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ぴんぽーん。
不意に鳴ったチャイムの音に、スイは思わず言葉にはならない声を漏らした。
ぴんぽーん。
うその様に間の抜けた音が、再び響く。
「な……に?」
思っていたより早い。5分という設定も、短すぎると思っていたのに。もちろん、普段無人のこの部屋を意味もなく訪ねて来る人物がいるはずがない。
いや。
それよりも。
「なんで……?」
スイは混乱していた。
まったく、何の気配も感じてはいなかったのだ。チャイムが押されるその瞬間まで、ドアの外に人の気配を感じる事が出来なかった。
そんなはずがない。
スイは思う。
どんなに息を殺していても、自分にはわかると、自負があった。たとえ、それが、深く思考に沈んでいるときでも、ヘッドホンを外している自分がそれを見逃すはずがない。そうでなければ、生きては来られなかった。
足音も。息遣いも。匂いも。背筋を撫でられるような殺気も。
何も。何も感じられない。
ぴんぽーん。
そう、チャイムが鳴っている今でさえ。
ぴんぽーん。
それが、意味する事をスイは理解した。
本物だ……。
今までの“自称”ではなく、本物のプロがいる。
ふ。
と、短く息を吐いて、スイはPCに差してあったフラッシュメモリを抜いた。それをmicroSDと一緒にポケットに入れる。
それから、玄関のドアに向かう。
この部屋には裏口がない。あったとしても、そこに向かうことはしなかっただろう。今、ドアの向こうにいる相手が、裏口の存在を失念しているはずがないと、確信できた。そして、チャイムを鳴らした時点で相手は己の存在を隠す気などないのだ。であるとすれば、裏口には、容易には突破できない難関が仕掛けられているはずだ。むしろ、そっちが本命であるほどの。だから、玄関に向かう方が正しい。
向いながら腰の後ろに差したナイフを手に取る。あと3本だったか。あんな雑魚に使わなければよかったと少し後悔した。
それから、やっぱり、今時ナイフって、銃の一丁も持っていればよかったと思う。
心臓のおと。うるさい。
自身の心臓の鼓動に悪態をつく。ドアまでがやけに長く感じられた。
喉がからからになっているのは、昨夜から何も口にしていないせいなのか、ドアの近くまで来て、急に感じられるようになった外からの気配のせいなのかわからない。まるで、すぐにスイが攻撃をしかけないことを確認して、その上で挑発されているような気がしてくる。
ドアのノブに手をかけて、スイはほんの一瞬だけ、動きを止めた。
外からは、人の気配は感じられるが、物音一つしない。
勢いよくドアを開けながら、スイはナイフを外にいた人物の首元に突き付けた。
不意に鳴ったチャイムの音に、スイは思わず言葉にはならない声を漏らした。
ぴんぽーん。
うその様に間の抜けた音が、再び響く。
「な……に?」
思っていたより早い。5分という設定も、短すぎると思っていたのに。もちろん、普段無人のこの部屋を意味もなく訪ねて来る人物がいるはずがない。
いや。
それよりも。
「なんで……?」
スイは混乱していた。
まったく、何の気配も感じてはいなかったのだ。チャイムが押されるその瞬間まで、ドアの外に人の気配を感じる事が出来なかった。
そんなはずがない。
スイは思う。
どんなに息を殺していても、自分にはわかると、自負があった。たとえ、それが、深く思考に沈んでいるときでも、ヘッドホンを外している自分がそれを見逃すはずがない。そうでなければ、生きては来られなかった。
足音も。息遣いも。匂いも。背筋を撫でられるような殺気も。
何も。何も感じられない。
ぴんぽーん。
そう、チャイムが鳴っている今でさえ。
ぴんぽーん。
それが、意味する事をスイは理解した。
本物だ……。
今までの“自称”ではなく、本物のプロがいる。
ふ。
と、短く息を吐いて、スイはPCに差してあったフラッシュメモリを抜いた。それをmicroSDと一緒にポケットに入れる。
それから、玄関のドアに向かう。
この部屋には裏口がない。あったとしても、そこに向かうことはしなかっただろう。今、ドアの向こうにいる相手が、裏口の存在を失念しているはずがないと、確信できた。そして、チャイムを鳴らした時点で相手は己の存在を隠す気などないのだ。であるとすれば、裏口には、容易には突破できない難関が仕掛けられているはずだ。むしろ、そっちが本命であるほどの。だから、玄関に向かう方が正しい。
向いながら腰の後ろに差したナイフを手に取る。あと3本だったか。あんな雑魚に使わなければよかったと少し後悔した。
それから、やっぱり、今時ナイフって、銃の一丁も持っていればよかったと思う。
心臓のおと。うるさい。
自身の心臓の鼓動に悪態をつく。ドアまでがやけに長く感じられた。
喉がからからになっているのは、昨夜から何も口にしていないせいなのか、ドアの近くまで来て、急に感じられるようになった外からの気配のせいなのかわからない。まるで、すぐにスイが攻撃をしかけないことを確認して、その上で挑発されているような気がしてくる。
ドアのノブに手をかけて、スイはほんの一瞬だけ、動きを止めた。
外からは、人の気配は感じられるが、物音一つしない。
勢いよくドアを開けながら、スイはナイフを外にいた人物の首元に突き付けた。
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