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「うわ。」
その人物に、見覚えはなかった。
「……物騒だな。」
背の高い男だった。スイも成人男性としては平均的な身長だと思うが、おそらくスイより10センチ以上は高い。着ているものこそどこにでも売っているようなTシャツにジーンズなのだが、まるでショーウィンドウから抜け出してきたかのように思える。
けれど、そんなことは彼を形容するのに殆どどうでもいい。否、どうでもいいわけではないのだが、もっと目を引くものがある。
白い。
それが彼の印象だ。
おそらくアルビノと言われる形質なのだと思う。銀色に近い少し長めの髪を後ろに撫でつけて、これしかありえないと思える綺麗なラインの額はぞっとするほどに白い。
そして、その顔の造作はまるで作り物のように全てがあるべき場所にあるべき形で納まっているように見えた。
「これ、下ろしてくんない?」
すと通った高い鼻梁。薄い唇。細い顎のライン。
そして、何よりも(ほかのどんな美しいパーツよりも)目を引くのはその切れ長の瞳。
血の色だ。
スイは思う。
なぜか、ふと、あの黒髪の狼のことをふと思い出す。
彼が狼なら、目の前の男は鷹だ。気高くて白い鷹。
「聞いてる?」
そこまで考えてスイははっとした。こんな状況で何を考えているんだと、気を取り直す。
「……誰だ?」
ナイフは降ろさないまま問う。顔の横に両手を上げて男は攻撃の意思がないことを示している。
「俺? 名前はアキだけど。」
ナイフを突き付けられたまま、男は平然と答えた。降ろしてくれ。とは言っているが、ナイフを気にしているようには見えない。
「ここに……何の用だ?」
それどころか、僅かに笑みすら浮かべている。それが、なんだか嬉しそうにみえるのは気のせいだろうか。
しかし、とりあえず、自分に危害を加えようとしているようには見えない。
「用……まぁ……アレだ」
アキと名乗った男の急に歯切れが悪くなった口調に違和感を覚える間もなく、またしても、スイの危険を察知する感覚器官に、引っ掛かるものがあった。同時にアキと名乗った男も目つきが鋭くなる。
それは、微かな音だった。でも、今度は絶対に聞き逃すはずのない音。
撃鉄を起こす音。銃器の安全装置を外す音。
そちらに視線を送る。僅かな、ほんの僅かな隙だったと思う。
しかし、その隙に目の前にいた男はナイフの切っ先から逃れていた。それどころか、ナイフを奪い取られ、その上肩に担ぎあげられる。
「はあ!?」
襲撃だ。
ということまでは理解できた。ナイフを奪われて(実際にはナイフはあと2本あったが)形勢が逆転したということも理解できた。
しかし、その後の展開に頭が付いていかない。
「わ。ちょっ……おろ……」
仮にも、平均的成人男性(と本人は信じて疑わない)を軽々と抱え上げた男はそのまま走り出した。
暴れて逃げる事は出来たかもしれない。しかし、背中から覗き見る表情が先ほどまでの笑顔とは明らかに違う真剣な顔つきで、それもできなくなる。
かわりにスイは顔を上げて後方を確認した。スイの部屋の入口には数人の男がいて、こちらを指差していた。
ビジネスマン風のスーツに短く刈りそろえられた髪。昨夜の襲撃犯、つまりヤクザとは完全に違うタイプの人間に見えた。ビジネス街とは言い難い、この界隈には珍しい、いや、かなり異質な男たち。
その手にはやはり銃器が握られている。多分、さっきの安全装置を外す音は、これだったのだろう。
「おい! あぶな……」
「ユキ!」
スイの忠告に彼を抱えている男の声が重なる。
その瞬間、銃器で二人を狙っていた男の脳天が弾け飛んだ。間を置かず、もう一人、それから、多少の間を置いてもう一人。汚らしい灰色の壁に赤い花が咲く。
「……そげき?」
担ぎあげられたまま、弾道を予測して見上げる。しかし、“近く”にはそれらしき建物はない。もちろん、肉眼で確認できる範囲に、人影もない。
さらに離れた建物を確認しようとしたときだった。
いきなり、抱えあげられていた肩から放り出される。
「うわっ」
石畳の硬さに迎えられると覚悟を決めた一瞬のち、案に相違してスイは柔らかな何かの上に投げ出された。
そこは、車のリアシートだった。
乱暴にドアが閉まり、次に運転席に白い髪が乗り込んでくる。それから、アキは迷わずささったままのキーを回した。
エンジンが始動するのと、リアガラスが派手な音を上げて割れるのが同時だった。慎重に後ろを覗くと体制を立て直した襲撃犯が、こちらに向けて何か叫びながら銃を向けていた。
スイの頭が割れたリアガラス越しに見えた瞬間また、銃声た響く。
「頭ひっこめてろ!」
叫んで、白髪の男はアクセルを踏み込んだ。
その人物に、見覚えはなかった。
「……物騒だな。」
背の高い男だった。スイも成人男性としては平均的な身長だと思うが、おそらくスイより10センチ以上は高い。着ているものこそどこにでも売っているようなTシャツにジーンズなのだが、まるでショーウィンドウから抜け出してきたかのように思える。
けれど、そんなことは彼を形容するのに殆どどうでもいい。否、どうでもいいわけではないのだが、もっと目を引くものがある。
白い。
それが彼の印象だ。
おそらくアルビノと言われる形質なのだと思う。銀色に近い少し長めの髪を後ろに撫でつけて、これしかありえないと思える綺麗なラインの額はぞっとするほどに白い。
そして、その顔の造作はまるで作り物のように全てがあるべき場所にあるべき形で納まっているように見えた。
「これ、下ろしてくんない?」
すと通った高い鼻梁。薄い唇。細い顎のライン。
そして、何よりも(ほかのどんな美しいパーツよりも)目を引くのはその切れ長の瞳。
血の色だ。
スイは思う。
なぜか、ふと、あの黒髪の狼のことをふと思い出す。
彼が狼なら、目の前の男は鷹だ。気高くて白い鷹。
「聞いてる?」
そこまで考えてスイははっとした。こんな状況で何を考えているんだと、気を取り直す。
「……誰だ?」
ナイフは降ろさないまま問う。顔の横に両手を上げて男は攻撃の意思がないことを示している。
「俺? 名前はアキだけど。」
ナイフを突き付けられたまま、男は平然と答えた。降ろしてくれ。とは言っているが、ナイフを気にしているようには見えない。
「ここに……何の用だ?」
それどころか、僅かに笑みすら浮かべている。それが、なんだか嬉しそうにみえるのは気のせいだろうか。
しかし、とりあえず、自分に危害を加えようとしているようには見えない。
「用……まぁ……アレだ」
アキと名乗った男の急に歯切れが悪くなった口調に違和感を覚える間もなく、またしても、スイの危険を察知する感覚器官に、引っ掛かるものがあった。同時にアキと名乗った男も目つきが鋭くなる。
それは、微かな音だった。でも、今度は絶対に聞き逃すはずのない音。
撃鉄を起こす音。銃器の安全装置を外す音。
そちらに視線を送る。僅かな、ほんの僅かな隙だったと思う。
しかし、その隙に目の前にいた男はナイフの切っ先から逃れていた。それどころか、ナイフを奪い取られ、その上肩に担ぎあげられる。
「はあ!?」
襲撃だ。
ということまでは理解できた。ナイフを奪われて(実際にはナイフはあと2本あったが)形勢が逆転したということも理解できた。
しかし、その後の展開に頭が付いていかない。
「わ。ちょっ……おろ……」
仮にも、平均的成人男性(と本人は信じて疑わない)を軽々と抱え上げた男はそのまま走り出した。
暴れて逃げる事は出来たかもしれない。しかし、背中から覗き見る表情が先ほどまでの笑顔とは明らかに違う真剣な顔つきで、それもできなくなる。
かわりにスイは顔を上げて後方を確認した。スイの部屋の入口には数人の男がいて、こちらを指差していた。
ビジネスマン風のスーツに短く刈りそろえられた髪。昨夜の襲撃犯、つまりヤクザとは完全に違うタイプの人間に見えた。ビジネス街とは言い難い、この界隈には珍しい、いや、かなり異質な男たち。
その手にはやはり銃器が握られている。多分、さっきの安全装置を外す音は、これだったのだろう。
「おい! あぶな……」
「ユキ!」
スイの忠告に彼を抱えている男の声が重なる。
その瞬間、銃器で二人を狙っていた男の脳天が弾け飛んだ。間を置かず、もう一人、それから、多少の間を置いてもう一人。汚らしい灰色の壁に赤い花が咲く。
「……そげき?」
担ぎあげられたまま、弾道を予測して見上げる。しかし、“近く”にはそれらしき建物はない。もちろん、肉眼で確認できる範囲に、人影もない。
さらに離れた建物を確認しようとしたときだった。
いきなり、抱えあげられていた肩から放り出される。
「うわっ」
石畳の硬さに迎えられると覚悟を決めた一瞬のち、案に相違してスイは柔らかな何かの上に投げ出された。
そこは、車のリアシートだった。
乱暴にドアが閉まり、次に運転席に白い髪が乗り込んでくる。それから、アキは迷わずささったままのキーを回した。
エンジンが始動するのと、リアガラスが派手な音を上げて割れるのが同時だった。慎重に後ろを覗くと体制を立て直した襲撃犯が、こちらに向けて何か叫びながら銃を向けていた。
スイの頭が割れたリアガラス越しに見えた瞬間また、銃声た響く。
「頭ひっこめてろ!」
叫んで、白髪の男はアクセルを踏み込んだ。
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