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き。
と、金属の僅かに軋む音がして、ドアがあく。それは、アキとユキの部屋ではなく、その隣の部屋だった。
それから、恐る恐るという態で老婦人の顔が覗く。
「! 閉めて!」
スイの叫び声と銃声が同時だった。
「……っっ!!」
ユキが声にならない叫びを上げる。崩れ落ちるように倒れたのは、老婦人ではなく、アキだった。
「……っドア閉めて……鍵も……はやく」
苦しげに眉をしかめながら、それでも老婦人を脅えさせないように優しい声で、アキは言った。その声に老婦人が慌ててドアを閉める。
「兄貴!!」
表情を一変させてユキが青ざめた顔で叫ぶ。
こんな表情を見るのは初めてだった。悲痛な表情を浮かべて、崩れ落ちたアキに向かってユキが、手を伸ばす。
「ユキ君!!」
その瞬間を狙い撃たれ、すんでのところでスイはユキを突き飛ばし銃弾を逃れた。その二人と、アキの間に割り込むように残った男たちが体制を立て直してくる。
「どけ!」
狼の唸り声を思わせる低い声でユキが言う。視線の先のアキは意識があるのか、ないのか動かない。通路の床に赤い染みが広がっていくのが見える。
「……どけよ」
ユキのその声にスイの背中にぞわと、気味の悪い感覚が走った。しかし、それに被せるように遠くから、パトカーのサイレンが聞こえてきて、その感覚が霧散する。
「マズい! サツだ。おい、そいつを連れてけ!」
抵抗のないアキを二人がかりで担いで、残りの三人でユキとスイをけん制しながら男たちが去っていく。
「兄貴!!」
ユキがそれを追って駈け出そうとする。
「来るな!!!」
アキが顔を僅かに上げて叫ぶ。よわよわしい声だった。
「いいか……従うな……」
消え入るように呟いて声がしなくなった。それでも、アキを追おうとするユキをスイが押しとどめる。
「スイさん、離してよ! 兄貴が!」
体格の差で引きずられそうになるのを必死で押さえつける。
今手を出したら、アキを助けるどころか、ユキの身すら危うい。
「こいつを返してほしいなら、“あれ”と交換だ。場所と時間はまた連絡する」
アキを連れたまま、男たちの姿が階段に消えた。廊下には点々と赤い跡が残っている。
「スイさん!」
男たちが見えなくなっても、スイはユキを離さなかった。離せばきっと、ユキは行ってしまう。
「今行っても、助けられないだろ! かえって、アキ君を危険にさらすだけだ!!」
納得させるしかない。スイの力ではいつまでもユキを押さえつけているのは不可能だ。
「ざけんなっ! じゃあ、兄貴のこと見捨てろっていうのか!?」
いつもの人懐っこい彼とは別人のようだ。それだけアキがユキにとって大切な人だということは分かっている。
「ユキ!!」
叫んでユキの頬を張る。
スイの行動に、驚いたようにユキの目が見開かれた。それから、見る見るうちに悲しげな表情に変わる。
「わかってるだろ! 冷静になれ! 無策じゃ助けられない。アキ君を助けたいんだろ?」
走り出そうとするのをやめて、力の抜けたユキの肩を掴んで、叫ぶようにスイはいった。
と、金属の僅かに軋む音がして、ドアがあく。それは、アキとユキの部屋ではなく、その隣の部屋だった。
それから、恐る恐るという態で老婦人の顔が覗く。
「! 閉めて!」
スイの叫び声と銃声が同時だった。
「……っっ!!」
ユキが声にならない叫びを上げる。崩れ落ちるように倒れたのは、老婦人ではなく、アキだった。
「……っドア閉めて……鍵も……はやく」
苦しげに眉をしかめながら、それでも老婦人を脅えさせないように優しい声で、アキは言った。その声に老婦人が慌ててドアを閉める。
「兄貴!!」
表情を一変させてユキが青ざめた顔で叫ぶ。
こんな表情を見るのは初めてだった。悲痛な表情を浮かべて、崩れ落ちたアキに向かってユキが、手を伸ばす。
「ユキ君!!」
その瞬間を狙い撃たれ、すんでのところでスイはユキを突き飛ばし銃弾を逃れた。その二人と、アキの間に割り込むように残った男たちが体制を立て直してくる。
「どけ!」
狼の唸り声を思わせる低い声でユキが言う。視線の先のアキは意識があるのか、ないのか動かない。通路の床に赤い染みが広がっていくのが見える。
「……どけよ」
ユキのその声にスイの背中にぞわと、気味の悪い感覚が走った。しかし、それに被せるように遠くから、パトカーのサイレンが聞こえてきて、その感覚が霧散する。
「マズい! サツだ。おい、そいつを連れてけ!」
抵抗のないアキを二人がかりで担いで、残りの三人でユキとスイをけん制しながら男たちが去っていく。
「兄貴!!」
ユキがそれを追って駈け出そうとする。
「来るな!!!」
アキが顔を僅かに上げて叫ぶ。よわよわしい声だった。
「いいか……従うな……」
消え入るように呟いて声がしなくなった。それでも、アキを追おうとするユキをスイが押しとどめる。
「スイさん、離してよ! 兄貴が!」
体格の差で引きずられそうになるのを必死で押さえつける。
今手を出したら、アキを助けるどころか、ユキの身すら危うい。
「こいつを返してほしいなら、“あれ”と交換だ。場所と時間はまた連絡する」
アキを連れたまま、男たちの姿が階段に消えた。廊下には点々と赤い跡が残っている。
「スイさん!」
男たちが見えなくなっても、スイはユキを離さなかった。離せばきっと、ユキは行ってしまう。
「今行っても、助けられないだろ! かえって、アキ君を危険にさらすだけだ!!」
納得させるしかない。スイの力ではいつまでもユキを押さえつけているのは不可能だ。
「ざけんなっ! じゃあ、兄貴のこと見捨てろっていうのか!?」
いつもの人懐っこい彼とは別人のようだ。それだけアキがユキにとって大切な人だということは分かっている。
「ユキ!!」
叫んでユキの頬を張る。
スイの行動に、驚いたようにユキの目が見開かれた。それから、見る見るうちに悲しげな表情に変わる。
「わかってるだろ! 冷静になれ! 無策じゃ助けられない。アキ君を助けたいんだろ?」
走り出そうとするのをやめて、力の抜けたユキの肩を掴んで、叫ぶようにスイはいった。
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