させて……いつっ」
両手を拘束していた結束バンドを外されて、僅かに腕が動いただけの振動で思い出したように傷が痛んだ。スイもごめん。と、口を動かすだけで伝えて、心配そうにアキを見ている。
中性的で整った顔立ち。そのいたるところに飛び散った、返り血。それにそぐわない柔らかな表情。それから、唇の端に滲んだ血。思わず、視線が逸らせなくなった。
「兄貴? 大丈夫なのか?」
一瞬。スイに気を取られて、間が開いたから、ユキが心配そうに声を上げる。
「大丈夫……とは言い難いな……」
誤魔化すようにアキは答えた。スイに見惚れてしまっていたことを、知られてはいけないような気がした。それよりも、身体が限界に近い。しかし、まだ、しなければならないことが残っている。
「話の途中でごめん。すぐにここを離れた方がいい。下に救急車呼んであるから。話しながらでいいから。アキ君肩つかまって」
スイの言う通りだ。ここからでなければならない。
ここは、まだ、菱川の縄張りの中なのだ。無様に倒れこむのは、そのほかのことを考えるのも、ここを脱出してからでなくてはいけない。
「スイさん。大丈夫なのか? さっき……」
その問いを途中で遮って、スイは唇に手を当てて、し。と、ポーズをとった。どうやら、ユキにけがをしたことは知られたくないらしい。心配させたくないのだろう。
「警備員は黙らせてあるし、夜中だからビル内には人は残っていないけど、銃声がしたから下に人が集まって来ると思う。アキ君歩ける? といっても、俺じゃ君は背負えないかもだけど」
痛みアキが、そんなことは言っていられない。スイの肩に掴まって立つと、傷口が悲鳴を上げた。スイもろっ骨のあたりを押さえているところを見ると、銃弾が当たったことは間違いないらしい。それでも声も上げない彼に弱音を吐くこともできなくて、アキは重い脚を引きずって歩き始めた。
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