真鍮とアイオライト 1

司書Y

文字の大きさ
上 下
366 / 392
月夕に落ちる雨の名は

幕間 三食昼寝溺愛付き 後編 4

しおりを挟む
 ふと、目を覚ます。
 夢を見ていた気がする。
 けれど、どんな夢なのか、覚えてはいなかった。それは昨日まで頻繁に見ていたあの夢ではない。覚えていないのに何故わかるのか。と、問われたらなんと返答していいのかわからない。それでも、違う。と、菫は確信していた。

「菫さん?」

 瞼を数回瞬かせる。それから、視線を移すと、すぐ近くには鈴の顔があった。

「大丈夫……ですか?」

 心配そうな眼差し。

「あ……の……俺、何度でも……呼ぶよ。すず」

 安心させたくて、言ったのだけれど、鈴はすごく驚いた顔をしていた。

「え? ……あれ?」

 そこで、はた。と、気づく。
 そこは、鈴の部屋の、鈴のベッドの上だった。

「俺……」

 身体を起こそうとすると、ずきん。と、頭が痛い。その痛みで、半覚醒から引き上げられる。何を言っていたのか、何を考えていたのか、さっきまでは朧気ながら覚えていたのに、煙が空気に溶けるように消えて、思い出せない。

「いたた」

 はじめに痛んだのは、頭。それから、背中に鈍い痛み。さらにそれを追うように、腰と、ソコが痛んで、菫は言葉を失った。

「ああ……横になって」

 蹲った菫に手を貸して、鈴が身体が楽になるように横たえてくれる。下着しか身に着けてはいないけれど、いつの間にか、身体はきれいに清められていた。
 散々イかされて、最後は記憶がないから、きれいにしてくれたのは鈴だろうと思う。まだ、身体には余韻が残っていて、意識は戻ったけれど、なんだかふわふわとした感覚。

「……すみません。無茶しました」

 悪戯が見つかって、怒られている子供のような顔で鈴が言う。

「抑え効かなくて……菫さんが怪我してるのに……」

 大きな身体を小さく屈めて本当に捨てられた子犬のような顔。それが、堪らなく可愛く見えて、菫はその頭に手を伸ばした。
 届かなくて『痛』と、呟くと、慌ててその頭が下がってきた。

「謝んないでよ。鈴は悪くないよ? 俺……その。煽った自覚あるし……」

 なでなで、と、その頭を撫でながらできるだけ優しく笑いかけると、鈴はホッとしたような表情になった。
 思い出すと顔から火が出そうだ。たくさん。如何わしいことを言った覚えがある。

「てか……あの……応えてくれて、ありがと」

 菫だって男だ。好きだと思っている人に、菫が言ってしまったようなことを言われたら、我慢が効かなくなることくらい想像はつく。
 だから、鈴は何も悪くないし、むしろ応えてくれたことが、嬉しい。

「……そんなに甘やかさないでください」

 お礼をいう菫のはにかんだような表情に、鈴は少し困り顔になる。けれど、隠しきれない喜びが溢れているのは、誰が見たって明らかだった。

「俺……どんどん贅沢になっちゃいますよ? 反省したばっかりなのに」

 苦笑して、鈴は菫の横に寝転んで、腕枕をしてくれる。

「反省?」

 オウム返しで返すと、鈴はまた、困ったような表情になった。顔が近い。吐息がかかるほどだ。
 一瞬、これが夢なんじゃないかと、嫌な考えが頭をよぎる。本当は梁の下敷きになって、今際の際に見ている最期の悪足掻きなんじゃないだろうか。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~

みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。 成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪ イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

君の声が聞こえる【高校生BL】

純鈍
BL
 低身長男子の佐藤 虎太郎は見せかけのヤンキーである。可愛いと言われる自分にいつもコンプレックスを感じていた。  そんなある日、虎太郎は道端で白杖を持って困っている高身長男子、西 瑛二を助ける。  瑛二はいままで見たことがないくらい綺麗な顔をした男子だった。 「ねえ虎太郎、君は宝物を手に入れたらどうする? ……俺はね、わざと手放してしまうかもしれない」  俺はこの言葉の意味を全然分かっていなかった。  これは盲目の高校生と見せかけのヤンキーがじれじれ友情からじれじれ恋愛をしていく物語  勘違いされやすい冷徹高身長ヤンキーとお姫様気質な低身長弱視男子の恋もあり

処理中です...