遠くて近い世界で

司書Y

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「……約束してくれるか?」

 今でもスイは怯えている。信じた人に裏切られることを。ではない。信じるのはスイ自身の勝手で。裏切られたと感じるのもスイ自身の勝手な思いだと、思っている。

「いつでも笑っててくれるって。ユキ君と二人で」

 だから、スイが怯える理由はほかにある。
 怖いのだ。
 また、一人になってしまうことが。

「そんなの当たり前だろ? 約束する」

 だから、疑うことなく、当たり前だ。と、言い放ってくれるのが、スイは嬉しかった。
 二人が笑いあっていてくれればきっと、自分も笑っていられる。そう、思える。

「ああ。じゃ……考えとく」

 本当は。
 本当に嬉しかったんだ。
 すぐにでも、よろしくお願いします。と、言いたいくらいに。
 心の中で、言い訳する。
 だけど、今度はなんだか盛り上がってしまった気分が気恥ずかしくて、また天の邪鬼な言葉になってしまった。でも、今の自分にはそれくらいがちょうどいいと、スイは思う。

「俺たちの気が変わんないうちに頼むよ?」

 それも全部分かっているというようにアキが言った。それから、何か思いついたように視線をさまよわせて続ける。

「なあ。スイさん」

 また、少し真剣な顔になるアキ。いや、少しではなくて、かなり真剣な顔で、スイも思わずソファに座りなおす。

「ん? なに?」

 きっと、アキは大切なことを言おうとしていると、確信。聞き逃してはいけないと思った。

「……俺からも、頼みがあんだけど」

 けれど、当たり前だ。と、言い切ったときと違って、アキは妙に歯切れが悪かった。きっと、何かを言うことを躊躇っているのだ


「なに?」

 急かすつもりはなかったが、言葉を区切って黙り込んでしまったアキを促す。何と言われても自分にできる事はするつもりだった。

「……俺になにかあったらさ」

 たっぷりと時間をかけて考えてから、アキが言った。

「ユキのこと頼んでいいか?」

 真剣な赤い瞳がスイの顔を真っ直ぐに見据えている。だから、スイも真剣に考えた。考えてから口を開く。

「…………やだよ」

 驚いたように赤い瞳がスイを見る。

「だってさ……」

 スイが、きっぱりと、断った理由を話そうとしたその時だった。
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