遠くて近い世界で

司書Y

文字の大きさ
上 下
48 / 414
HBtF

5-2

しおりを挟む
「どうしてここが分かった?」

 縛られたまま動けないアキのこめかみに銃を突きつけて、六人目の男が聞く。

「……まほう……」

「あ?」

 苦しげにスイが呟いた言葉が聞き取れなかったのか、男が聞き返した。
 
「魔法使ったんだよ。知らないのか? 俺魔法使いなんだ」

 スイの軽口に、銃声が響く。それは、スイの頬を掠めて、背後の壁に突き刺さった。
 スイが男の注意をアキから、自分に向けようとしていることはすぐにわかる。男は交渉に必要なアキを簡単に殺さない。けれど、傷つけはするかもしれない。それを、自分がかわりにかぶろうとしているのだ。

「口のきき方に気をつけろ。こいつはともかく」

 いいながら、もう一度、アキに銃口を向ける。

「お前はいつ殺されても文句言えねぇんだぞ」

 それから、スイに銃口を向けて、もう一発銃声が響いた。今度の銃弾はスイの肩を抉って、また、背後の壁に吸い込まれていく。
 まるで、そうやって男が自分を標的にすることこそ、彼の狙いだとでもいうように、スイは顔色を変えなかった。感情の籠らない翡翠の色の瞳が真っ直ぐに男を見据える。
 
「もう一度聞く。どうやってここがわかった?」

 今度はスイの眉間に狙いを定めて、男が問うた。

「……魔法じゃだめだった?」

 スイの意図が分かっていても、アキには自分を盾にするスイが堪らなかった。やめろ。と、声を上げたかった。けれど、それをしたら、全てを台無しにしてしまうことも分かっていた。
 だから、強く唇を噛む。

「本当なんだけど。まあいいや。じゃあ」

 そう言って、スイはちらりと、僅かに、ほんの僅かに窓に視線を遣った。その視線の意味にアキは気づいて、六人目の男は気付かなかった。

「……愛の力ってことで」

 再び、馬鹿にしたような答えに激高した男が引き金を引こうとしたのと、男の頭が弾け飛んだのはほぼ同時だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

彩雲華胥

柚月なぎ
BL
 暉の国。  紅鏡。金虎の一族に、痴れ者の第四公子という、不名誉な名の轟かせ方をしている、奇妙な仮面で顔を覆った少年がいた。  名を無明。  高い霊力を封じるための仮面を付け、幼い頃から痴れ者を演じ、周囲を欺いていた無明だったが、ある出逢いをきっかけに、少年の運命が回り出す――――――。  暉の国をめぐる、中華BLファンタジー。 ※この作品は最新話は「カクヨム」さんで読めます。また、「小説家になろう」さん「Fujossy」さんでも連載中です。 ※表紙や挿絵はすべてAIによるイメージ画像です。 ※お気に入り登録、投票、コメント等、すべてが励みとなります!応援していただけたら、幸いです。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

よく効くお薬〜偏頭痛持ちの俺がエリートリーマンに助けられた話〜

高菜あやめ
BL
【マイペース美形商社マン×頭痛持ち平凡清掃員】千野はフリーのプログラマーだが収入が少ないため、夜は商社ビルで清掃員のバイトをしてる。ある日体調不良で階段から落ちた時、偶然居合わせた商社の社員・津和に助けられ……偏頭痛持ちの主人公が、エリート商社マンに世話を焼かれつつ癒される甘めの話です◾️スピンオフ1【社交的爽やかイケメン営業マン×胃弱で攻めに塩対応なSE】千野のチームの先輩SE太田が主人公です◾️スピンオフ2【元モデルの実業家×低血圧の営業マン】千野と太田のプロジェクトチーム担当営業・片瀬とその幼馴染・白石の恋模様です

処理中です...