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「さて……それじゃ何から話そうか」
挑戦するような赤い瞳。
やっぱり、綺麗だと思う。
きっと、彼は自分を値踏みしているんだと思う。話すに足る相手なのかどうか。
認めさせなければならない。自分自身の能力で。
「その前に」
軽く片手を上げて、スイは言った。
「一つ。聞いてもいいか?」
これ以上、相手のペースで話をさせるわけにはいかない。
「答えられることなら」
どうぞ。というように、アキが手を差し出す。
この質問で、形勢を逆転させる。そんなカードをスイは持っていた。
「このmicroSDにはどんな指令が入ってる?」
左手の指先に持った、microSDをアキの目の前に差し出して、スイがした質問に、アキの表情が変わった。
「それは、どういう意味で?」
スイが油断ならない相手だと、認めた。そういう視線だ。それは、スイの切ったカードが核心をついていることを意味している。
「そのままの意味だよ」
同じく左手にもったフラッシュメモリを強調するように軽く振る。
「これが前催眠。ある一定の光の点滅の周期を使った催眠術? みたいなもんだな。約35分ほどの周期で繰り返される光の点滅を5~60回視聴することで、内的衝動に対する倫理観や防衛本能を破壊、いや休眠させることができる。そんなとこ?」
今度はスイの方から挑むような視線をアキに投げる。
完全に表情が変わっている。今にも銃口が自分に向くんではないのかと思うような表情だ。
けれど、恐ろしくはない。彼はこのゲームのルールを破ったりしない。そう、確信に近い思い。そして、自分の認識に間違いがなければ、今、彼が暴力に訴えるのは、ルール違反だ。もちろん、スイ自身も。だ。
「気付いてたのか」
ふ。と笑ってアキは言った。
「いや。気付いたのは今朝だよ。や……昨夜か? とにかく、確認したのは今朝だ。そのせいで、招かざるお客様のご訪問を受けることになったけど。あれ、“戦技研”の人?
あの、フラッシュメモリは発信機つきだろ? やっぱり、検証時間は10分でなくて、5分にしてよかった」
フラッシュメモリに発信機がついているだろうことは、想像に難くなかった。だから、無理にでも短時間で検証を終わらせた。まあ、5分というのはただの賭けで、実際には3分で追い詰められる可能性もあったのだが。
PCから抜いて移動したのも、発信機の存在を半ば、確信していたからだ。電源が供給されていたら、ここもすぐにばれてしまう。
「……てかさ。最初にあのフラッシュを開いた時点で気付いてもよかったくらいだ。
Laboratory of Strategic Technology
戦略技術研究所。その名前が最初から示されてたんだ。
5日も暗号解読に費やした俺の方が間抜けだな。あらゆる暗号の法則に則って、あらゆる可能性を考えたけど、結局、罠にはまっただけってことだ。頭は痛いし、イライラするし、妙な焦りがいつも付きまとって。あれは、前催眠の“副作用”だ」
依頼文に書かれていたアドレス、LST。
一般人はおよそ一生かかわりあいになることはないだろう。それは、戦闘に使うことを前提とした技術を開発・研究する自衛軍管轄の組織だ。
いろいろと噂は聞いているが、兵器の開発などのハード面より、主に人間をいかに正確無比な戦闘兵器に変えるかを研究しているらしい。人体実験まがいの研究方法がたびたび問題になっているが、研究の成果をほしがる(それも、かなりの権力を持った)人間は少なくないらしく、真実は握りつぶされ、大々的に報じられることはなかった。
「いろいろとヤバい噂だらけの組織だよな。曰く“人間の戦闘機械化”だっけ。胸糞悪い連中だ。
そんな奴らが送りつけてきたデータだ。よく考えれば、ただの“暗号解読”なわけないよな。
いくら、“暗号”を解読しようとしても無駄なわけだよ。あんなものには何の意味もないんだし。大体、約50億文字って。一人が一日8時間全く休まず読んでも約100年。解読できたとしても、内容を理解する前に、人生終わるよ?」
アキは全く口を挟まない。だから、スイは続けた。
「“人間の戦闘機械化”と、“解けない暗号”この二つを考え併せて、データを見直せば、残っている要素は“画面のちらつき”だった。言いかえれば“光の点滅”。データを調べ直してみたら、34分47秒にごとの周期で同じ点滅を繰り返しているのが分かった。それは、人間の脳の情動をつかさどる部分の脳波によく似ている。多分、光の点滅で脳波を意図した形に導く。って感じか?
5~60回の視聴。って言ったのは、奴らが動いたのが5日目だから。まあ、重複や欠損もあった上で、2000分程度視聴させたいという意図が見える」
暗い部屋の電灯のちらつき。それを見て、心に過ったこの仮説を、検証するのは容易ではなかった。35分周期の光の点滅を、たった5分で確認しなければならなかったからだ。でも、何の苦労もなかったかのようにスイは言った。
「さらに、その上で……あの黒服の女。あの人も“被験者”なんだろ? 前催眠で、指令を受けられる状態を作り出して、命令を与える。それが、あのmicroSD。
つまり。
これは人体実験だってことだ」
それが、スイの導き出した結論だった。
挑戦するような赤い瞳。
やっぱり、綺麗だと思う。
きっと、彼は自分を値踏みしているんだと思う。話すに足る相手なのかどうか。
認めさせなければならない。自分自身の能力で。
「その前に」
軽く片手を上げて、スイは言った。
「一つ。聞いてもいいか?」
これ以上、相手のペースで話をさせるわけにはいかない。
「答えられることなら」
どうぞ。というように、アキが手を差し出す。
この質問で、形勢を逆転させる。そんなカードをスイは持っていた。
「このmicroSDにはどんな指令が入ってる?」
左手の指先に持った、microSDをアキの目の前に差し出して、スイがした質問に、アキの表情が変わった。
「それは、どういう意味で?」
スイが油断ならない相手だと、認めた。そういう視線だ。それは、スイの切ったカードが核心をついていることを意味している。
「そのままの意味だよ」
同じく左手にもったフラッシュメモリを強調するように軽く振る。
「これが前催眠。ある一定の光の点滅の周期を使った催眠術? みたいなもんだな。約35分ほどの周期で繰り返される光の点滅を5~60回視聴することで、内的衝動に対する倫理観や防衛本能を破壊、いや休眠させることができる。そんなとこ?」
今度はスイの方から挑むような視線をアキに投げる。
完全に表情が変わっている。今にも銃口が自分に向くんではないのかと思うような表情だ。
けれど、恐ろしくはない。彼はこのゲームのルールを破ったりしない。そう、確信に近い思い。そして、自分の認識に間違いがなければ、今、彼が暴力に訴えるのは、ルール違反だ。もちろん、スイ自身も。だ。
「気付いてたのか」
ふ。と笑ってアキは言った。
「いや。気付いたのは今朝だよ。や……昨夜か? とにかく、確認したのは今朝だ。そのせいで、招かざるお客様のご訪問を受けることになったけど。あれ、“戦技研”の人?
あの、フラッシュメモリは発信機つきだろ? やっぱり、検証時間は10分でなくて、5分にしてよかった」
フラッシュメモリに発信機がついているだろうことは、想像に難くなかった。だから、無理にでも短時間で検証を終わらせた。まあ、5分というのはただの賭けで、実際には3分で追い詰められる可能性もあったのだが。
PCから抜いて移動したのも、発信機の存在を半ば、確信していたからだ。電源が供給されていたら、ここもすぐにばれてしまう。
「……てかさ。最初にあのフラッシュを開いた時点で気付いてもよかったくらいだ。
Laboratory of Strategic Technology
戦略技術研究所。その名前が最初から示されてたんだ。
5日も暗号解読に費やした俺の方が間抜けだな。あらゆる暗号の法則に則って、あらゆる可能性を考えたけど、結局、罠にはまっただけってことだ。頭は痛いし、イライラするし、妙な焦りがいつも付きまとって。あれは、前催眠の“副作用”だ」
依頼文に書かれていたアドレス、LST。
一般人はおよそ一生かかわりあいになることはないだろう。それは、戦闘に使うことを前提とした技術を開発・研究する自衛軍管轄の組織だ。
いろいろと噂は聞いているが、兵器の開発などのハード面より、主に人間をいかに正確無比な戦闘兵器に変えるかを研究しているらしい。人体実験まがいの研究方法がたびたび問題になっているが、研究の成果をほしがる(それも、かなりの権力を持った)人間は少なくないらしく、真実は握りつぶされ、大々的に報じられることはなかった。
「いろいろとヤバい噂だらけの組織だよな。曰く“人間の戦闘機械化”だっけ。胸糞悪い連中だ。
そんな奴らが送りつけてきたデータだ。よく考えれば、ただの“暗号解読”なわけないよな。
いくら、“暗号”を解読しようとしても無駄なわけだよ。あんなものには何の意味もないんだし。大体、約50億文字って。一人が一日8時間全く休まず読んでも約100年。解読できたとしても、内容を理解する前に、人生終わるよ?」
アキは全く口を挟まない。だから、スイは続けた。
「“人間の戦闘機械化”と、“解けない暗号”この二つを考え併せて、データを見直せば、残っている要素は“画面のちらつき”だった。言いかえれば“光の点滅”。データを調べ直してみたら、34分47秒にごとの周期で同じ点滅を繰り返しているのが分かった。それは、人間の脳の情動をつかさどる部分の脳波によく似ている。多分、光の点滅で脳波を意図した形に導く。って感じか?
5~60回の視聴。って言ったのは、奴らが動いたのが5日目だから。まあ、重複や欠損もあった上で、2000分程度視聴させたいという意図が見える」
暗い部屋の電灯のちらつき。それを見て、心に過ったこの仮説を、検証するのは容易ではなかった。35分周期の光の点滅を、たった5分で確認しなければならなかったからだ。でも、何の苦労もなかったかのようにスイは言った。
「さらに、その上で……あの黒服の女。あの人も“被験者”なんだろ? 前催眠で、指令を受けられる状態を作り出して、命令を与える。それが、あのmicroSD。
つまり。
これは人体実験だってことだ」
それが、スイの導き出した結論だった。
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