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SbM
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2階の部屋のドアを開けて、招き入れられ、スイは部屋を見渡した。そこは20畳ほどのリビングダイニングで、落ち着いた色のソファのセットが中央で存在感を放っている。コンクリート打ちっぱなしの壁には額に入った古いポスターが飾られていて、その前にはオーディオセット。数枚のレコードとCDのジャケットが見える。
やっぱり、音楽の趣味は合うみたいだ。だからと言って何だというわけではないのだが。
「すわんなよ」
勧められるままに革張りのソファに座る。きゅと小気味のいい音が響いて、ソファが柔らかく適度な反発をもって、スイを迎え入れる。
「コーヒーでいいよな?」
リビングのつづきのダイニングにあるカウンターキッチンの向こう側から声をかけられて、なんだかまるで友人の家に遊びに来ているような気がしてきた。おおよそ緊張感というものがない。
「……へんだな?」
緊張感がないゆえに、スイは声に出して呟いた。
ほんの1時間ほど前までは、確か命のやり取りがどうのという話をしていた気がするのだが。
「は? コーヒーだめ?」
両手にカップを持って、白い髪の青年、アキが戻って来る。おそらく彼のものである少し大きなオフホワイトのカップと、客用だろうか緑色のカップ。
「いれてきちゃったから、これで我慢してよ?」
それを手渡して、アキはスイの向かい側に座った。それから、長い脚を組んで、カップに口を付けた。
「で? 何が聞きたいんだっけ?」
余裕たっぷりに微笑むアキになんだか全部馬鹿らしく思えてくる。こっちは、朝から命までかけるつもりで頭をフル回転させていたのに。
まるで、今までの出来事が茶番劇のようだ。
「……名前はわかった。それで……どうして俺を助けたんだ?」
思い返してみれば、アキは多分、スイを助けるために訪ねてきたのだ。偶然居合わせたわけではない。でなければ、スイを逃がさないように気配を消して近づいてきた意味がない。
「うん。まあ、仕事……だな」
これは嘘ではないと思う。
この街には(正確にはこの国には)法令ぎりぎり、場合によっては法令の外側で依頼主の希望に沿って活動する人種が存在する。諜報活動、人や物探し、戦闘、暗殺、その活動は多岐にわたる。まあ、いうなれば何でも屋というやつだ。ものすごくダークな。彼らは俗称“ハウンド”と呼ばれていた。
もちろん、そこには素人に毛が生えた程度の者から、単独で某国の大統領を暗殺できる者までが混在している。そして、彼らは当たり前の顔をして、ごく普通の街に暮らしている。
自分のように。彼のように。
多分、彼は“本物”だ。少なくとも、かなり専門的な戦闘訓練を受けている。車の運転の技術も日常生活に必要なレベルを軽く超えている。
だとすると、彼に詳しい話を聞くことはできないかもしれない。仕事である以上、いかに法令外とはいえ、守秘義務が存在するし、裏稼業の人間ほど、情報漏洩には厳しく目を光らせている。
そう思っていた。
「……クライアントからは、協力を要請できるようなら、ある程度の情報開示はやむを得ないといわれている」
「え?」
だから、アキの言葉にスイは思わず聞き返した。
「あんた。プロなんだろ? しかも、結構有名な。強引に目的を達するより、プロ相手なら協力を仰いだほうが良いってこと。あんた次第で、これは依頼になる。だから、状況はちゃんと説明するよ。
まあ、何もかもってわけにはいかないけどな。
とはいえ、全部話さなくても、情報さえあれば、あんたなら、わかるんじゃない。なにが、起きているのか。
ああ、そうだ。ちなみにこの部屋に盗聴器はないから。ここでの会話を誰かに知られる心配はない。信じるかどうかはあんた次第だけど」
そういって、アキはもう一度カップに口を付ける。プロである以上、この会話も情報を引き出すためのミッションだ。
不本意ではあるが、ここまでは、完全に相手の優位に進んでいる。
やっぱり、音楽の趣味は合うみたいだ。だからと言って何だというわけではないのだが。
「すわんなよ」
勧められるままに革張りのソファに座る。きゅと小気味のいい音が響いて、ソファが柔らかく適度な反発をもって、スイを迎え入れる。
「コーヒーでいいよな?」
リビングのつづきのダイニングにあるカウンターキッチンの向こう側から声をかけられて、なんだかまるで友人の家に遊びに来ているような気がしてきた。おおよそ緊張感というものがない。
「……へんだな?」
緊張感がないゆえに、スイは声に出して呟いた。
ほんの1時間ほど前までは、確か命のやり取りがどうのという話をしていた気がするのだが。
「は? コーヒーだめ?」
両手にカップを持って、白い髪の青年、アキが戻って来る。おそらく彼のものである少し大きなオフホワイトのカップと、客用だろうか緑色のカップ。
「いれてきちゃったから、これで我慢してよ?」
それを手渡して、アキはスイの向かい側に座った。それから、長い脚を組んで、カップに口を付けた。
「で? 何が聞きたいんだっけ?」
余裕たっぷりに微笑むアキになんだか全部馬鹿らしく思えてくる。こっちは、朝から命までかけるつもりで頭をフル回転させていたのに。
まるで、今までの出来事が茶番劇のようだ。
「……名前はわかった。それで……どうして俺を助けたんだ?」
思い返してみれば、アキは多分、スイを助けるために訪ねてきたのだ。偶然居合わせたわけではない。でなければ、スイを逃がさないように気配を消して近づいてきた意味がない。
「うん。まあ、仕事……だな」
これは嘘ではないと思う。
この街には(正確にはこの国には)法令ぎりぎり、場合によっては法令の外側で依頼主の希望に沿って活動する人種が存在する。諜報活動、人や物探し、戦闘、暗殺、その活動は多岐にわたる。まあ、いうなれば何でも屋というやつだ。ものすごくダークな。彼らは俗称“ハウンド”と呼ばれていた。
もちろん、そこには素人に毛が生えた程度の者から、単独で某国の大統領を暗殺できる者までが混在している。そして、彼らは当たり前の顔をして、ごく普通の街に暮らしている。
自分のように。彼のように。
多分、彼は“本物”だ。少なくとも、かなり専門的な戦闘訓練を受けている。車の運転の技術も日常生活に必要なレベルを軽く超えている。
だとすると、彼に詳しい話を聞くことはできないかもしれない。仕事である以上、いかに法令外とはいえ、守秘義務が存在するし、裏稼業の人間ほど、情報漏洩には厳しく目を光らせている。
そう思っていた。
「……クライアントからは、協力を要請できるようなら、ある程度の情報開示はやむを得ないといわれている」
「え?」
だから、アキの言葉にスイは思わず聞き返した。
「あんた。プロなんだろ? しかも、結構有名な。強引に目的を達するより、プロ相手なら協力を仰いだほうが良いってこと。あんた次第で、これは依頼になる。だから、状況はちゃんと説明するよ。
まあ、何もかもってわけにはいかないけどな。
とはいえ、全部話さなくても、情報さえあれば、あんたなら、わかるんじゃない。なにが、起きているのか。
ああ、そうだ。ちなみにこの部屋に盗聴器はないから。ここでの会話を誰かに知られる心配はない。信じるかどうかはあんた次第だけど」
そういって、アキはもう一度カップに口を付ける。プロである以上、この会話も情報を引き出すためのミッションだ。
不本意ではあるが、ここまでは、完全に相手の優位に進んでいる。
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