遠くて近い世界で

司書Y

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SbM

7-2

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「まず、戦技研だけど、君たちに手伝ってもらった時、ホストに侵入するって言ったよな。で。解除キーを探した。これはかなりあっさり見つかったよ。ただ、解除にはまた30時間かかったけど……。
 それから、ホストのデータを全コピして、俺のサーバーに送って、あとはちょっと悪戯を……」

 キーをたたく仕草をしてから、子供のように笑う彼が、全く知らない人物のように思えた。
 というよりも、自分はまだ、この人物のことを何一つ知りはしないのだ。

「悪戯……って」

 貼りつく声帯を叱咤して声を出す。
 ユキは完全に置いてけぼりをくらっている。

「戦技研って、出所の時に網膜パターンで勤怠を管理してるんだけど、そのシステムをかき換えて、ほんのちょっと時間がかかるようにしたわけ。といっても、ずっとなんて見てられないから僅かにね。10秒程度かな?」

 戦闘の隙間に垣間見たスイの横顔を思い出す。
 その目には自分には理解できない文字の羅列が映っていた。いや、多分彼には別の世界が見えているに違いないのだ。
 そして、その時彼の世界には彼しかいない。手を伸ばせば届く距離にいるはずなのに、不意にその気配が希薄になっていくような気がした。

「……まさか。そこにあれを仕込んだのか?」

 魔法使い。
 と、彼らの技術を譬える。

「ご名答」

 軽く拍手をしてスイが言う。

「あの刷り込みをそこに仕込んだんだよ。あの刷り込みの時間は積算だから、毎日少しずつ刷り込んだんだ」

 魔法使い? 違う。
 これは、別のものだ。

「そんな。あれ、30時間かかるんだろ? まだ1週間だぞ。出社と退社だけで、そんなに溜まるか?」

 反論しながらも、アキは知っていた。

「……ま。そこはそれ……ちょっとした魔法でね。あの光の点滅。実はかなりの不純物を含んでてね。それを取り除いたうえで、点滅を可能な限り早くすると、2分ほどで刷り込みが完了する。さらに言えば、点滅を早くすれば、ちらつきがなくなって、誰も不快に感じないよ。もちろん、頭痛もなくなる。だからかな。誰も気づかない」

 スイは。彼は悪魔なのだ。
 無邪気で、無慈悲で、気まぐれで、性質の悪い。

「後は何種類かの指令を個別のパソコンのデスクトップに仕込んだ。刷り込みが終わったら、即、発動するように先に仕込んでおくのがみそ。よく使われているPCから優先的に重要度の高い指令を仕込むのもね。
 たとえば、この催眠療法に関するデータを全て消去せよ。とか。
 ホストコンピュータに火をつけろ。とか。
 時限式で開くようにしておいたデータを持って、戦技研を裏切って四犀会に逃げ込め。とか。
 他にもうまくいくようにいくつかの指令を仕込んでおいたけど……全部成功したわけじゃないと思う。
 ただ、一つや二つうまくいかなくても作戦の大筋には影響でないようにしておいた」

 戦果を自慢するでもなく、己の力を誇示するでもなく、ただ、説明しろと言われたから、淡々と説明している。スイの様子はそんな感じだ。
 しかし、説明している内容はどうだ。
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