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「怖いな。
あの女の人。全く普通に見えた。あれで、命令を遂行している途中だったなんて。もし、これが実用化されたら……しかも、あの戦技研に。
俺の耳にも聞こえたよ。
その衝動に身を任せろ。ってさ」
それは、今朝見た悪夢の中の言葉。
聞き取れはしなかったが、いつの間にか頭の中に刻まれていた。
「彼女は死んだよ。あんたにそのmicroSD渡した後にヤクザの前で首を掻き切ってる。もちろん、それが、彼女への“指令”だったんだろ」
諦めた。というより、観念したようにハルが話し始めた。
「さっきの質問への答えだけど……microSDの中身の指令。俺は戦技研の雇われたわけじゃないから、中身は推測になるけど、おそらく、黒服の女と大差ない。だれかに、次のmicroSDを届けて、その後証拠隠滅を図れってとこだろ」
これは嘘ではないと思う。最初に質問したのだが、アキの答えの見当はついていた。
「……まず、最初にその研究を始めたのは、一人の大学生だった。らしい。
そいつは、臨床心理学を学んでいた。その中でも、そいつが注目していたのは催眠療法。
この場合の催眠療法ってのは簡単に言うと、まず、ある種の光の点滅によって対象者を催眠状態にして、心の枷を取り払う。それによって、ストレスからの解放を促して、精神的安寧を得る……とかいう研究だった。
でも、できあがったものは……さっきあんたが言った通りのものだ。
最初は偶然だったらしい。あらゆるサンプルを作っては、友人を実験台にしてたんだと。それを咎められて、腹いせに“自殺しろ”と、“命令”を出したら、成功した? それって成功なのか?
まあ、そんなわけだ。
全部伝聞だから、詳しいことは聞かないでくれ。専門外だしな。てか、多分あんたの方がちゃんと理解してるだろ。」
お手上げというように両手を上げて、アキは言う。
正直、データができた経緯なんてスイにはどうでもよかった。どうせ、ろくなことじゃないだろうと思っていたのがその通りだっただけだ。
「あんたを襲ったあいつら。ガラの悪い連中大体の見当はついてるよな?」
当然。という口ぶりだった。
まあ、当然、スイにも分かっている。
「広域暴力団“勘解由小路組”の傘下の“四犀会”……の下っ端」
やくざを甘く見てはいけない。半分アマチュアのチンピラではなく、本物のやくざは性質が悪い。だか、所詮、昨夜の手合いは“下っ端”だ。お粗末なやり口がそれを物語っている。
「そのとおり。
で、さっきいった、その手法を開発した大学生を雇ったのは、もともと、戦技研ではなくて、四犀会のやつらだった。
大学を出た後、研究資金ほしさにヤクザに雇われたわけだ。まあ、結局はさらに金を出してくれる戦技研に寝返ったわけだけど。
そいつ、残念ながらあまり有能ではなかった。
光の点滅による催眠なんてそんなに独創的な話じゃないしな。枷を外す方法を見つけ出したのは本当に偶然だったんだ。まあ、もともと治療目的での研究が、とことん道をそれているのでも、無能さ加減がわかるよな。成果を出せと言われても、現在わかっている以上の答えを探し出すことができない。そこでだ……」
そこまで話して、アキがちら。とスイを見る。
「人体実験……か」
その視線に促されるまま、スイが答えた。
結局、自分の選ばれた理由も、想像通りだった。情報工学の技術を持っているプラス孤独で他人とのかかわりを最小限にしている人間。
スイは、まさにうってつけの人選だったのだろう。
「まあ、“人体実験”は戦技研のお得意だ。
あんたに仕事を回したエージェント以外にも何人かが紹介した10人にあのフラッシュが送られてる。みんな、ある程度以上の情報技術のスキルを持った者だ。
これは、暗号解読と称した刷り込みに相当な時間がかかるからだ。個人差はあるらしいけど、最短でも30時間といわれてる。素人では、早々に諦めてしまう可能性が高いが、プロなら簡単に諦めたりしないだろ?
ちなみに……部屋の盗聴器は戦技研の仕事だよ。前催眠の進捗を確かめるためだと思うけど、あんたメモリを開いたあと、殆ど外出しなかっただろ? なかなか盗聴器しかける隙がなくて戦技研のやつらも焦れてたんじゃない?
ばら撒いた10本のうち、ファイルが開かれたのは7本。これは、意外と多いと思ったけど、ま、プライドってやつ?」
からかうように顔を見つめられて、少しだけカチンとくるが、本当の事なので反論できない。スイも自分の能力を過信していた一人だ。どんなデータが入っていても自分なら大丈夫だと。結局、その過信すらも利用されていたと考えると、杜撰かと思っていた“人体実験”もなかなかの計画だったと思えなくもない。
あの女の人。全く普通に見えた。あれで、命令を遂行している途中だったなんて。もし、これが実用化されたら……しかも、あの戦技研に。
俺の耳にも聞こえたよ。
その衝動に身を任せろ。ってさ」
それは、今朝見た悪夢の中の言葉。
聞き取れはしなかったが、いつの間にか頭の中に刻まれていた。
「彼女は死んだよ。あんたにそのmicroSD渡した後にヤクザの前で首を掻き切ってる。もちろん、それが、彼女への“指令”だったんだろ」
諦めた。というより、観念したようにハルが話し始めた。
「さっきの質問への答えだけど……microSDの中身の指令。俺は戦技研の雇われたわけじゃないから、中身は推測になるけど、おそらく、黒服の女と大差ない。だれかに、次のmicroSDを届けて、その後証拠隠滅を図れってとこだろ」
これは嘘ではないと思う。最初に質問したのだが、アキの答えの見当はついていた。
「……まず、最初にその研究を始めたのは、一人の大学生だった。らしい。
そいつは、臨床心理学を学んでいた。その中でも、そいつが注目していたのは催眠療法。
この場合の催眠療法ってのは簡単に言うと、まず、ある種の光の点滅によって対象者を催眠状態にして、心の枷を取り払う。それによって、ストレスからの解放を促して、精神的安寧を得る……とかいう研究だった。
でも、できあがったものは……さっきあんたが言った通りのものだ。
最初は偶然だったらしい。あらゆるサンプルを作っては、友人を実験台にしてたんだと。それを咎められて、腹いせに“自殺しろ”と、“命令”を出したら、成功した? それって成功なのか?
まあ、そんなわけだ。
全部伝聞だから、詳しいことは聞かないでくれ。専門外だしな。てか、多分あんたの方がちゃんと理解してるだろ。」
お手上げというように両手を上げて、アキは言う。
正直、データができた経緯なんてスイにはどうでもよかった。どうせ、ろくなことじゃないだろうと思っていたのがその通りだっただけだ。
「あんたを襲ったあいつら。ガラの悪い連中大体の見当はついてるよな?」
当然。という口ぶりだった。
まあ、当然、スイにも分かっている。
「広域暴力団“勘解由小路組”の傘下の“四犀会”……の下っ端」
やくざを甘く見てはいけない。半分アマチュアのチンピラではなく、本物のやくざは性質が悪い。だか、所詮、昨夜の手合いは“下っ端”だ。お粗末なやり口がそれを物語っている。
「そのとおり。
で、さっきいった、その手法を開発した大学生を雇ったのは、もともと、戦技研ではなくて、四犀会のやつらだった。
大学を出た後、研究資金ほしさにヤクザに雇われたわけだ。まあ、結局はさらに金を出してくれる戦技研に寝返ったわけだけど。
そいつ、残念ながらあまり有能ではなかった。
光の点滅による催眠なんてそんなに独創的な話じゃないしな。枷を外す方法を見つけ出したのは本当に偶然だったんだ。まあ、もともと治療目的での研究が、とことん道をそれているのでも、無能さ加減がわかるよな。成果を出せと言われても、現在わかっている以上の答えを探し出すことができない。そこでだ……」
そこまで話して、アキがちら。とスイを見る。
「人体実験……か」
その視線に促されるまま、スイが答えた。
結局、自分の選ばれた理由も、想像通りだった。情報工学の技術を持っているプラス孤独で他人とのかかわりを最小限にしている人間。
スイは、まさにうってつけの人選だったのだろう。
「まあ、“人体実験”は戦技研のお得意だ。
あんたに仕事を回したエージェント以外にも何人かが紹介した10人にあのフラッシュが送られてる。みんな、ある程度以上の情報技術のスキルを持った者だ。
これは、暗号解読と称した刷り込みに相当な時間がかかるからだ。個人差はあるらしいけど、最短でも30時間といわれてる。素人では、早々に諦めてしまう可能性が高いが、プロなら簡単に諦めたりしないだろ?
ちなみに……部屋の盗聴器は戦技研の仕事だよ。前催眠の進捗を確かめるためだと思うけど、あんたメモリを開いたあと、殆ど外出しなかっただろ? なかなか盗聴器しかける隙がなくて戦技研のやつらも焦れてたんじゃない?
ばら撒いた10本のうち、ファイルが開かれたのは7本。これは、意外と多いと思ったけど、ま、プライドってやつ?」
からかうように顔を見つめられて、少しだけカチンとくるが、本当の事なので反論できない。スイも自分の能力を過信していた一人だ。どんなデータが入っていても自分なら大丈夫だと。結局、その過信すらも利用されていたと考えると、杜撰かと思っていた“人体実験”もなかなかの計画だったと思えなくもない。
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