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HBtF
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突然、窓ガラスが割れる音が響いた。
同時に、ふ。とオフィスの明かりが消える。
明かりが消える瞬間、アキは、自分の一番近くにいた男の頭が破裂するように弾け飛んだのを見ていた。暗闇の中に鉄錆の匂いが広がる。生暖かい何かが、飛び散って頬を濡らした。
「な……」
なんだ。と言うつもりだったのかもしれない。しかし、直後に開いたドアの音と、骨のひしゃげるような鈍い音だけが響く。
多分、その男が上げただろう呻きも一瞬にして消えた。
「明かりを……うがっ!」
パニックを起こす間もなく、音もなく、気配だけが動いて、鉄錆の匂いと、床に液体が飛び散る音だけが聞こえてきた。
「……アキ君大丈夫?」
労わるようにそっと肩に手を置いて、聞こえてきたのは想像した通りの声だった。
スイだ。
やはり、魔法使いは魔法を使ってこの場所を特定したらしい。
声が聞けたことに、安堵する。
「も、ちょっと我慢しててな」
空気が動く気配がして、スイが少し自分から離れたのが分かった。まだ暗闇になれない目には、その姿は映らないが、スイの方からは暗視スコープでアキの姿が確認できているのだろう。この部屋にもう一人いるはずの人物の確認に向かうつもりなのだろう。ここまで手際のいい作戦だ。中にいる人数の確認も取れているはず。
き。
ふと響いたドアの開く音に、この静けさの中、同じ部屋にいても、殆ど聞こえないスイの足音が、一瞬止まる。
その瞬間、ドアの音とは反対側から、銃の安全装置を外す音が響いた。
「アキ!!」
直後、マシンガンを乱射する音にスイの叫びが重なる。しかし、アキの体にぶつかってきたのは銃弾ではなかった。何かが覆いかぶさるようにのしかかって来る。
「スイ!?」
ふと、スイの腕が動いた気配の後、銃声が一発。そして、銃撃は止んだ。
そこで、明かりがついた。
「スイさん」
部屋の様子は、明かりが消える前とは一変していた。
開け放たれたドアの元に鼻がつぶれ喉を切り裂かれた男。アキの脇には頭を潰され、壁際まで飛ばされた男。部屋の中央付近にいる二人は、比較的原形を留めているが、二人とも傷口から鼓動の早さで噴水を上げている。パーテーションの奥から出てきた男は額の真中にあるはずのない穴が開いていた。
いや、それよりも。
「スイさん! しっかりしろ!」
アキに覆いかぶさったまま動かないスイ。ボディアーマーは付けているが、自動小銃の弾丸を受ければ、ハンマーで殴られたほどの衝撃があるはずだ。
「……やってくれたな」
ドアが開いて、奥から男が現れる。多分知らないものには気づくことはできなかっただろう。そのドアは壁と同じ色になっていた。所謂、隠し扉というやつだ。
その向こうは、隣の事務所に繋がっているようだった。中にいたアキですら知らなかった部屋だ。おそらく、違法建築だろうその場所をスイが知らなかった(というよりも、これがアキの心配していたスイ自身のリスクを疎かにしているということなのかもしれない)ことは想像に難くない。
「……六人目……」
苦痛に顔を歪めながら、スイが顔を上げた。そのまま、アキを守るように男と対峙する。
「スイ……さん!」
とりあえず意識があることにほっとする間もなく、近づいてきた男がスイの細い身体を蹴り飛ばす。壁際まで飛ばされて、スイが勢いよく咳き込んだ。唇の端から血が滲んでいるのが見えて、アキはぎりと唇を噛んだ。
同時に、ふ。とオフィスの明かりが消える。
明かりが消える瞬間、アキは、自分の一番近くにいた男の頭が破裂するように弾け飛んだのを見ていた。暗闇の中に鉄錆の匂いが広がる。生暖かい何かが、飛び散って頬を濡らした。
「な……」
なんだ。と言うつもりだったのかもしれない。しかし、直後に開いたドアの音と、骨のひしゃげるような鈍い音だけが響く。
多分、その男が上げただろう呻きも一瞬にして消えた。
「明かりを……うがっ!」
パニックを起こす間もなく、音もなく、気配だけが動いて、鉄錆の匂いと、床に液体が飛び散る音だけが聞こえてきた。
「……アキ君大丈夫?」
労わるようにそっと肩に手を置いて、聞こえてきたのは想像した通りの声だった。
スイだ。
やはり、魔法使いは魔法を使ってこの場所を特定したらしい。
声が聞けたことに、安堵する。
「も、ちょっと我慢しててな」
空気が動く気配がして、スイが少し自分から離れたのが分かった。まだ暗闇になれない目には、その姿は映らないが、スイの方からは暗視スコープでアキの姿が確認できているのだろう。この部屋にもう一人いるはずの人物の確認に向かうつもりなのだろう。ここまで手際のいい作戦だ。中にいる人数の確認も取れているはず。
き。
ふと響いたドアの開く音に、この静けさの中、同じ部屋にいても、殆ど聞こえないスイの足音が、一瞬止まる。
その瞬間、ドアの音とは反対側から、銃の安全装置を外す音が響いた。
「アキ!!」
直後、マシンガンを乱射する音にスイの叫びが重なる。しかし、アキの体にぶつかってきたのは銃弾ではなかった。何かが覆いかぶさるようにのしかかって来る。
「スイ!?」
ふと、スイの腕が動いた気配の後、銃声が一発。そして、銃撃は止んだ。
そこで、明かりがついた。
「スイさん」
部屋の様子は、明かりが消える前とは一変していた。
開け放たれたドアの元に鼻がつぶれ喉を切り裂かれた男。アキの脇には頭を潰され、壁際まで飛ばされた男。部屋の中央付近にいる二人は、比較的原形を留めているが、二人とも傷口から鼓動の早さで噴水を上げている。パーテーションの奥から出てきた男は額の真中にあるはずのない穴が開いていた。
いや、それよりも。
「スイさん! しっかりしろ!」
アキに覆いかぶさったまま動かないスイ。ボディアーマーは付けているが、自動小銃の弾丸を受ければ、ハンマーで殴られたほどの衝撃があるはずだ。
「……やってくれたな」
ドアが開いて、奥から男が現れる。多分知らないものには気づくことはできなかっただろう。そのドアは壁と同じ色になっていた。所謂、隠し扉というやつだ。
その向こうは、隣の事務所に繋がっているようだった。中にいたアキですら知らなかった部屋だ。おそらく、違法建築だろうその場所をスイが知らなかった(というよりも、これがアキの心配していたスイ自身のリスクを疎かにしているということなのかもしれない)ことは想像に難くない。
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苦痛に顔を歪めながら、スイが顔を上げた。そのまま、アキを守るように男と対峙する。
「スイ……さん!」
とりあえず意識があることにほっとする間もなく、近づいてきた男がスイの細い身体を蹴り飛ばす。壁際まで飛ばされて、スイが勢いよく咳き込んだ。唇の端から血が滲んでいるのが見えて、アキはぎりと唇を噛んだ。
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