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月夕に落ちる雨の名は
幕間 三食昼寝溺愛付き 前編 1
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鈴が菫の乗ってきた車を社に取りに行っている間、菫は鈴の家のリビングにいた。軽くシャワーを浴びて、埃や汚れを落として、鈴に貸してもらった服に着替えて、クロスのソファに座って、天井を見上げる。
夢を見ているみたいだった。
幸せな気分にふわふわ。と、浮かび上がりそうだ。
黒羽のことは何も解決していない。でも、なんとなく細いけれど光が見える。黒羽は望んでいないかもしれないと思うと、ぎゅ。と、心臓を握られるような気持ちになるけれど、なるべくそれは考えないようにした。生きていくか、消えるかの選択は黒羽に委ねるしかない。菫にできるのは、黒羽が自分で選択できるように選択肢を増やしておくことだけだ。生きないのと、生きられないのは違うように、やらないのと、やれないのは違う。だから、菫ができることはしようと決めた。それがたとえ無駄だとしても。
状況が好転したわけではない。
気持ちは決まっただけ、少しは気楽になったけれど、黒羽を思うと心は沈む。
それでも、幸せだと思う気持ちを抑えることはできなかった。
鈴が笑ってくれた。
鈴に手が届いた。
鈴の声が聞けた。
鈴が好きだと言ってくれた。
もう、それだけで、世界が変わって見えた。
うまく行かなかったことも、何とかできるようなそんな勇気が湧いてきた。
我ながら現金だと思う。
思うけれど、菫の幸福の殆どは鈴とある。
大抵の辛いことは、鈴がそばにいてくれれば乗り越えられると、今は強気になれる。きっとまた、色んなことがあって、自分が信じられなくなったり、すぐに嫌われたのでないかと悩んだりもするだろう。
いつか、本当に鈴に別の好きな人ができるかもしれない。けれど、それも、今は考えない。
今は、鈴が好きだと言ってくれた言葉で、心をいっぱいにしていればいい。
天井の照明を見ながら、菫はそんなことを考えていた。
「はやく……帰ってこないかな」
思わず呟く。
本当は一緒に社へも行きたかった。一時でも離れたくなかった。でも、鈴が許してくれなかった。
身体のことが心配なのもあるけれど、今日はアイツに鉢合わせするかもしれないような場所に菫を近づけたくない。と、素直に言われたら、何も言えなくなった。
待ってるから、早く帰ってきて。と、自分でもサブイボが出そうなことを思わず言ってしまったのに、鈴は引くどころか、嬉しそうに笑って、すぐに帰ってきます。と、キスをくれた。
ナニコレ?
少女漫画ですか?
と、一人になってから赤面しまくったのは言うまでもない。そして、鈴を待つ間、シャワーを使わせてもらって、一応。一応ね。と、独りで言い訳をしながら、準備までしてしまったのも言うまでもない。
ソファの上で、膝を抱える。少しだけ、心細い。幸せが急に戻ってきたから、夢なんじゃないかと思ってしまう。
けれど、抱えた膝からは鈴の匂いがした。鈴の服を借りているからだ。
それくらいのことが、すごく嬉しい。
ふふ。と、一人笑いをしてから、思わず、気持ち悪っ。と、ツッコミをいれてしまった。
夢を見ているみたいだった。
幸せな気分にふわふわ。と、浮かび上がりそうだ。
黒羽のことは何も解決していない。でも、なんとなく細いけれど光が見える。黒羽は望んでいないかもしれないと思うと、ぎゅ。と、心臓を握られるような気持ちになるけれど、なるべくそれは考えないようにした。生きていくか、消えるかの選択は黒羽に委ねるしかない。菫にできるのは、黒羽が自分で選択できるように選択肢を増やしておくことだけだ。生きないのと、生きられないのは違うように、やらないのと、やれないのは違う。だから、菫ができることはしようと決めた。それがたとえ無駄だとしても。
状況が好転したわけではない。
気持ちは決まっただけ、少しは気楽になったけれど、黒羽を思うと心は沈む。
それでも、幸せだと思う気持ちを抑えることはできなかった。
鈴が笑ってくれた。
鈴に手が届いた。
鈴の声が聞けた。
鈴が好きだと言ってくれた。
もう、それだけで、世界が変わって見えた。
うまく行かなかったことも、何とかできるようなそんな勇気が湧いてきた。
我ながら現金だと思う。
思うけれど、菫の幸福の殆どは鈴とある。
大抵の辛いことは、鈴がそばにいてくれれば乗り越えられると、今は強気になれる。きっとまた、色んなことがあって、自分が信じられなくなったり、すぐに嫌われたのでないかと悩んだりもするだろう。
いつか、本当に鈴に別の好きな人ができるかもしれない。けれど、それも、今は考えない。
今は、鈴が好きだと言ってくれた言葉で、心をいっぱいにしていればいい。
天井の照明を見ながら、菫はそんなことを考えていた。
「はやく……帰ってこないかな」
思わず呟く。
本当は一緒に社へも行きたかった。一時でも離れたくなかった。でも、鈴が許してくれなかった。
身体のことが心配なのもあるけれど、今日はアイツに鉢合わせするかもしれないような場所に菫を近づけたくない。と、素直に言われたら、何も言えなくなった。
待ってるから、早く帰ってきて。と、自分でもサブイボが出そうなことを思わず言ってしまったのに、鈴は引くどころか、嬉しそうに笑って、すぐに帰ってきます。と、キスをくれた。
ナニコレ?
少女漫画ですか?
と、一人になってから赤面しまくったのは言うまでもない。そして、鈴を待つ間、シャワーを使わせてもらって、一応。一応ね。と、独りで言い訳をしながら、準備までしてしまったのも言うまでもない。
ソファの上で、膝を抱える。少しだけ、心細い。幸せが急に戻ってきたから、夢なんじゃないかと思ってしまう。
けれど、抱えた膝からは鈴の匂いがした。鈴の服を借りているからだ。
それくらいのことが、すごく嬉しい。
ふふ。と、一人笑いをしてから、思わず、気持ち悪っ。と、ツッコミをいれてしまった。
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