29 / 414
SbM
7-4
しおりを挟む
ヘッドホンからはあの日の歌が流れていた。大切な人にそばにいてほしいと、どんな困難でもそばにいてくれれば乗り越えられると、女々しい男の歌。
でも、この歌が好きだった。
大切な人たちに出会ったあの日にかかっていた曲だから。
リズムに合わせてキーを打つ。指が軽い。何も怖くない。どこまででもいける気がする。
曲に合わせて、気持ちよく鼻歌を歌い始めると、乱暴にヘッドホンをはずされた。“なにすんの?”と非難を込めて見上げると、黒いスーツに機関銃というシュールな姿でユキが恨みがましく睨んでいる。
「ちょっと、スイさん。仕事中でしょ? 今、完全に楽しんでたよね?」
言う間にも、ノールックで背後から二人を狙っていた男の脳天を打ち抜く。
「俺、まじめに仕事してるよ? なあ、兄貴からも言ってやってくれる? この人鼻歌歌ってたけど」
ジジ。
と音がして、無線から聞こえてくるのは、アキの声。
「はあ? まじめに……ってくれないと……ジジ……ゅう料でないよ?」
ここは“敵地”の真っ只中。現在、別働隊のアキとあと二人の仲間が自由に動けるように、セキュリティシステムのハッキング中だった。
「はいはい。もう、終わったよ? 今どこ?」
27番通路。との返事に、目的地までその先にあるドアをすべてOPENにする。
「OK。できたよ。これから、そっちに合流する」
「りょーかい」
返事を聞いてから、端末に繋がっていた自分のノートPCの配線を切る。それから、リュックにPCを入れて立ち上がる。
「いこ。ユキ君」
あれから、随分時間が過ぎた。
いろいろ……本当にいろいろあって、スイは今、アキとユキと一緒にいる。
幸福も、困難も、喜びも、悲しみも、苦痛も、日常も、全部共に歩んできた。そして、その一つ一つを通り過ぎるたびに咲く花の花弁でスイの世界は埋め尽くされている。
「……なにか考えてた?」
時々なんでも分かってるみたいに鋭いユキ。思えば、あの日ユキが“焼肉”なんていってくれたから、自分はここにいるのだと思う。
自分の黒いスーツの裾についた埃を手で払って、スイは笑った。
「……あの日の焼肉代は凄かった」
その一言で頭の上に分かりやすくハテナマークのついたアキのおそろいの黒スーツの背中を叩く。
「アキ君が待ってる」
そういうと、また、あの出会った日のような精悍な表情に変わって、ユキが走り出した。
その背中を見失わないようにスイも走り出す。
ずっと、これからもずっと、そうして追いかけていよう。二人の背中を見失わないように。
スイは思う。
首に下げたヘッドホンからは、あの日の歌がいつまでも流れていた。
でも、この歌が好きだった。
大切な人たちに出会ったあの日にかかっていた曲だから。
リズムに合わせてキーを打つ。指が軽い。何も怖くない。どこまででもいける気がする。
曲に合わせて、気持ちよく鼻歌を歌い始めると、乱暴にヘッドホンをはずされた。“なにすんの?”と非難を込めて見上げると、黒いスーツに機関銃というシュールな姿でユキが恨みがましく睨んでいる。
「ちょっと、スイさん。仕事中でしょ? 今、完全に楽しんでたよね?」
言う間にも、ノールックで背後から二人を狙っていた男の脳天を打ち抜く。
「俺、まじめに仕事してるよ? なあ、兄貴からも言ってやってくれる? この人鼻歌歌ってたけど」
ジジ。
と音がして、無線から聞こえてくるのは、アキの声。
「はあ? まじめに……ってくれないと……ジジ……ゅう料でないよ?」
ここは“敵地”の真っ只中。現在、別働隊のアキとあと二人の仲間が自由に動けるように、セキュリティシステムのハッキング中だった。
「はいはい。もう、終わったよ? 今どこ?」
27番通路。との返事に、目的地までその先にあるドアをすべてOPENにする。
「OK。できたよ。これから、そっちに合流する」
「りょーかい」
返事を聞いてから、端末に繋がっていた自分のノートPCの配線を切る。それから、リュックにPCを入れて立ち上がる。
「いこ。ユキ君」
あれから、随分時間が過ぎた。
いろいろ……本当にいろいろあって、スイは今、アキとユキと一緒にいる。
幸福も、困難も、喜びも、悲しみも、苦痛も、日常も、全部共に歩んできた。そして、その一つ一つを通り過ぎるたびに咲く花の花弁でスイの世界は埋め尽くされている。
「……なにか考えてた?」
時々なんでも分かってるみたいに鋭いユキ。思えば、あの日ユキが“焼肉”なんていってくれたから、自分はここにいるのだと思う。
自分の黒いスーツの裾についた埃を手で払って、スイは笑った。
「……あの日の焼肉代は凄かった」
その一言で頭の上に分かりやすくハテナマークのついたアキのおそろいの黒スーツの背中を叩く。
「アキ君が待ってる」
そういうと、また、あの出会った日のような精悍な表情に変わって、ユキが走り出した。
その背中を見失わないようにスイも走り出す。
ずっと、これからもずっと、そうして追いかけていよう。二人の背中を見失わないように。
スイは思う。
首に下げたヘッドホンからは、あの日の歌がいつまでも流れていた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。

朝起きたら幼なじみと番になってた。
オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。
隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた
思いつきの書き殴り
オメガバースの設定をお借りしてます

彩雲華胥
柚月なぎ
BL
暉の国。
紅鏡。金虎の一族に、痴れ者の第四公子という、不名誉な名の轟かせ方をしている、奇妙な仮面で顔を覆った少年がいた。
名を無明。
高い霊力を封じるための仮面を付け、幼い頃から痴れ者を演じ、周囲を欺いていた無明だったが、ある出逢いをきっかけに、少年の運命が回り出す――――――。
暉の国をめぐる、中華BLファンタジー。
※この作品は最新話は「カクヨム」さんで読めます。また、「小説家になろう」さん「Fujossy」さんでも連載中です。
※表紙や挿絵はすべてAIによるイメージ画像です。
※お気に入り登録、投票、コメント等、すべてが励みとなります!応援していただけたら、幸いです。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?


目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
よく効くお薬〜偏頭痛持ちの俺がエリートリーマンに助けられた話〜
高菜あやめ
BL
【マイペース美形商社マン×頭痛持ち平凡清掃員】千野はフリーのプログラマーだが収入が少ないため、夜は商社ビルで清掃員のバイトをしてる。ある日体調不良で階段から落ちた時、偶然居合わせた商社の社員・津和に助けられ……偏頭痛持ちの主人公が、エリート商社マンに世話を焼かれつつ癒される甘めの話です◾️スピンオフ1【社交的爽やかイケメン営業マン×胃弱で攻めに塩対応なSE】千野のチームの先輩SE太田が主人公です◾️スピンオフ2【元モデルの実業家×低血圧の営業マン】千野と太田のプロジェクトチーム担当営業・片瀬とその幼馴染・白石の恋模様です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる